第29話 最期の翼が散る

——

 「ようやく戻れた……もう興味はないがな……」


 黒いアーマードホークリスは鎧の隙間とバイザーを赤く輝かせ死の神となった


 「さぁて……ホークリスの最終決戦と行こうじゃねぇか……!」


 死の神は拳を強く握りしめる


 「……」


 白い鎧は拳を握れずただ指先を震わせる


 「どうした? まさか俺とは戦えないって言うのか?」

 「……だって貴方は鷹弐と雛のお父さんで……私が倒したら……」

 「俺を倒せるつもりでいんのか?」

 「えっ……がぐぁっ……!?」


 気が付いた時には鴉の身体は橋を貫き宙を舞っていた


 「さぁて……手加減無しで殴ったらどうなるかなぁぁぁぁぁあ!?」

 「っ!?」


 死の神は瞬時に宙を舞う鴉の背後に現れ拳を振り上げる


 「アーマード!」

 「オルガァアァア!」

 「ぐっ……!?」


 鴉はホークリスと一体化しアーマードホークリス レズモスとなり振り返って両腕でガードするが死の神の振り下ろされた拳に簡単に吹き飛ばされる


 「がらぁぁぁあ……!」


 白い鎧は河川敷に墜落し巨大なクレーターを作り出す


 「さっきより弱くなってる……!?」


 先のドレッドとの戦いと比べ白い鎧の戦闘力は圧倒的に弱体化していた


 「グルギィガァァァァァァ!」

 「っ……レズモスラッシャー!」


 粉塵を貫き死の神が右拳を構えて白い鎧に向かって突撃する

 白い鎧は純白の剣を生み出し、その剣で死の神の拳を受け左方向へと受け流し左肘で地面を突いて右方向へと飛び跳ねる


 「はぁ……はぁ……」


 着地した白い鎧は息を乱れた息を整えようとする


 「……」


 勢いを消してゆっくりと着地した死の神は白い鎧を黙って見つめ……


 「俺はかつて暴君と呼ばれた」

 「は?」


 そして自分語りを始めた


 「俺は死を司る神、ドレッドとしてワールドに作り出された」

 「ワールド……って世界の事……?」

 「まぁそんなとこだ」


 死の神は右拳を左拳で包む


 「死の神として作られた俺はあらゆる世界線のあらゆる惑星で何度も何度も永遠に大量絶滅を起こしていた……もちろん死を見るのが好きだからただ快楽の為にやっていた」

 「っ……」


 仮面の下で鴉は顔を引きつらせる


 「そして俺はホライドやスペースドに暴君と呼ばれた……だが奴は違った……」

 「奴……?」

 「そいつの名はエルード……命の神だな」

 「……? 命の神ならなおさら大量絶滅は嫌うんじゃないのか……?」


 白い鎧は首を傾げる


 「あいつが言うには大量絶滅によりまた新たな種類の命が誕生するらしい、それが命を理解する事に繋がる……とかなんとか言ってたな……」


 死の神は頭に両腕を組み漆黒に染まった空を見つめて言う


 「おー……輝きの海が黒くなったって事はあいつも力を取り戻せたのか」

 「空が……っ……川まで……」


 白い鎧は空だけでなく川までもが黒くなっている事に気が付く


 「そうやって沢山の死を眺めてたある日、エルードは俺にある提案をしてきた」

 「提案……?」

 「神を殺してみないかってなぁ……そしたら全ての命が一斉に死に至る光景を見れるとか言って……まぁあいつなりの目的があったんだろうが」


 死の神は川に視線を向けて言う


 「……それで貴方は死の神の力を失ったって事……?」

 「あぁそうだ、俺とあいつは負けた……力を奪われそして……」

 「そして……?」

 「地球に堕とされた」

 「は?」


 白い鎧はその言葉に困惑する


 「地球に……ってなんで……?」

 「それは知らない……だがあいつはそれを予想してみたいに俺に計画の事を話してきたな」

 「計画?」

 「まぁ俺は命令されただけで詳しい内容は知らないがちゃんとその通りに動いてやったな……あいつの言う通りにしてりゃ楽しい事があるだろうし……はぁ……」


 死の神はため息をつく


 「結果今俺は……いやいい、そろそろ自分語りは終わりにして……」


 死の神は白い鎧を睨む


 「どうだ、俺は死を楽しむ外道だ、殺さないとだろ?」

 「っ……」

 「何黙ってんだ……?」


 白い鎧は拳を握りしめれず唇を震わせる


 「俺は……俺は鷹弐と雛を産み出す為だけに人間の女を騙し……そして殺した! 雛が死ぬのも知っていた! そして鷹弐が死ぬのも! 全て知った上で計画に乗った……!」


 死の神は白い鎧の目の前に一瞬で移動し胸ぐらを掴んでまくし立てるように叫ぶ


 「雛や鷹弐が死んだのは俺のせいだ! さぁどうだ! これでも俺をっ……」

 「もういい……」


 白い鎧は掠れた声を絞り出す


 「は……?」

 「もう憎まれようなんてしなくていい……!」


 白い鎧は死の神の腕を優しく退かす


 「鷹弐と雛が死んで……それで辛くなったんでしょ……? 大丈夫……私が殺すから……だから……」

 「っ……」


 白い鎧は死の神の肩を強く掴む


 「もう鷹弐と雛の前で憎まれようとしないでよ……! 鷹弐と雛は今レズモスの中にいる……貴方の言ってる事を全部聞いてる……!」

 

