第13話 街道を行く

 町を出るにあたって、昨晩はかねてからの約束だった若い騎士との食事を楽しんだ。久方ぶりに2人で会うことになったわけではあるが、私の記憶にあるよりも彼はずっと情熱的で積極的で少しだけ強引だった。


 そのお陰で楽しく、思い出話から彼の夢まで雑多な話で盛り上がり、食事の味も何倍も美味しく味わえたように思う。旅立ち前に過ごす一夜としては最大限の楽しい夜を過ごせたお陰で、旅の足取りもいくらか軽くなっていた。


「やっぱりいやがった!」


 と、いうのにこれである。朝から酒に濁った男の声を聞くというのは精神衛生上あまり良くないもののように思う。それが敵意と悪意に満ちたものならば尚更だ。


 私を囲むのは、十数人の男達。いずれも見覚えのある顔ばかりだ。先日引き渡した詐欺師の一団だったが要領よく逃げ出したものがいるのだろう。聞くに耐えない罵詈雑言の多くは、私のせいでご破算になったらしい彼らのなんの根拠もない野望の数々が含まれていた。


 軍によって多少とも治安が守られている町を離れればこう言うこともよくある話だ。個人単位の荒事は日常茶飯事ではあるけれど、大人数で戦うのは流石に悪目立ちしてしまう、というわけで標的が町を出るタイミングを計って待ち伏せをするというのは少し悪知恵の働くものならわりあい簡単に思い付くところだ。


 それにしても数が多い。多分あの場にいなかった彼らの仲間もいるのだろう。人相の悪い男の群れを見るのはどうにも気分の良くないものだ。


「女一人によってたかって。格好悪くない?」


 呆れ顔で挑発を仕掛けてみる。いつから待っていたのか知らないが、これだけの人数で行儀良く待てるような顔触れには見えない。何かしらの作戦でもあるのだろうか。

 もしかすると軽く口を滑らせてくれる者がいないかと思ったが、どうやら彼らは自分達の手口を黙っておく積もりは無いのだろう。


「強がるのも今のうちだぜ、こっちには偵察者がいるんだ、お前の手の内なんかお見通しなんだよネクロマンサーちゃんよ」


 ああ、どうやら同業者が居たらしい。誰がそうなのか探すつもりもなかったが、彼らは偵察者のスキルで私の動向を探り、こうして待ち伏せていたようだ。


 確かにその手口なら私も偵察者であるとはいえ、まったく警戒していない状態で何の攻撃もされなければ気付くことは難しいだろう。


 それにしても、ネクロマンサーちゃんか。そんな風に呼ばれるとは、どうやら彼らの仲間の偵察者は調べが足りないようだ。ギルドの情報を調べることを怠ったのか、それともギルドに所属しない単なるならず者なのか。いずれにしてもどうやら彼らは私が偵察者であることを知らないらしい。


「昨日は騎士様とお楽しみだったじゃねぇか、俺達も楽しませてくれよ」


 おそらく私の精神的な動揺を誘っての者だろう。彼らは下品な笑いと共に折角の楽しい思い出を汚しにかかってきた。それは確かに私にとっては非常に効果的で不愉快なものだ。ただ彼らにとって不幸だったのは、私がその程度の挑発で怯み、攻め手を失うような初心な性分では無かったことと、良い思い出に泥を塗りたくられるのは、万死に値することだと言うのを知らなかった事。


 何より、私にとって彼らが何十人集まろうとも物の数では無いことだ。殺さないつもりならば、人数の差は脅威であるが、私は既に彼らを許すつもりも逃がすつもりもない。加減の必要もなく処理をするならば町のゴロツキごときがどれほど徒党を組もうとも、怪物の群れの中に財宝と情報を求めて潜入した時の脅威に比べれば何の恐れも感じない。


 果たして彼らが私がネクロマンサーだけでは無いと知ったのは、何人目が倒れた時だろう。知るつもりもないが、最期に身の程を知ったなら彼らにとって多少の救いにくらいはなったかもしれない。


 以前に命まで奪わなかったのは、それが依頼者の望みでは無かったからに他ならない。きちんと罪を償い、ひっそりと暮らすなら、無為に命を奪うことは私も特に好むところではないけれど、こうして群れて報復に来るのならば話は別だ。きっちりと一人残らず止めを刺すことにためらいは無い。


 いくつか予備の武器を用意しておいて良かった。その程度の感想を抱いて私は歩みをすすめる。後に残った彼らだった物は、野の獣が綺麗に処理してくれることだろう。むしろ早くこの場を離れないと、これだけたっぷりとした血の匂いに引かれて群れた獣に囲まれるのは流石に遠慮したいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る