ハヤマ・ロイド社の動向 4
ワタシ、たぶん、楽しくないです。あまり、帰りたく、ないです。理由、これです。ワタシ、勝手、です。あやまりたい、です――
「社長っ」
目を閉じていると、そんな声を聴いた。ヘッドフォンを外し、椅子をくるりと回して正面を向く。どうやら何度も呼ばれていたらしく、七峰は辟易した顔つきだった。
「なんだね。コンサート会場、押さえたのかね」
まあはい、といって、「仰せのとおり、半年後に。提示した費用では渋られましたが、ボーカロイドの手で作られた曲を披露するという企画で押しきりました。……しかしやはりわかりません。逆算してみて、これは可能でしょうか」
「可能性の問題ではない、必要かどうかだ。咲音クミは人気とはいえ業界では新人だ。新人作家に速筆が求められるように、アーティストにも活動の軌跡を素早く敷かれなければならない。現金とは、そういう思考のうえをなぞったカーペットに舞い散らばってくるのだよ」
「ごもっともですが。しかし、咲音クミは無事でしょうか。いや無事だったとしてもまず、披露しようとしている曲はまるで完成していないのです。すでにプログラムは遅れています。彼女はいないのですから、やりようがありません。とても可能とは……」
「さあねえ。――捜索員はいまどこに?」
「命令通り、中野近辺です」
「神奈川へ向かうように指示しなさい。詳細はまた知らせる」
――神奈川? と怪訝な顔をした。「昨夜も思ったのですが、どうしておわかりに? 中野にも、たしかに奴がいたという報告があります」
「いっただろう。根拠がある。中野には奴がアルバイトをしていた居酒屋がある。どうやら友人は少ないみたいだからね。確率はあるだろう?」
「たしかに……。しかし考えてみますと、新宿、都島園、田無も予想しておいででしたね」
「それは」にやりとした。「勘があたっただけだよ」
わからないおひとだ、と七峰がいった。「では、神奈川は?」
「奴の、少ない友人のひとりがいる。向かうならきょうあたりだ」
「どこからそのような情報を? 警察から?」
椅子をまわして背をむけた。
「まあ、その話はまたしよう。それより、今回は私も向かう。車をだしなさい。そろそろ、奴を捕まえてやってもいい頃合いだ」
少しばかり納得がいかない面容だったが、「すぐに」と、七峰はいった。
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