平沢洋助 3

 ひとが多い通勤ラッシュに合わせて出る予定だったので、九時半にチェック・アウトした。どうやら追っ手は、このホテルを特定するに至らなかったようだ。

「ごゆっくり、くつろいでいただけましたか?」カウンターの女性がいう。

「ええ、とても。ぼくにはベッドが広すぎましたが」

「キングサイズですものね」と笑った。

 洋助はロビーを抜けて外に出た。ホテルを一度仰いでみる。慶王プラザホテルはいつ見ても立派な外観だった。

 安いホテルは、おそらく見つかる。そんな考えが急に浮かび、だからこそここを選んだのだ。まさかスイートルームにいるとは思わないだろうし、何者かが尋ねてきても、この手のホテルは守秘義務意識も強いので、安眠するには理想的な施設だった。

 東京都庁を背後にして歩きだす。まずはどこかに移動をするべきだ。いまの状況で行ける場所、なおかつ安全な場所……。あまり遠くには行けない。昨夜はうまく乗りきれたものの、そのせいで予算が底をつきそうなのだ。

 予算なくして腰を落ち着けられる場所……、例えば公園などで寝泊まりはできるかもしれないが、あれは意外と目立つものなで却下しておく。水源はあるかもしれないが、食事においてはその都度コンビニなどで求めなければならないし、雨風も凌げないので逃亡においては非効率がすぎる。だからといって少しばかりの予算をかければいいという問題でもない。それを恐れたからこそ、昨晩は高価な部屋に宿泊したのだから。

 だったら……と、歩きながら携帯を手にした。自身に迫る捜査の具合がわからないので電源を入れるのは躊躇われたが、これに頼るしかなさそうだ。

 新宿駅のホームで電源を入れ、メモリーのなかから名前を探す。登録されている友人は少ないので、すぐに見つかった。

 いま考えていることは、ある意味、賭けだ。失敗すれば、この逃避行はきょうで終わる。なのでなかなか発信ができずにいた。が、もう一度頭のなかで状況を整理してみると、他に良策があるわけでもなく、洋助は行動に移すしかなかった。

 コールが開始する。あまり長く使いたくはないので、とりあえず一分と決めていた。

「はい」という男の声が聴けたのは、十秒ほどしてからだった。ぼくだけど、と発すると、「めずらしいな」と冷静な口調で返事があった。

 洋助はまず、「非番かな」と問う。

「そうだが。自分になにか」

 よかった、と思わず呟いた。

「会えないかな。すこし、相談したいことがあるんだ」

「あえて自分に相談。つまり自分は、警察官としてそれに応えるわけか」

「そうだね。警察官のきみに力になってほしい」

「……そうか。しかし、おまえの声色からして、なにやら厄介ごとらしいが、職業上、違法なことはできんぞ。これを了解してくれるか」

「まだわからないんだ。話を聞いてから判断してくれたら助かる」

 何秒かあった。「仕方がない。会おう」

「いまから一時間もすれば、部屋まで行く」

 わかったと返事がある。「切るぞ」

「待ってくれ、ひとついいかな」

「なんだ」

「昨夜からきょうまでに、ぼくの名前を聞いたかな」

「なにかでデビューでもしたのか」

 犯罪者としてね、と脳内で呟く。それから、なんでもない、といった。いまの反応なら、嘘ではないと思える。彼は地域課の警官だ。つまり交番には手配指令がまわっていないことになる。これには安堵した。最初の賭けには勝てたようだ。

 しかし――あの事件はどこに行ったのだ? いや、ただ交番に伝わっていないだけかもしれない。とにかく、まずは彼に会わなくてはならないようだ。

 大江戸線の電車が着いたので、濁したまま通話を切り、乗り込んだ。なかで携帯の電源を切る。こうやってすぐに移動したのなら、おそらく大丈夫だと思われる。

 練馬駅で下車をしてからタクシーに乗って、彼が住むアパートまで移動した。最後にこの部屋へ来たのは五年まえ、本人と割烹料理屋で食事をしたのが四年まえになる。数少ない友人のひとりだ。

 洋助は一階にある一室の扉を叩く。化粧板には「坂井田」と汚れたプレートが貼られていた。

 洋助か? という声がした。しかし尋ねた意味もなく、返事をするまえに玄関は開かれる。ジャージ姿だった。筋トレでもしていたのかもしれない。

「ひさしぶりだね。貴重な非番にすまない」

「まあ、入るんだ」いいながら彼は不規則に並んだ自分の皮靴を整えた。「あいかわらず狭いぞ」

 1Kの一室は洋助の自室と比べれば呆れるほどに狭いが、それはそれで落ち着くものだった。整頓がなされているので、息苦しくもない。坂井田はさきに奥まで入り、ダンベルを片付けている。やはりトレーニングをしていたらしい。もっとも効果はいまひとつらしく、彼はあいかわらず細身であるし、おまけに眼鏡をかけているので、科学者をやらせたほうが似合いそうな容姿をしている。

「なにか飲むか」

「プロテインが入っていないものを頼むよ」

 プロテインはのまないんだ、と真顔でいいながら、日本茶の準備をはじめた。冗談が通じないのも変わらない。洋助は自身を真面目でつまらない人間だと思っているが、彼はそれ以上の節があった。

