第4話 いざケモミミへ
明くる日。とりあえず暇だし、きっかけになるかはわからないが神社に行ってみることにした。
神社自体は住宅地の中心に鎮座する山の上にあるのでわかりやすいが、そこまでに至る道が狭い上に迷路のようになっていて誰も寄りつかなくなっていた。こうなると小学生の冒険の標的にされるが、迷子率が高すぎて学校から禁止令が出るほどだった。なお、迷子は夜遅くになるとなぜか自然と自分から入り口に戻ってくる。それがまた不気味だった。
そんな道にこれから挑もうとする自分だが……
「コツがあるって言ってたな。たしか……」
左、左、右、左、まっすぐ、左。金城はそう言っていた。
「……これは無理だ」
歩いてわかった。金城が言ったとおりに曲がろうとすると、『下っているような』錯覚に襲われる。曲がろうとする先の道が一瞬下っていたり、見た目では錯覚で下り坂のように見えたりする道があった。山の頂上へ行くには『登る』という前提にある以上、その反対の選択をとり続けなければならないというのは、知っていなければできない。トリックアートを常に見せられている気分だった。
一時間はかかるんじゃないかと思われていた道程は、その半分ぐらいの時間だった。見た目が下りのような道が多かったので、疲れもそれほど感じない。だが帰りは逆であることを考えると、少し気が滅入った。
最後に100段はある階段を上りようやく登っている感覚を味わったあと鳥居をくぐると、ついに神社の中に入れた。特に特徴があるわけではない、ありふれたたたずまいの神社だった。異質なのは『音が無い』ことだろうか。ある程度高いところにいるため、ひとけがまったく無く、車の排気音も聞こえない。周りを囲む木々が外音を遮断しているせいかもしれない。神社自体は普通だが、建っている環境が普通じゃなかった。
「建物は、これだけか?」
神社の周りを歩いてみる……と、建物の裏手にさらに細い抜け道のようなものを見つけた。ここまで来たらせっかくなのでさらに奥へ進むことにした。
前情報はおぼろげに覚えている金城たちの会話しか無いので、迷う不安はあったが道は一本だった。ここに来るまでで大変だったので、これは助かる。
10分ぐらい歩き道を抜けた先にあったのは、古びた民家とその後ろに鎮座する巨大な木だった。
これが溝口の家なのだろうか。背後の巨木が大きすぎて、相対的に小さく見える。
民家の入り口へと歩き出すと、視線を感じた。視線の方向である巨木を見上げると、木の幹になにかがいるようだ。目をこらすと……丸い顔に長い耳……ウサギだった。
「……」
ウサギはコチラをじいっと見つめたあと、木をするすると降りていって見えなくなった。ウサギが、木に? そんなことあるのか?
「不思議な感覚だ」
なにをするでもなく立ち尽くしていると……
「おい、お前なにしに来た」
と、知った声が後ろから聞こえた。
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