第7話 ギルドの仕事
講習を終えた私はギルドの受付でカルテの更新を依頼する。冒険者の個人情報が記載されているカルテは、ギルドで管理されているが、そこに記載されている内容は冒険者自身で更新しなければならない。
様々な仕事で得た知識や実績は本人でないと計れないところがあるからだ。つまり長く経験を積んだ冒険者ほどそのカルテは厚くなる。私のカルテは中の上か中くらいの厚みにはなってきたと思いたいところだ。
多少面倒臭いと思うこともあるが、この更新作業を怠ると、己の技量に適した仕事を得ることができなくなってしまう。というのもギルドを通じて紹介される仕事はミッションと呼ばれ、それには大きく分けて2種類がある、1つは誰でも仕事に参加する事が可能だが報酬が低いものや公的な機関からの下請け、作業協力のような、ある意味では楽しくない仕事が主である日常的な仕事、通称デイリーミッション。
もう1つは一定以上の経験を積んでいる冒険者か特定のジョブを持つものに対する依頼や、指定がなくとも相応の困難さを伴う危険なものとギルド上層部が判断したもので、こちらはギルド受付が鍵をかけていて、対象者ではない冒険者には閲覧することすらできない事からキーミッションと呼ばれている。
このキーミッションの対象者はギルドがカルテを参考に選定するから、カルテの更新を怠った場合、危険だが貴重な経験を積んだり高価な報酬を得ることができるキーミッションに参加できなくなる。
逆説的に自分を過大評価したカルテを作ることもできるが、その場合は当然身の丈に合わない仕事をすることになるから、怒られたり恥をかく程度なら良いが、最悪命を落としてしまう場合もある。
つまり今回私は、ネクロマンサーになったばかりだと記載することで、ネクロマンサーを指定した依頼の中でも簡単なキーミッションに参加する資格を得た、というわけだ。
もっとも、今の平和な時代にそんな仕事があるのかは疑問であるが。
「ネクロマンサーなあ。今はそういう仕事は滅多に無いんだわ」
「やっぱり」
受付の男は更新を終えた私のカルテに目を通すと申し訳なさそうに肩をすくめた。その巨体と鋭さのある眼光からは分からなかったが接客業向きの性格なのだろう。話しやすい男性だ。
「昔は、死んだ高名な冒険者のアドバイスを聞きたいとか仲間の最期を知りたいとか、そう言うのがネクロマンサーの初心者向けだったんだが、最近は死んだペットに一目会いたいなんて上流階級のヤツが来るくらいだからなあ。気長に待っててくれ」
やはり、死者の魂を扱うというジョブの特性上、それを指定する仕事も限られてくるという事らしい。なお、知識が増えると上流階級の遺産争いの為に呼び出されたりすることもあると言うが、それは浅学である私にはいくらネクロマンサーのスキルを高めたところで力不足になってしまうかもしれない。
それ以前に、上流階級の飼うという愛玩動物はいずれも可愛らしい外見に特化し、彼らの心を癒すために多くのちょっとした技を身につける知性があると聞く。実物をみる機会は滅多にないが、そんな生き物との最期の別れに立ち会うなどという仕事に私は冷静な気持ちで参加できるのだろうか。
貰い泣きするのは堪えなければならないし、自分も愛玩動物に触れてみたいなどという欲求が生まれてしまうのは危険だ。
一冒険者が気軽に飼うことができるようなものでは無いのだから、そんな届かぬ思いと共に働くなど、精神的にかなり堪えるものでは無いだろうか。
「このジョブ、向いていない気がする」
「慣れないうちは皆そんなもんだ、焦っても良いこと無いぞ」
受付の男に励まされながら私はギルドを後にした。ネクロマンサーというジョブの取り扱いに悩みはするが、元々持っている偵察者のジョブも扱いや仕事が限られる類いのものだったのだから、何とかなると思う他無い。
家に帰って旅支度を整える間に心を決めなければ、と気持ちを引き締める事にする。
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