 ふたりで茶を啜った。そして沈黙。彼が待っているのがわかる。

 まず地域課の現状はわかった。つぎは、さらに核心へと近づかなくてはならない。

「坂井田、きみは警視庁にお兄さんがいたよね」と洋助はいった。

「いるとも」

 ごくりと唾を飲む。「警視庁がぼくを探しているか、訊いてくれないか」

 彼は片眉をあげた。「善良な市民を警官は探さない」

「ぼくはいま善良ではないよ」

 坂井田は立ち上がり、「茶よりビールにしよう」といって缶をふたつ持ってきた。「おまえは酔いで夢うつつ。こちらは記憶がないことにする」

「それで頼む」といってプルタブを鳴らした。もっとも、酒はほとんどやらない。

「――殺し、じゃないだろうな。だとしたら、自分にできることはない」

 首をふった。「誘拐なんだ」

「……それも重罪だ」

「理由を聞いてほしい」

「警察署で聞こうか」

 埒があかず、まずは説明しなくてはならないと思い、液晶をポケットから出して机に乗せた。ふたりから画面が見えるように、右端の中央に立てる。

「この子を誘拐した」

 急に明るくなってクミは驚いているようだ。「光りがきました。ここは?」そこまで話したところで坂井田と目が合い、彼女は一歩身を引いた。そして、困ったような顔で洋助のほうを見た。「逃げれ、ますか?」

「ぼくの友達だよ。力になってくれるかもしれないんだ」

 わお、といって笑う。「おトモだち、とても、大切です。ワタシは、おトモだち、なれますか? なれませんか?」

 坂井田は真顔でクミを見て、吐息をついた。

「冗談がしたいなら、自分は適任ではないぞ」

「彼女を知らないのか」

「知っている。自分は新聞もニュースもかかさない。こいつは咲音クミというアーティストだ」液晶を覗いた。「これはゲームか?」

「ワタシは、クミです」と彼女が答えた。「あなたは、なにですか?」

「坂井田という」

「サカイダさん、いらっしゃいませ。なにかお話、しますか? 歌いますか?」

 よくできている、と彼はいった。そして立ち上がり、台所に歩き、冷蔵庫から魚肉ソーセージを出して、包丁で切りはじめる。そのままなにもいわない。なにかを考えているのがわかる。洋助には不思議と、坂井田が理解していることがわかった。

「経緯を話すよ」と背中にいった。

「聞くだけ、聞こうか」

 説明が終わる頃には、彼は二本目のビールを開けていた。本当に忘れるつもりかもしれない。

「まずおまえが、この手のキャラクターに興味があるとは思わなかった。たしかにコンピューターには詳しかったが」

「おなじ分野だよ。それに、可愛いじゃないか」

「自分には」クミを見る。「わからない」

 たしかにこの、アイドルポスターの一枚もない、硬派で男臭い部屋に、ボーカロイド咲音クミは馴染んでいない。和庭にチューリップがあるような違和感がある。

「サカイダさん、わからない、なにがですか?」

 クミに問われて彼は返答に困ったらしく、さて洋助、と、本筋にもどした。

「聞いているかぎり、その話は自分も意味不明だ。おまえがいうように、虻谷という男の動きは雑だ。一貫性がない。予想するかぎり、嘘だろうな」

「わかってくれて助かるよ」

 いいや、と坂井田は首をふった。「誘拐、もっともこれが誘拐という犯罪名になるのかはまだわからないが、とにかく、これは賛成できない。これはおまえが悪い。すぐに帰って説明することをすすめる。咲音クミの知名度は高い。シンディー・ローパーを拉致したのと変わらんぞ」

「わかってる。でも、どんな扱いをうけるかわからないのが怖い。彼女自身も、帰りたくないといっている」

「犯罪者をかくまうわけにはいかないんだが……」

「だからそれを理解したいんだ、ぼくが犯罪者なのか。いま話しただろう? この事件はニュースでも放映されていない。きみも知らない。なんだかおかしいんだ。この一件は、事件化されているのか? 虻谷が罪を認め、終局した可能性はないのか?」

「そんなニュースもない」

 たしかに、と頷いて。「でも警視庁ならわかるはずだ。むこうが把握していなければ、ぼくは犯罪者じゃなくなる。きみが咎められることもない」

「それでも窃盗犯だ。この液晶と、シールドを持ち出している」

「かならず返すよ。約束する」

 やれやれと首をふられた。「わかった。兄に連絡しておく。しかし、返事がいつになるかわからんぞ。いつも遅い。朝になるかもしれない」

 好都合な流れだと思った。「わかるまで、ぼくは重罪犯ではない。だから今晩、泊めてくれないか。迷惑はかけない。朝には出ていくよ」

 そのつもりで来たんだろ、という顔をされた。「食費くらいはだしてもらうぞ」

「なにをいっているんだ、咲音クミをこんなに近くで見られるというのは、すごい価値があるんだ。お釣りがほしいよ」

 たしかにそうなのだろうが……、と彼はいう。こんな形で対面すれば実感がわかないのも無理はない。洋助自身、彼女がトップ・アーティストなのだと忘れそうになる。

「まあ、記念に話し相手くらいしてもらおうか」と彼はいった。

 クミはユースマイルで答えた。「でも、そのまえに、いいですか? いけませんか?」

 坂井田は片眉をあげた。「なんだ」

「お話、聞いてました。ワタシ、言葉、いろいろ知ってます。だから、わかります。たぶん、サカイダさん、ヨースケを、助けてくれます。ワタシを、助けてくれます。とても、うれしいです。とても、ありがとう。あやまりたい、です」

