第24話 体育祭練習、真っ盛り

 今も体育祭の練習、真っ只中である。どこの団も必死になって応援練習に取り組んでいる。やっぱりみんな勝ちたい気持ちが強いのだろう。もちろんオレたちも負けてはいられない。最後の体育祭、真剣に企画を考えた3年生の姿を見ていると、やはり先輩たちのためにも優勝を目指して頑張りたいと思う。

 行進の優勝や応援合戦の優勝、あるいは競技の優勝。それにそれぞれの学年で踊るダンスや舞踊の優勝、それをもとに最終的な総合優勝が決まる。ただしそれぞれで点数が決まるので、準優勝が1つや2つあっても総合優勝できることもある。なので最後まで諦めずに頑張ることが大事なのだ。



 応援合戦の練習もだいぶ進んできた。みんな一連の流れをしっかりと覚えることができている。動きもキビキビとしていて、メリハリがあって見栄えも良くなってきている、タイミングは以前よりは良くなってきていると思う。あともう少し揃えることができれば申し分ないクオリティーになることだろう。

 今日もかなり気温が高く、蒸し暑い気候だ。水分補給として学校の予算でポカリの粉末タイプが支給されている。それを3年生が大きいタンクで作って持って

きてくれている。ここで休憩の時間になった。

 氷で冷やされていて、熱い体が生き返るようだ。喉が潤って、すごく元気が湧いてきた。ポカリは体液の組成に近いので、すぐに体内に吸収される。オレの家では熱が出たり、風邪をひいたりした時にはポカリが伝家の宝刀だった。そのくらい家族全員がお世話になってきた。



 他のみんなもポカリを飲んですごく癒されているようだ。やっぱりポカリは人類共通のエッセンスかもしれない。水分補給の後は日陰に入って、それぞれがうちわを仰いで涼んでいる。

 テントのところにはミスト扇風機が設置されている。気化熱を利用しているわけだが、そのおかげでその周囲は他よりも涼しくなっている。みんなその場所に集まっている。みんなが密集してしまうと、かえって暑くなってしまう気がしなくもないが。

 休憩をしっかりと取った後は、また練習再開だ。練習できるのは夕方5時までだ。多少遠くから通学している人もいるし、これからどんどん日が短くなる。なので短い時間で少しでも効率よく練習しなければならない。



 タイミングを合わせるにはどうすればいいのか、みんなでディスカッションすることになった。合図はあるわけなので、それにどう反応するのかが大事だという意見が出た。反射神経は人それぞれ個人差がある。それをゼロにするというのは現実的ではないだろう。

 タイミングをより合わせやすくなる方法として、一呼吸置くというものが上った。その一呼吸というのも人それぞれかもしれない。タイミングを合わせるために、太鼓の合図の後に手でリズムを取ってカウントすることにした。みんなでタイミングが合うように、何度かトライしてみた。

 しばらく繰り返すうちに、だいぶタイミングが合うようになってきた。やっぱり繰り返し練習することが大事だなと感じた。かなり形になってきたところで、実際にパネルを持ってやってみることになった。



 パネルがあるか無いかで多少動きが変わるだろうけども、団結力が高まっている今ならきっと上手くいくはずだ。団長のセリフの後に、太鼓の合図が鳴った。

そしてみんながパネルを上に掲げた。

 オレたちはひな壇の上なので直接みることはできないが、3年生が状況を見ていた。そして今までで最高のクオリティーだと言ってくれた。まだ練習の段階ではあるものの、3年生たちは今にも涙を流すのではないかというくらいに感動を噛み締めているようだ。

 本番では先輩たちを泣かせるくらいに完成された動きができるようになりたいと思う。それが先輩たちへの最高の恩返しになると思っているからだ。引き続き練習に取り組んでいかなければと思った。



 そして今日のところは下校の時間になってしまった。練習の続きは、また明日だ。体操服での練習だが、そのまま着替えずに帰ることもできる。電車やバスで通学していて、汗だくのままでは流石にという人は着替えるようだ。

 オレは賢斗と一緒に体操服のまま帰ることにした。侑衣は他の女子たちと帰るそうだ。たまにはガールズトークをしながら帰りたいということだ。少し寂しい気持ちだが、まあそれは仕方ないことだろう。

 賢斗と歩きながら帰っていると、彼女とのノロケ話をしてきた。相変わらず幸せそうで、仲良くやっているようでそれは何よりだ。まあ耳にタコができるくらいに、いつも幸せ自慢を聞かされている。

 郵便局近くまで歩いてくると、小さい頃よく一緒に遊んだ公園があった。この公園は土地の再開発のために高層マンションになってしまうらしい。色々な思い出がある公園ということで、すごく寂しくて残念な気持ちだ。明日からもう工事が始まってしまうそうで、資材の搬入も始まっているようだ。



 今はまだ中に入れるようだが、明日からは完全に入れなくなってしまう。注意書きの張り紙には、今日までは遊ぶことができると書いてある。学校帰りではあるが、今日が最後の機会ということで少しだけ遊んで帰ることにした。

 ブランコや鉄棒など、小さい頃は遊具もかなり大きく感じていたが、今となっては遊具がちっぽけに思えてしまう。それだけオレたちが成長してきたということだろうな。公園の中に砂場があるので、立ち幅跳びをすることにした。流石に走り幅跳びができるほどには広くない。

 二人で砂場の端に立って、スタンバイした。小さい頃にもよくそうやって跳んでいた。それぞれのタイミングで勢いよくジャンプした。結果は賢斗の勝ちだった。ごくわずかな差だが、それが悔しくてもう一回跳ぶことにした。

 靴の中に砂が入ってしまうので、二人とも裸足になった。その方が地面をしっかりと蹴れるだろうと思ったからだ。そしてしっかりと勢いをつけて、タイミングよくジャンプした。すると、今度は勝つことができた。



 今度はブランコに乗った。どちらがより遠くまで靴を飛ばせるか、いわゆる靴飛ばしの勝負だ。賢斗から勝負を仕掛けてきた。というのも、小さい頃のオレは上手に遠くへ飛ばすことができなかったからだ。しかし、今のオレはそれなりの年月を経て、しっかりと成長している。賢斗をギャフンと言わせるチャンスだ。

 まずはブランコに勢いをつけることから始まる。タイミングを合わせて地面を蹴る。少しずつスピードに乗ってきた。しっかりとスピードが出たところで、自分のタイミングを見計らって靴を前に飛ばす。左右2回チャンスがあって、より飛んだ方を記録とする。

 1回目、右足に全力を傾けた。右利きなのでそれでしっかりと記録を出したいところだ。しっかりといい角度で、放物線を描くように飛んでいった。小さい頃は真上や後ろに飛んでいってしまうことばかりだった。そう考えると成長したんだなと思う。賢斗も驚いていた。

 左足の方もあるが、やっぱり右ほどは飛ばなかった。利き足の方がいい記録になるのは当然だろう。二人とも飛ばし終えたが、近づかなくても結果がわかるくらいの差は出ている。利き足ではない方で勝負していたら負けてしまっていた。でも今回はより良い方を記録とするので、オレの勝利だ。

 賢斗はとても悔しそうな表情をしていた。だけどオレの成長を見て、喜んでくれた。それが賢斗のいいところだ。相手のことをしっかりと気遣うことができる、素晴らしい親友だ。



 何年後、何十年後になっても賢斗と友で居ることができたら良いなと思っている。

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