 白い鎧の掴む力はどんどんと強まっていく


 「貴方は鷹弐と雛と一緒に暮らした事なんて無かった……それでも……!」


 白い鎧は死の神に強く睨みつける


 「貴方は……お前は父親なんだよ!」


 白い鎧は怒鳴るように叫ぶ


 「っ……!」


 死の神は白い鎧を抱き締める


 「……」


 そして白い鎧を離して後方に下がり、白い鎧を……その中の鷹弐と雛を見つめる


 「1度くらい……家族ごっこくらいしておけばよかったなぁ……1度くらい……1度くらい……」

 「だったら最期に1度……2人の力を見ろ……!」

 「っ!?」


 瞬間、白い鎧の拳は死の神の腹に食い込んでいた


 「がるぁぁぁあっ……グレガァ!」


 吹き飛ばされた死の神は赤く輝く血の翼を生み出し空中で停止する


 「はっ……全力で見てやるよ……!」


 死の神はバイザーの輝きを強め楽しげな声で言う


 「グレァァァァァァァァ!」

 「グレガァ……!」

 「グレッ……!? れぁぁぁぁぁぁ……!」


 白い鎧は純白のベールの翼を展開し死の神に向かい右拳に力を集中させて突撃するが死の神に衝突する寸前に死の神が一瞬で背後に移動し白い鎧に一瞬の内に無限の打撃を放たれる


 「ぐるいぃぃぁい……! グレァァ!」

 

 白い鎧は根性で吹き飛ばされないように踏ん張って右脚を振り下ろして死の神の頭部に叩き込む


 「はがぁっ……グレガァァ……!」


 頭部に打撃を与えられた死の神は白い鎧の右脚を掴む


 「グレガァァィァァゥァア!」


 死の神は白い鎧を投げ飛ばし、吹き飛ばされた白い鎧を追尾する


 「グレァァァァ!」

 「グレガラァァアラァ!」


 白い鎧は投げ飛ばされた勢いを利用して空を舞い翼を激しく白く輝かせる

 死の神は全身を激しく赤く輝かせる


 「グレァァァァァァァァア!」

 「グレガァァァァァァァア!」


 漆黒の空に白と赤の閃光が走り、衝突し輝きを散らす


 「レズモスの戦闘力は感情と直結しているらしいな!」

 「それだけじゃっ……ない!」


 白い鎧は身体を回転させ右脚で死の神を蹴り飛ばす


 「3つの絆の繋がりがレズモスの強さだ……グレァァァ!」


 白い鎧は右拳を輝かせ死の神に突進する


 「鷹弐と雛の互いに唯一無二の絆……!」


 死の神を白い鎧の拳が殴り落とす


 「私を……私を受け入れてくれた2人との……絆!」

 「っが……!」


 白い鎧は墜落する死の神の背後に現れ右足を白い羽根で包んでその背を蹴り飛ばす


 「そして……!」


 白い鎧は両拳を月光のように輝かせる


 「貴方の……家族の心の為に貴方を殺す……その決意が絆!」

 「ぐるぃぃがぁぁあ!」


 白い鎧は月光を放ち死の神を上空に向かい吹き飛ばし、死の神を追って飛び上がる


 「っ……!」

 「私達の絆が……貴方を殲滅する!」


 白い鎧は漆黒の空を貫き輝く星の下で翼を輝かせる


 「絆……レズモス……!」

 「はは……っ来い!」


 死の神は笑い、両腕を大きく広げる


 「鷹弐……雛……!」


 白い翼は一瞬赤く染まる


 「グレァァァァァァィァァァァァァァァァアァア!」

 「来い……俺の家族達よぉぉぉぉぉおおおお!」


 白い鎧は白い閃光となって死の神を貫いた

 死の神は大爆発を引き落として赤い輝きを散らした


 「……っ」


 死の神を殲滅した白い鎧は翼を失い、地上に向かい堕ちていく


 「……」


 仮面の下、鴉は漆黒の海に覆われた空を見つめる


 「私……やりきったよね……」


 鴉は手を伸ばす


 その手は5人の絆に握られ……そして……


 「私が……最期の翼だ……」


 翼は散った

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