ハヤマ・ロイド社の動向 5

 神奈川に来たのはずいぶん久し振りだった。現在は、ホテルのベランダから眺望できる夜の海にふけっている。本日は風がやさしい。明鏡止水とまではいかないが、あまり波が跳ねない水面だ。遠くのほうに、星空からこぼれたような漁火が、怪しく揺れていた。

 七峰から着信が入った。「なんだね」

「捜索からもどりました。奴は見当たらずじまいです。――ホテルにいらっしゃらないようですが、どちらに?」

「熱海のホテルだよ」

 それはまた、と苦笑が混じったような声がした。「なぜそんなところに」

「もうそこには用がない。私も、そして奴もね」

 また苦笑が聴こえた。「そろそろ聞きたいものです。なにをお考えなのか」

 ふんと鼻で嘲笑してやる。

「無能な部下しかいないことが悩ましいよ。少し考えればわかることだというのに」

「申し訳ありません」と彼はいった。

 精進したまえと告げて、「明日、きみは『真鶴』へむかいなさい。詳細はまた連絡する。それまで、アジのお造りでもつついているのもいいし、湯河原あたりで水浴びでもいい。ただ、酒は飲みすぎないようにしたまえ」

 一瞬だけ、どっと風が唸る。遠くで波のはぜる音が聴こえた気がした。

「――じきに、やっとコンサートが終演する」

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