第6話 ジョブとスキル

 ギルド、と一言で言ってもその意味する事柄は非常に多い。そこに所属する様々な技能を持つ人と、その技術を必要とする人の間を取り持ち、仕事を斡旋するという業務だけでなく、所属する冒険者と呼ばれる人々に知識を授けるというのも、大きな業務の一環だ。


 というのも、冒険者という職業を選ぶものには様々な経歴を持つ人がいて、手にしたジョブを用いて正規の国防組織等に加入するための自主訓練の場としたいという志を持つ人、正規の仕事では味わえない危険への欲求を満たそうとする人。


 あるいは何らかの事情で普通の仕事ができない人や、幼くして親の庇護を受けられず、自らの手で生きていかなければならないという子供などと言った幅広い層が、この仕事を選ぶのだ。


 私はどちらかと言えば後者だったけれど、今はそれは良い。


 とにかくそれら雑多な人々が共通して欲するものが知識なのだ。どんな生き方をするにせよ、自分が今持っているジョブはどう言うもので、どういったスキルを得て、どういった展望を持つことができるのか。


 それはこの不思議な宿命と呼ばれるものを使いこなす為に絶対に必要なものなのだ。


 だからギルドはそれらに関する知識を集め、ギルド間で共有することで冒険者に知識を与える機会を複数設けている。


 教育機関のような大きな物から、今回私が受講する個別面談のようなものまで、その規模は様々だ。


 個室に通され、ギルドの持つ教育的意義が書かれたパンフレット読んでそういった事前知識を頭に入れ直している間に、講師が私の前に訪れた。


 と言っても、私とそれほど変わらない年齢の女性であるが、他者に知識を伝達するスキルに秀でた学者のジョブを持つであろう彼女は、知的な雰囲気を持っていて、外見的には私よりも幾分か年上のような印象を受けた。


「いや、久しぶりの受講者があなたでしたか。お噂はかねがね」


 挨拶とばかりに彼女は私の経歴が書かれた、カルテと呼ばれる書類に目を通しながらそのような事を言う。


 私の所属するギルドは本来ここではないが、遠く離れた土地と情報交換を行える通信士と呼ばれるジョブを持つ人々の手にかかれば、カルテに記される簡単な個人情報をやり取りすることはとても簡単だ。


「噂、ですか」


 ただ、私自身噂になるような事はしておらず、疑問が残るが、彼女の一切の悪気無い表情であっさりとその疑問は氷解した。


「読みましたよ、勇者様との情熱的なお話」


 羞恥で机に倒れ付したい衝動を必死にこらえる。そうか、読者であったか。私くらいの年齢の女性が好みそうな体裁の物語だと思っていたが、どうやらその予測は当たっていたらしい。


「あれはただの物語ですから」


 もし情報提供者に会ったら文句の1つも言ってやろう。そう固く心に誓いながら講師に訂正を入れる。


 そうしたアクシデントもありながら、私は新たに入手したネクロマンサーについての講義を受けた。


「ネクロマンサーのジョブを持つ偉人と言えば、不死人の王が居ます」


 そう切り出されると私にも分かりやすい。

 愛する人を甦らせる復活のスキルを用い、当時の倫理に反するとして追放処分を受けた事で不死人を集めた国を興した王だ。


 今では遠く北方に独自の文化を持った国を持ち、不死人は1つの種族として存在している。そういう歴史の中で発端部分については1つの悲恋話として多く語られるところであり、何度か私も目を通した事がある。


「今でもネクロマンサーのスキルは使いどころが限られているので、本格的に訓練するなら不死人の国を訪れる事をお勧めします」


 勧められてはみたが、そろそろ寒さの厳しくなる時期が来る。それは講師も分かっているようで、暖かくなってからと補足を付けた。


 ただ、死者を甦らせる、あるいは魂とよばれるものを使役する、というこのジョブが扱うスキルの数々が扱いにくいのも事実だ。


 人の命、というものを自由に扱うというのは嫌う人も多く、そういう人に配慮して様々な規制を作っている国も少なくない。


 だから今後このジョブとスキルを磨こうと思うと、多くの制限が私を待っているのだ。


「事情は話せないけど、急いでいるんです。なにか良い方法はありませんか」


 一つ一つの法規を学び、ネクロマンサーとして正規の職を目指すつもりもないが、急ぎこのジョブを使いこなしたい。


 そのような私の無理難題に講師は少しの困り顔の後に1枚のシートを用いて答えてくれた。


 スキルシートと呼ばれるこの文書は、ギルドがこれまで集めたスキルに関する情報を整理したもので、希少であっても深く研究されているネクロマンサーにもそういう情報が整理されている。


 その中で講師は1つのスキル群を指で示した。疑似魂魄と呼ばれるそのスキルは、ネクロマンサーが持つ魂と交流するスキルを進化させたもので、魂に似た何かを作り出し、人工物に埋め込み、自律行動をさせるスキルだという。


「非常に入手が難しいスキルですが、お聞きした情報から言うと挑戦してみる価値はあると思いますよ」


 言われて、頷く。倫理や法に気を遣わず、季節的に赴くのが困難である地域を訪れる必要もなく、スキルを高めるには確かにこの方向しか無いのだろう。


「ただ問題は、ネクロマンサーのスキルでは必要な構造を持つ人工物が作れない事ですね」


 スキルを手に入れても実行は容易では無いらしい。複雑な構造を持つ人工物はやはり技術職にあたるジョブの持ち主で無ければならず、それらの技術の結晶たる人工物は総じて高価だ。


「良く分かりました。ありがとう、後は何とかしてみます」


 多難すぎる前途に目眩を感じながらも、辛うじて礼を述べる。スキルシートと幾つかのカタログをもらい受けて、私の面談は終わった。

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