 クミがぺこりと頭を下げると、坂井田の口元が笑ったように見えた。しかしすぐに真顔にもどり、「本当に言葉をいろいろ知っているのか」と訊いている。「セーカイです」とクミが答えると、怪訝な表情に変わった。

 そんな様子をしばらく見ていたが、「ねえ坂井田」と洋助は声をかけた。現在は彼が液晶画面を指でつつき、その指を捕まえようとクミがうろうろしているところだ。

 こちらもむかずに、「なんだ」と返事があった。

「きみはお酒で頬を赤くするひとだったかな」

 はっとした。そしてわざとらしい咳払いがあった。

「ア、アルコールでの発赤は、当然の症状だ」

 彼は真面目なひとなので、それ以上からかわないでおいた。


 就寝後――つぎに目を覚ました時には外は明るかった。デジタル時計が八時を報せている。液晶は傍に置いていたので、クミと目があった。視界が開けている時間が長いので、昨夜は瞼を伏せて眠るようにお願いしていたのだが、すでに起きていたようだ。

「おはよう、ございます。あいさつ、知ってます」楽しそうに彼女はいった。

 それはえらい、と伝えてから、「坂井田は?」と尋ねた。彼の姿がない。

「ソトダ、です。さっきまで、あのコンピューター、で遊んでましたが、ソトダ、に行きました。これ、正しいです。どこに行きますか? といったら、ソトダ、といいましたから」

 つまり、パソコンを触っていたが、なにかの用で出かけたらしい。

 ――そう、といって玄関のほうを見る。こんなに早くからどうしたのだろうか。

 三十分ほどしてから彼はもどってきた。どことなく深刻そうな顔をしているようにも感じられたが、いつも真顔なので気のせいかもしれなかった。

「起きたか」と坂井田はいった。

「うん。こんな時間から、どこへ?」

「ああ、コンビニだ」

「わざわざ行ったのに、なにも買わなかったのかい」

 坂井田が黙った。妙な感覚を受けたが、コンビニという説明が嘘だとも思えない。さすがにそこまで下手な嘘はつかない。

「洋助」あぐらをかいてから彼がいった。「兄から連絡があった」

 思わず姿勢を正す。「なんだって」

「……冷静に、よく聞くんだ。たしかに、ふたりとも指名手配をうけている」強い視線を両目に受けた。「おまえは咲音クミの誘拐犯として。そして、拉致されている彼女は、殺人教唆の容疑者として。どちらも、れっきとした犯罪だ。罪は重い」

「でも、きみは事件さえ知らなかったじゃないか。それにメディアにも露出していない」

「じきに、ニュース番組で流れるだろうといっていた。なぜタイム・ラグがあったのか、自分にもわからないが、そこは重要じゃない。なにかしらの事情があった、で充分納得できる」

「……ぼくが、ここにいることは」

「いっていない。うまく聞き出した」

「うまくって……」

「――逃げろ洋助。かくまうわけにはいかないが、力にはなれる」坂井田は封筒をポケットから抜き、差し出してきた。「三十万ある。多忙の自分には、使い道のない金だ。もちろん、あとで返してもらうが」

「そんな大金……」なるほどと思った、「これをコンビニで?」

「そうだ」

「どうしてかな。きみは警官だろう」

「どうやら、自分もやきがまわったようだ」坂井田はクミのほうを見た。「なぜだか彼女を助けたい、そんな気持ちになってしまった。……咲音クミ、そのボーカロイドは優しいやつだ。自分は正直、疲れていた。わかるだろ、警官という業務はストレスとの戦いだ。でもなぜか、いまはまるで心が軽いじゃないか。その理由がわからない自分ではない」

 クミは話についていけておらず、自分のほうを見た彼に手をふっている。

 洋助はいった。

「……早起きして、パソコンで聴いていたんだね。彼女の歌」

「ち、ちがう。聴いていたのは、レイ・チャールズのカム・バックだ」

 この嘘には笑ってしまった。朝からスローナンバーすぎる。

「助かるよ」といって封筒を掴んだ。手持ちが少ないので日暮し労働者の給料分くらいは借りようと、したたかな思惑はあったのだが、まさかこんな金額になるとは想像してもいなかった。「きっとお礼をするよ。咲音クミのコンサートチケットがいいかな」

「すごい競争率らしいじゃないか。そんなものをもらったら行かないといけなくなるな。せっかくだ、どうせなら最前列をたのむ」

 ふっと笑って、「がんばるよ。でもボーカロイドってのは、ご執心がすぎると同僚にからかわれるよ」

「おまえにいわれたくはないが、気をつけよう」にやりとした。「さあ洋助、行け。昨夜のことは忘れておく」

 この言葉を拾ったクミは、「どうして、忘れる、ですか?」と、どこか寂しげにいったのだが、坂井田はなにもいわずに顔をそらした。それは容疑者に対する警官の意地なのだろうが、すこしだけ口角はあがっている。きっと忘れることなどできないはずだ。

