第16話 霊体
楽しい時間はあっという間に過ぎるというもの。彼らの手伝いを終えた私は再び1人で道を歩いている。
地図によれば町まで後少しといったところだろうか。順調に行けば日が暮れる頃には到着するはずだ。
起伏のある道は私の体力をじりじりと奪っていくが、それくらいならばどうという事もない。顔に浮かぶ汗を拭いながら歩みを進めることしばらく。私はふと、自分の回りに何かが漂っている事に気がついた。
ごく小さな光点だ。雪でも降り始めたのかとも思ったが、今日はそれほど寒くもないし、何より数も多くない。ひとつふたつが羽虫のように私の周囲を漂っている。
私の知識の中には無いものであるはずだが、私の中に芽生えたスキルがその正体を教えてくれた。
霊体だ。肉体を失った者はこの姿になって大気を漂っているというのは話に聞いた事がある。あの魔人も剣に己を封じなければこの小さな存在に成り果てていたのだろう。
常人には見ることも感じる事も叶わないというこの存在は、一部のジョブ、スキルの持ち主ならば交流を得ることが出来るというが、ネクロマンサーもどうやらそのひとつであるらしい。
試しに語りかけてみると、この霊体は何やら喜んだ様子で弾み、私に言葉を投げ掛けてくる。どうやらこの存在はずいぶん前から私の周囲を漂っていて、私に語りかけていたらしい。
霊体は生きるものとの交流を欲していると小さな存在は教えてくれた。確かに生前はそのような性分ではなかったであろう魔人ですら私との会話を楽しんでくれたのだから、そういうものなのだろう。
そして彼らは自分を感じてくれる生きるものを見つけると、その存在に引かれるものらしい。実際、私が彼らに気付いたからだろう、私の周囲に次々と光点が近づいてくるのが見えた。
何故急に、とは思ったが恐らく無意識の間に彼らの存在をうっすらと感じていた私は僅かずつネクロマンサーとしての経験を積み上げ、その高まった力によって霊体の存在を目視できるに至ったのだろう。
このジョブを使いこなすことでスキルの精度が向上したり、新たな類いのスキルが身に付く事を、冒険者の間ではレベルアップと呼んでいた。平和な世の中ではそれほどの経験を重ねる事もなかったから、久方ぶりの経験ではある。
そう理解してみれば、霊体と言葉を交わす度に彼らの言葉が鮮明に聞こえ、意味を理解することも容易くなっていくのを感じる。最初はか細く、途切れ途切れに聞こえていた言葉も、今でははっきりと光点達の個性を感じるような言葉で聞こえてくる。
どうやら霊体との交流によってネクロマンサーとしての経験は蓄積されていくものであるようだ。折角だからこの道中は彼らと共に歩くことにしよう。
その思い付きが良かったのか、この近辺に住むという彼らは、町への最短距離を教えてくれた。少しばかり足元の悪い場所を歩くことになってしまったが、それでも随分時間を短縮できたように思う。
そのあいだに話を聞いたところによれば、どうやら霊体は私がネクロマンサーのジョブを得て間もない頃から私の存在を感じていたはずだという。町中ではそんな気配を感じたことは無いはずだが、霊体が言うには生きるものが多い場所では元々希薄な存在である彼らを検知することは難しくなるのだというから、純粋に私が気付いていなかっただけで、きっと町に住む霊体達も私の周囲を漂っていたはずだとのこと。
私の修行不足であるとはいえ、それは申し訳ない事をした。このまま経験を積めば町に居る彼らの仲間も感じる事が出来るだろうから、その時には彼らと改めて交流を持とうと思う。
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