第17話 ネクロマンサーの町で
王族の墓所があるその町は、墓守達が暮らす場所というどこか荘厳や静謐と言った言葉の似合う響きとは異なっていて、清潔さを感じさせる町並みと墓所を巡る観光客をもてなす為の賑やかな店の並ぶ鮮やかな場所だった。
細かく区切られた通りは初めて訪れた私にはどうにも現在位置を把握しづらく、似たような曲がり角が続く様子はまるで迷路のようであった。お陰でこの町のギルドを訪れるだけでも一苦労となってしまう。
ネクロマンサーとしての経験値はここに来るまでに霊体と交流をしていた事で順調に蓄積されて、今ではこの生きている人々の賑やかさの中でも彼らの存在を感じる事ができる程度には成長していた。けれどそれとは別に魔神対策として戦う力を手に入れる必要もある。その手懸かりを求めてギルドを覗いてみたが、そこで私は勇者たる彼に続いて再びかつての仲間と再会した。
かつてのパーティーの仲でももっとも親しかった魔法使いだ。久々に出会った旧友と満面の笑顔で再会を喜ぶ。勇者たる彼と再会した時は多少ぎこちなさを感じたものだが、彼女に対してそういった緊張も気負いも無かったのは、同性の気安さか、それともかつては姉と呼び慕った彼女の柔らかな性格故か。どちらにせよ私は再び良い出会いに巡り会えた。
食事を挟んで互いの近況を語り合う。魔人との戦いで攻撃専門の魔法使いと、癒しの加護を操る魔法使いと2つの異なる魔法使いのジョブを入手していた彼女は、今や多彩な魔法の知識を持つ賢者と呼ばれ、各地のギルドや魔法のジョブを持つ人達が学ぶ場所を回って講演をしていると言う。
柄ではないとか、毎日疲れるとか、そういう気負わない態度も、それでも充実した日常を送っているのだろうと思わせる輝く瞳も以前のままで、賢者などという高尚さを感じさせる肩書とは無縁の優しい笑顔が私の心に安らぎに似た気持ちを与えてくれた。
私の側も近況を話し、ネクロマンサーのジョブ手に入れた事と、その力を使いこなしたい事を話すと、不意に彼女の表情が真剣なものへと変わる。
「ネクロマンサーかぁ。それでこの町にね、うん、良い考えだよ。だけど今大変な事になっていてね」
彼女は周囲の様子を伺い、声を小さくする。何事かと私も彼女に顔を寄せてその話に集中する。
「この町に眠っているかつての王族の方々が、魔人が居なくなった事で新しい危機を告げに来たって。それで今は皆慌ててるのよ」
それはこの町の機密事項で、ただ私がここで学ぼうとする上で何処かでたどり着くであろうという彼女の私の偵察者としてのジョブを信頼しての暴露だった。
確かにそれを隠されたままで今は忙しいから私に構っていられないなどと断られたりしたら。
「あなた、やりすぎる所があるから、自分で調べようとするでしょ?」
困った、というか無鉄砲でできの悪い妹分を気遣ってくれるような顔と言葉には、仰る通りですと頭を下げることしか出来ない。いくらか経験を積んだつもりではあったが、やはりこの「姉さん」には敵わないと思い知らされて嬉しくなってしまう。
しかしジョブを駆使して無理やり暴こうとする前に打ち明けられたその内容は、嬉しさに浸っている場合では無いものだ。
この町の人々も、彼女も。魔神の存在に気付いている。ならば私も手の内を明かさなくてはならない。私がネクロマンサーのジョブを得た切っ掛けとそこで得られた新たな危機の存在を明かすべく、今度は私が声を潜める番だった。
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