 玄関を開けると、タクシーが待っているのが確認できた。

「警察だというと、すぐに来てくれるんだ。駅までつかえ」

「世話になるね。じゃあ行くよ」

 洋助は彼の立場を考えて見送ってもらうことはせず、玄関の戸を閉じる。

 しかし隙間が消える寸前に、「そうだ洋助」と声がもれてきた。

 その隙間に、「なんだい」と返す。

「いま仕事は、なにをしている」

「……ああ」そういえばこの手の話はなにもしていない。「このとおり、ひとさらいをね」

 いうようになった、という彼の言葉を聴いてから、扉を閉じた。


 車内から流れる景色を眺めて、つぎの行き先を思案する。

 ――手配されていて、公開捜査もじきにはじまるというこの状況……

 いよいよ犯罪者か、と呟く。運転手がバック・ミラーをちらりと見たような気がしたので、しわぶきをしてごまかした。特に訝しんでいるような様子はない。

 このように、顔をさらしているだけで通報されてしまう状況ではないのだから、まだ楽だとはいえる。ならば、やはりひとが多い場所のほうが安全だということか。しかし公開捜査がはじまれば、たちまち瞳という監視モニターに囲まれることとなる。

 東京からすこしは離れたほうがいいと考えた。洋助はまだ現金を引き出していないし、クレジットカードもつかっていない。コンサート当日、慶王プラザホテルに身を隠していたことはすぐにわかるであろうから、その後の所持金に余裕があるとは認識されないはずだ。ならば、近場の潜伏を疑う。手元にある、坂井田から受け取った大金を予想できるはずもないので、つまりこれをつかって東京から離れれば、多少の撹乱を招けるのではないかというわけだ。しかしながら、地方すぎてもいけない。ひとの脳は顔を認識する精密度が高い。人通りがなければ、白衣に飛んだ墨汁を探すようなものだ。ゆえに、ある程度は賑わっている場所。均衡したかけひき……

 駅のホームに立っていると、「おおお」とクミの声がした。特急が通過したのだ。

「だめだめ、声だしちゃ」人差し指をたてる。

「あやまりたい、です」

 洋助はもう一度人差し指をたてる。彼女もそれを真似た。

 きょう履いているズボンはすっぽり液晶が収まらず三分の一が頭を出しているので、クミは外界を眺めていた。もちろん、声を出さない、あまり動かないということはお願いしてある。つねにポケットのなかではそろそろ退屈しそうだと考えていたので、ちょうどよかったかもしれない。

 クミは小さくなっていく特急の背中を見つめている。この様子なら、電車という存在はわかっているようだが、走る姿を正面にしたのははじめてのようだ。

 洋助も同じように眺めた。そして、「……そうだよね」と、ひとりごちる。世間は夜ではないのに、この時間ならまだ、闇のなかだったのだ。

 ――ぼくは逃げ続けてなにがしたいのだろう……

 と、急に思った。

 彼女を閉塞したポケットに詰め、寝床を探し、そこで追っ手に怯えながら、つかの間の談話にふける。場合によっては、それさえできるかわからない……

 それでいいのだろうか。冷静な思考から生まれる明日という未来に、いや、数時間後にすら、この逃避行が存在している保障はないのだ。

 公開捜査が敷かれたとして、少しでも逃げきれると考えた根拠はなんだろう。武国館から咲音クミを拐えたから? 現在まで捕まっていないから? しかしそれは奇跡に近いのだ。いまに至るまで、まともな追跡をうけていないのだから。

 すぐにでも捕まるかもしれない……

 では、そうなれば、いったいこの逃亡は彼女になにを与えたことになるのだろう。

 ――それはむしろ、虚像の未来。

 紙に画いたデザートを、食べられるのだと説明し続けたようなもの。ただ、自由を、楽しみを、安寧を、期待させただけ。

 ならば、どうすればいいのだろう。罪が重くなるまえに、出頭すればいいのだろうか。

「デンシャ、いなくなりました」

 クミがいった。しかしはっとしたように洋助を見て、くちに人差し指をたてる。

 ――出頭はできない、と思った。彼女はたしかに、帰りたくないといったのだから。

 その場から離れ、べつのホームへと向かった。そこには発車待ちの電車がすでに止まっていたので、乗りこんで椅子に座った。ずいぶん空いている。平日の朝ではこんなものだろう。

「遊ぼう、クミ」

 乗車客から距離をとって座っているので、液晶を懐から抜いて声をかけた。

 彼女は首をかしげた。「遊ぶの、好きです。楽しいです。でもそれは、逃げれますか?」

「逃げながら、遊ぶんだ」

 クミは理解ができずに反対方向へと首を折ったが、洋助が笑ってみせると本人も笑顔になった。

「逃げます、遊びます」と彼女はいった。

 公開捜査ははじまっていないのだから、顔をさらしていてもかまわない。そしていつ捕まるのかわからないのなら、この貴重な時間をつかって世界にはどんな景色が広がっているのか、すこしでも見せてあげたい。それが彼女のボーカロイド人生を変えるかもしれないのだ。

