第3話 図書委員

 5月には入り、入学してから一ヶ月がった。今日はいよいよ図書委員として、初めての仕事だ。本の整理や貸出・返却の手続きなど、さほど難しい仕事ではないらしい。本を運ぶのに力を使うかもしれないらしいが……

 オレはお昼の弁当を食べ終わると、図書室へ向かった。侑衣はもう来ていた。まずは図書室の先生から仕事の説明を詳しく聞いた。さほど不安に思う必要は無さそうだった。

 貸出と返却の手続きは、バーコードを読み取るだけでいいらしい。学生証と、本の裏表紙についている。とても簡単な仕事だ。データ化しやすく、ITの素晴らしさを感じた。

 本の整理は毎月1回、最終金曜日にある委員会ミーティングの時にするそうだ。ただしその分、やることがたっぷりと溜まっていそうな気はするが。まあ、その時は委員の全員が集まるんだろうとは思うが。


 委員はカウンターに座って待機する。図書の手続きがない間は暇である。中には図書室の中で読む人もいるようだ。暇な時は自分達も本を読んでいていいと言われた。図書室にはいろいろな本がある。宝物庫と言っていいくらいに素晴らしい。オレはとりあえず歴史の本を読むことにした。

 本を読んでいる時間はとても楽しい。新しい発見があるし、どんどん知識が増えていく。自分の世界に入り込むこともできる。ときどき自分の時間を持つのはいいことだと思う。

 侑衣は医学に関する本を読んでいた。医師を目指しているとはいえ、高校生の時から熱心に本を読んでいてすごいと思った。かなりの集中力だ。横で見ていて、とてもカッコよく見えた。かなり難しい内容なのだろうが、調べながら必死に読んでいる。


 ふと、侑衣と目があった。

「柊斗って、すごくかっこいいよね。素敵だよ。」

 急に言われて、オレは慌てふためいてしまった。内心は嬉しかったが、平然を装った。思いがけないことを言われると動揺してしまうのが人間だ。

 侑衣が何を思って言ったのかは分からなかったが、特に意味があるわけではないのだろうと考えることにした。


 その日の放課後、侑衣は塾があるので賢斗と二人で帰ることにした。賢斗から、侑衣と進展はあったのかとか聞かれたりしたが、別にそんなつもりはない。仲良くできればそれでいいと思っている。

 賢斗から驚きのことを言われた。今日、賢斗に彼女ができたらしい。人生で初めての彼女だと、大喜びしていた。相手は隣のクラスの子で、同じ美術部に入ったそうだ。絵を見たときに、お互いに惹かれあったらしい。そんな賢斗が羨ましいと思った。オレは素直に祝福した。賢斗とは幼いころからの付き合いだから、どんなやつかはよく知っている。





 翌日、学校へ行くと賢斗から彼女を紹介された。自慢げに話していた。すごく優しそうな子だった。二人には幸せになってほしいと思った。

 オレもいつかは彼女ができればいいな。付き合うならしっかりと考えて、責任ある関係でないといけないと思う。だから、軽い気持ちで付き合うつもりはない。ずっと一緒に居たいとか、上手くやっていけると思える人を選びたい。

 そりゃあ可愛くてスタイルがいいに越したことはないが、やっぱり内面を重視したい。どんなに可愛くても性格が良くない人だと、傷ついたり辛くなったりすることがあるかもしれないからだ。


 図書委員は当番制なので、二週間に1回くらいの頻度で回ってくる。今日は当番ではないが、本を読みたいので図書室へ行った。賢斗が彼女と二人で勉強していた。分からないところを教えあったりなど、お互いに支え合ういい関係だなと思った。きっと二人なら上手く行くだろう。二人の邪魔をしないように、あえて離れた場所に座ることにした。

 今日は歴史の本の続き、平安時代を読むことにした。歴史は面白い。先人の考えや価値観を知ることができる。もちろんいい部分だけとは限らない。悪い部分、汚点ともいうべきところもある。だけど、それも含めて人間の歴史なのだ。悪い部分から目を背けるのではなく、同じ過ちを繰り返さないようにすることが大事なのである。


 放課後になって、賢斗は彼女と一緒に帰るらしい。オレは侑衣と二人で帰ることになった。ちょうど日没の時間になって、夕日が侑衣の顔を照らしていた。思わず見惚れてしまった。侑衣の顔が赤くなっているように見えたが気のせいだろう。夕日のせいに違いない。

 侑衣とは違う中学校だが、家は近いみたいだ。ちょうど校区の境界に近く、中学校は別々だったようだ。郵便局の角で侑衣とは方向が別れる。

 侑衣は嬉しそうに手を振って、家の方へ走っていった。一緒に帰ることができて嬉しかった。こんな時間がずっと続いていけばいいのにと思った。





 また図書委員の当番がやってきた。図書室にいると、いろいろな人を見かける。勉強場所として使う人や本を読みにくる人、雑談のために来る人。十人十色、多様な人がいる。

 一緒に当番をするのはもちろん侑衣だ。今日も医学書を読むのかと思ったら、英語の論文を読んでいた。難しいけど、すごくタメになって知識が身につくそうだ。論文を読むだけでもすごいというのに、英語で、しかも専門用語が並んでいるのだから、とても賢いのだろう。


 オレは先月の職業フェスに参加して、カウンセラーになりたいと思った。人を助ける仕事が素晴らしいと思ったからだ。そのためには大学院まで進まなければならない。まずは高校の勉強をしっかりと身につけて入試に備えなければならない。今のうちから日々復習して、知識を確実なものにしたい。3年になってから復習を始めても、量が多すぎて挫けてしまいかねない。コツコツ努力することが大事だと思っている。

 そんなオレの夢を賢斗や侑衣に話したら、すごくいいと言ってくれた。みんなでお互いに励まし合い、競い合って高めていければいいなと思う。仲間の絆が大事だと親や先生も言っていた。支えてくれる人への感謝の気持ちを忘れてはいけないとも言われた。その通りだと思う。


 今日は賢斗と彼女、侑衣と一緒に4人で帰ることになった。このグループで絡むことが多くなるだろう。休みの日に一緒に遊んだりしたいという話になった。賢斗は彼女とデートする方がいいんじゃないかと思うが。

 家に帰ると、母さんが夕食を作っていた。今日は父さんの誕生日だ。腕を振るってご馳走を作っている。仲良し夫婦だと思う。もちろん言いたいことはハッキリと言うし、喧嘩する時もある。だけど、意味のない言い合いはしない。喧嘩した後も素直に謝れるし、確固たる信頼関係が築かれているように思う。変に溜め込んだりすると、いずれ爆発してしまうだろう。ありのままを受け入れることができると言うのが夫婦関係では大事なのだろう。

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