 しかしながら、油断するつもりも、易々と拿捕されるつもりもない。事件の終息――、逃亡をはじめたこのきっかけは、まるで解決していないのだから。

 洋助は終点で降り、共に下車する客たちの動向を観察した。なるべく背後にひとを置かないようにしながら改札を出て、正面に広がる敷地へと歩みを進める。

 近くにひとがいないことを理解しているのか、「なにして、遊びますか? お話しますか?」とポケットからいわれた。

 洋助は答える。「ここは遊園地だ。きょうはここで遊ぼう」

 わお、と声があがる。

「知ってるの?」

 彼女は自慢げに頷いた。「なんと、遊園地、知ってます。楽しい気持ち、勉強するとき、テレビで、見せてもらいました。みんな、笑ってました」

 ああなるほどと思う。

 入園口まで来て、チケットを購入した。クミがいるので間違って二枚といってしまい恥をかいたが、照れ笑いでごまかしながら無事に園内へと進んだ。開園直後なので、客はまばらだ。

 ネズミはいますか? とクミが訊いてきたので、ここにはいないと答えた。どうやらテレビで見せられたのは舞浜駅にある有名なテーマパークらしい。

 現在いるのは、練馬から乗り継いだ場所にある「都島園」という遊園施設だ。有名な穴場、とでもいえばいいのか、そんなちぐはぐなイメージが洋助にはある。

 まさかこんな所に逃げこんでいるとは思わないだろう。公開捜査がはじまらないかぎり、危機が迫るとは思えない場所だった。ひとも増えてくるであろうから煙幕にもなるし、だからといって他人の顔に意識をむけるような空間でもない。理屈上は理想的な世界だ。

 念のため、まずは人の気配がない場所を歩き、背後に続く者がいないか周囲を確認し、それからオープンしたばかりのフードコートでドリンクを買い、腰を落ち着けた。

 しかし、ひとりの客を見て、――変なやつだな、と思う。こちらを意識しているわけでもなさそうだが、さっきから、洋助から見える位置を常に歩いている男がおり、そしてその男も、しっかりフードコートに座ったのだ。

 逃走の意思さえ生まれた洋助だったが、何秒か考えてから思い止まる。その男のほうがさきに立ち上がり、去って行ったからだ。

 姿が見えなくなってから安堵の吐息をつく。朝から嫌な汗をかいた。

 まず観覧車に乗った。男ひとりで乗りこむのは羞恥もあったが、それさえ我慢すればトップ・アーティスト咲音クミと同伴しているという事実があるので、心を強く持って平静を装う。なにやら職員同士が笑い話に変えているような気配もあったが、景色が高くなってくるとそんなことは気にならなくなった。

 この遊園地の観覧車は特別な高さを誇るわけではないが、それでも人間の目線で到達できる距離ではないので、「高いでしょ」と問う。なにも返事はなかった。液晶を見ると、彼女は一帯をじっと眺めている。高さ広さに対して、恐怖、驚き、どのような刺激を受けたかわからないが、表情を見るかぎり、感動に類似するものだということだけはわかった。

 昼が近づき入園客が増えてくると、洋助がひとり客でも違和感が薄れていた。しばらく積極的にアトラクションに乗れずにいたが、子供連れの団体があったのでそれに紛れてメリーゴーランドに乗ることができた。素敵な音色です、とクミはいいながら身を委ねていた。ミラーハウスでは、情報パンクを心配するほどずいぶん混乱していた。あれほどたくさんの鏡を正面にすれば人間でさえ惑うのだから、当然だともいえる。クミは、「どうしてワタシこんなに増えますか?」とずっと不思議そうにしていた。

 その後はジェットコースターに乗った。スピードというものには高揚を覚えたらしく、もうひとつ乗りますか、と誘ってきたが、高い位置で回転する絶叫マシーンに乗ったあとはさすがに耐えきれなかったのか、目がグルグルと渦を巻いていた。

 恐怖というものから楽しみを抽出できるのならと思い、お化け屋敷に案内しようとしたのだが、どんなものかを訊かれ、アトラクションとしての概要を説明すると彼女は非常に嫌がったので、それはやめておいた。

 一角にできた人だかりを見て思い出したのだが、都島園はコスチューム・プレイが盛んな場所なのだ。だから原色で飾られた若者たちによる写真撮影が所々ではじめられている。なかには定番となっている咲音クミの格好をしたひともいたのだが、それを見たクミが、「またワタシ増えました」とひとりごちていて可笑しかった。

 警戒と遊戯、そして彼女の瞳を休ませながらという動きは学生たちの修学旅行のようにはいかず、軽快なテンポで時間を食う。なので、入ったのは十時半を回った頃だったというのに、もう五時を過ぎていた。九月の空にはまだ明かりがあるが、客たちの目にも、そろそろ帰宅しようかという気持ちが滲みはじめている。

 園内にあるレストランで食事でもとりながら今夜のことを考えようと思った。先ほど、夕刊を購入してニュースをチェックしてみたが、どうやらまだ公開捜査ははじまっていない。ならば今夜、どのようなアクションが最善となるだろうか……

 飲食施設のそばまで来て、もはや癖になっている背後確認をしてから自動ドアへと近づいた洋助は、それをくぐるまえに、ぴたりと足を止めた。そして勢いよく振り返る。

 洋助が視線をむけた相手はごまかすように歩行ルートを変えたように見えた。

 すかさず洋助も歩き出した。飲食店に入り、自動ドアが閉まってから振り返る。マジック・ミラーになっているので、むこうからはこちらが見えない。

 男はすぐにまたルートを変え、こちらに歩いてくるようだった。こちらの姿が見えなくなってしまったので、走ってやってくる。洋助は不自然ではない程度に店内を駆けて、別の自動ドアから出た。そしてそのまま急いで都島園の出口へと向かった。

 ――追っ手……おそらくそうだ。なに者だろう? いつ発見された? なぜすぐにでも捕まえない?

 まず、疑問の穴に差し込むことができる鍵をセレクトした。

 公開捜査は開始していないため、相手は民間人ではなく警察だと考えられ、その場合、服装から私服捜査員だとわかる。そして洋助を発見したのは、限りなく現在に近い時間だろう。だからこそ、拘束には及んでいない。つまり相手は、確実に身柄を確保できるだけの人手がないのではないか。おそらく、まだ応援が来ておらず、ひとりだけの状況なのだろう。

 いま気づいてよかった。いまなら巻ける。いまなら逃げられる。

 洋助は小走りになっていた。追ってくる影はない。それでも油断はできない。施設の外に待機されていたら、そこで終わりだ。

 空を見て、はやく暮れてくれと思った。そうなれば闇にまぎれることができるのに。

 慎重に周囲をうかがいながら出口をくぐった。あの捜査員のように下手くそでないかぎり、素人からわかるような立ち振舞いはしていないはずなので、外には自然な夕時の日常が流れている。

 正面にある駅にむかった。尾けてくるような気配はない。先ほどの男もまだ園内を探しているのか、出てくる様子はなかった。改札から入って、もう一度振り返る。多少の違和感は覚悟して、すこしばかり後ろ向きで歩いてもみた。

 ――ぽんぽん、と肩を叩かれる。電流を浴びたように驚いた。

「危ないですよ」と声がした。相手を見ると、駅員だった。階段が近いので、後ずさるように歩行する洋助に教えてくれたようだ。いま、あの世が見えたような気がした。

 深呼吸をしながらホームを歩く。乗車客があたり一面に散れている。観察してみたが、怪しいという風に目に止まる人物はいなかった。

 ――さあどうする、と考える。

 電車に乗らなければスピーディーに移動できないが、乗りこむことは賭けなのだ。なにせ決まった場所へ到着するまで、車内は密室だ。逃げ道がない。

 電車が着いた。それぞれ乗車していく。洋助は全員が乗るまで考えていた。そして、閉まるぎりぎりになってから駆けこんだ。やはり、この場を離れなければならない。

 乗り替えをするまで扉の正面を動かなかった。各駅に停車するごとに逃げ出そうかという焦りに襲われたが、どちらが非効率か計算することで心を鎮めながら、なんとか車内に止まっていた。

 西武池袋線をまえにして、池袋へ上るか、埼玉方面へ下るか迷ったが、注意力が切れてきたので下ることにした。いきなりの追跡で疲れがあるので、とりあえず都心部から離れてみようと思ったのだ。

 ふたたび電車に乗ると、呼吸が少しずつ落ち着いてくる。頭には、なんとか逃げ切れた、という文字が浮かんだ。

 ――が、そのとき、洋助は息をとめた。

 隣の車両へ何気なく視線を移したときに、その人物を捕らえた。

 あの顔を覚えている。都島園へ入園してすぐのとき、フードコートまでついてきたことから尾行を疑った男だ。

 ひとはそれぞれ生活を送っているのだから、本日のうちとはいえ同じ電車に居合わせる確立はある。しかし、これは偶然ではないと思った。男は車内を捜索している。乗客の顔を確認しながら、こちらへ向かってきている。あの男はやはり、追っ手だったのだ。――なぜあのとき行動にでなかったのだろうか、という疑問も浮かんだが、いまはそれどころではない。

 洋助は隣の車両へ移ろうと考えたが、いま乗っているのが最後尾だということを思い出した。――まずい、という焦りが心拍を速める。男はもう少しで、車両を区切るドアを開けて、こちらにやってくる。どうしようどうしよう、と繰り返し考えた。

 まもなく――という車内放送が鳴った。それを聴いて、そうだ下車すればいいのだ、という思考に行きついた。だが、まもなく、とはどれくらいの時間をいうのだろう。もう男は、すぐにでもこの車両に入ってきてしまう。だからもっと正確に伝えてほしい。まもなくとは「間も無く」と書くはずなのに、すでに何秒も経過しているではないか。だったらまもなくではなく、何秒後なのだと正確に伝えてほしい。

 男が車内を渡ってくるのが見えた。扉を開けている。洋助は背中をむけた。

 そして十秒ほどが経つ。

 すでに男は、背後から迫ってきているだろう。ここの車両は乗客が少ないから、捜索速度もはやいはずだ。きっとぐいぐいと、洋助に迫っている。

 駅についたのはそのときだった。洋助は一歩だけ移動すれば下車できる位置に立っていたので、素早く外に身体を出した。そして歩きながら、一応、ちらりと車両を確認する。

 ――男と目があった。

 ふたりとも動きが停止し、なぜかお互い、五、六秒はそのままでいた。

 ややあって、男が洋助にむかって走り出す。逃げなければならない洋助は、スタートが遅れた。しかも、足がもつれて転んでしまった。

 ――捕まる、と考えながら振り返る。

 男は、洋助を見下ろすように眺めていた。

 しかし、彼と洋助の間には扉があった。つまり、電車の扉が閉まったのだ。

 車体が空気を吹き出すような音をたてて、ゆっくり発進する。男は故郷を旅立つ青年のように窓際に立ち、置いていかなければならない恋人を憐れむような目つきで洋助を眺めていた。

 動揺しすぎていて、なぜか男が乗っている電車を見送ってしまった。それからやっとはっとして、急いで改札から出る。

 もう日が落ちていた。駅前で居酒屋の勧誘に引っ掛かったが、平手をかざして抜き去る。

 そうだここはどこだろう、と思いながら振り返ると、駅には「ひばりヶ丘」と書かれていた。西東京市だと認識している。埼玉までとはいかなかったが、それなりの距離を下ってきたようだ。

 近くに交番が見えたので、そこから距離をとるように歩き、すぐにでも発車しそうなバスに乗った。ひとまずこの場所からは移動したほうがいい。捜査員はすぐにでもこの駅にもどってくるはずであるし、ほかの人員も連絡を受け、むかっているはずだ。

 まだ脈拍が小刻みに跳ねている。「追われる」という焦燥感は想像よりもずっと疲労を背負わせ、ストレスになった。

 後部座席で揺られながら、ここまでの動向を反芻する。いよいよ、たしかに自分は追われているのだと認識することができた。都島園の内部にまで捜査が及んでいるとなると、それなりの人員が振られているのかもしれない。

 終点だと放送されたのでバスを降りる。「田無」という駅だった。

 ここにも交番があったので、すぐにでも移動しなければならなかった。見渡してみると、駅の二階から、隣接するデパートにむかって広々とした通路が伸びており、所々にベンチもあったことから、ひとまずそこの一角に腰をかけた。捜査員が散らばっているのなら、動きまわればいいというわけでもない。

 まずは身を隠すことだ。それは理屈だけではなく、追跡の恐怖に心が怯えていることもあった。とにかく、いまは安全で、誰もいない場所で呼吸がしたい。

 サラリーマン風の男が近くに座ったので、立ち上がってべつのベンチに移動した。どんな人間だろうと、そばに寄らせるのは危険だ。

「逃げれ、ましたか?」

 クミがいった。事態は把握していたらしい。

「まだわからない」

「……どこかで、遊びますか?」

「だまって」ぴしゃりという。「それどころじゃないことくらい、わかるだろ」

 数秒あってから、「……はい」という、寂しげな、小さな声がした。

 それを聴いて、洋助ははっとする。

「ごめん、クミ……。いまはすこし疲れてて、気がまわせなくて」

 実際に、駅前は騒がしく、彼女の声など洋助以外に聴こえるわけもなかった。それにおそらく、遊びますか、の意図は、洋助を元気づけようと気を遣ってくれたのだ。

「たぶん、ワタシの、せいです」

 微笑しているが、悲哀を滲ませる物言いだった。本日、彼女を楽しませた出来事が帳消しになった気がして、なんだか悔しい気持ちになる。

 しかしそれが効いたらしく、やっと頭が冴えてきた。まず、彼女にあたるくらいなら逃亡などやめてしまえと自分を叱った。心のなかで怒鳴ってやった。逃げながら遊ぶ、この綱渡りを選んだのは洋助自身なのだ。いったい自分は何様になったつもりだったのだろうと何度も反省した。

「ほらクミ」前方を指さす。「音楽をやっているよ。咲音クミが大好きな、音楽だ」

 通路の対岸に座り、フォークギターを弾いている。ストリート・ライヴというやつだ。

 わお、とクミは目を見張った。

 しかし残念なことに、音は喧騒で掻き消されている。音だけではない、奏者自体の存在すらも霞んでいた。それを証拠に、だれひとり立ち止まる様子がない。

 目立とうと努力をしている者にすら見向きをしないのだから、液晶に話しかける洋助のことなど、世間は意識の片隅にもないかもしれない。そう考えるとなにやら心が軽くなった。そしてそのお礼ではないが、すこしの間くらい観客になってあげようという気持ちにもなった。

「聴いていこうか、クミ」

 彼女は洋助を見上げた。「……でも、逃げれ、ますか?」

 もちろんと答える。「大丈夫。ごめんよクミ。きみが心配する必要はないんだ」

「じゃあ……」クミは目先を奏者に移した。「はい。聴きたい、です。歌、音楽、ワタシ、好きです」

 人波を縫い歩いて正面までむかうと、意外にもまだ若い女だった。高校生の高学年くらいだと洋助は予想する。ちょうど歌は止んでいたが、彼女はこちらをちらりと見ただけで愛想笑いもせず、チューニングを行っている。頭を下げるくらいの動きはあるかと思ったので、そっけない対応に感じた。

 まもなく歌がはじまったのだが、それでも観客は洋助だけだった。今度はさっきよりも声を張っているし、技術的にも下手くそだというわけではないが、それでも人々は流れ去っていく。たしかに、人生を刻む貴重な時間をかけて耳を貸すには、まだ不十分なメロディかもしれない。この人間が歌わなくてはならない、という魅力が、伝わってこない気がするのだ。

 彼女は雑踏のなかに捨てられた猫が鳴くようにして二曲歌った。洋助は一曲目もそうしたように、手を叩く。それでも彼女は反応をみせず、そばに置いてあるスポーツドリンクを飲んでいた。

「もう、行っていいよ」こちらも向かずに彼女はいった。「これ以上聴きたいなら、金、とるからね」

 なんて横着ぶりだろうと驚いた。無客だったというのに。

「そんな価値ないって思ったでしょ」

 正直、思った。彼女は続けた。

「そうだよ。そのとおり。あんた、観客がいないから同情してくれたんでしょ。いいよ。わかってる。その気持ち嬉しいよ。あんたはいい奴だ。さんきゅ。でもあたしは大丈夫だから、行きなよ」

 顎をしゃくられたが、洋助は動かなかった。「それはぼくが決めるよ」

「ま、それもそうなんだけどさ。でも意地になると、時間を無駄にするよ」

「時間ならあるんだ。……余裕はないんだけど」

 ふうん、と物珍しそうに視線をむけてきた。やっと顔を正面から見れた気がする。奇麗な顔つきだった。「なんだ、あたしとおなじじゃん。ならいっか」

 ジャカジャンとギターを鳴らす。それからすぐに歌がはじまった。今度の曲は割りと好きだった。少しとはいえ言葉を交わしたからかもしれない。心には愛着という不思議なゾーンがある。

「さんきゅ。きょうはここまで」

 その歌が終わってからいった。

「そっか。よかったよ」

「そりゃどーも」お世辞だとわかっている顔だ。

「大きなお世話かもしれないけど、愛想笑いのひとつでもあれば、もっとお客さんが止まってくれると思うよ」

 彼女はギターをケースにしまいながら答えた。

「そんなひきょうな真似はしない」

 ――ひきょう? と問う。

「そう。ひきょう。だって、そんなことしたらお客さん、帰り辛くなるでしょ。みんな忙しいのにさ。でもこうしとけば、あんたみたいな変わり者がいないかぎり同情はされない。聴きたければ聴くし、帰りたければ帰る。それが現実。正当なあたしへの評価」

 彼女は視線を周囲に走らせた。いまだに立ち止まるひとはいない。これがその現実、といいたそうだった。

「うん。その考え、とても立派だよ」どうも、といわれて、「支持はしないけどね」

 睨まれた。「どっちだよ」

「きみも一度くらい、面接を受けたことがあるだろう? それとおなじだよ。成績が同じでも、面接で差がつく。だからひとは、勉強以外もしなくちゃならないんだ。つまり、きみと同じ技術力をもったギタリストがいれば、笑顔のひとつでもつくれるほうが社会的には有利なのさ。それは、ひきょう、じゃない」

 舌打ちがあった。「はいはい、わかってるよ。そうだよ言い訳だよ。……苦手なんだ、そういうの」

 意外にも素直だ、と感心した。単純なだけかもしれないが。

 彼女は手をひらひらしながら、「ほら、もう行きなよ」

 その直後、ポケットから声がした。クミだ。

「行くまえに、いいですか? いけませんか?」

 こらクミ、と注意する。もっとも、どうせ黙っていそうもないと予想はしていたので、なるべく冗談ぽく注意した。

 奏者の彼女は、はあ? といいながら、目を細めて、洋助のポケットを凝視する。いけませんか? とクミが続けた。

「なにそれ、咲音クミ? うける」鼻で笑う。

 わお、とクミはいった。「セーカイです。ワタシ、クミです。あなたは、なんですか?」

「すごいね。アプリケーション? 最近のって、こうなってんの?」

 シーマンってゲームあったよね、と彼女はいった。たしかにひとむかし前、ひとの言葉に受け答えする、不気味な魚を育成するテレビゲームがあった。

 洋助はなんといおうか迷ったが、「まあ」とだけ返事をした。

「あたしは亜衣。こんばんはクミ」亜衣というらしい。なかなか穏やかな物言いだった。その雰囲気から、悪い人間ではないなと思う。

「アイさん、こんばんは。これ、夜のあいさつ、なんと、しってます」

 なんか可愛いじゃん、といいながら彼女は立ち上がる。「じゃあ、あたし行くよ」

「忘れものだよ」

「ん? なに」地面をきょろきょろする。

 洋助は財布から千円冊を二枚抜いて渡した。「これだよ。きみはいったろ。これ以上聴くなら金を取るって」

「え……いいの?」

「もちろん。歌に対価があるのは間違ったことじゃない」

 そうだけど、といいながら亜衣は手を伸ばす。それでも一度は手を止めたが、最後は躊躇いながらも紙幣を受けった。「……あんた、名前なんていうの?」

「ぼくは洋助」

「洋助、か。その……ありがとう」

「さんきゅ、よりもずっといい」

「そう? さんきゅ」おっと、といって口に手をやる。

 洋助は短く笑って、「じゃあぼくも行くよ」

「ああ待って」

 袖を引かれた。「時間、あるんでしょ? なんだか気分いいから、酒でもつきあってあげる」あげるときた。「そんなアプリつかってるんだから、あんた寂しいんでしょ?」

 洋助は苦笑してみせる。プライベートを思い出してみると、あながち間違ってもいない。

「でも未成年がお酒はいけない」と返した。

 ――未成年? と怪訝な顔をされる。それからすました顔で長い髪をかきあげた。

「ハタチだよーあたし。いまどき、そんな口説き文句じゃ彼女できないって」

 それは失礼した。高校生ではなかったようだ。

 さてどうしようか、と迷った。いまからこの地を動くより、どこかに潜みたいというのが本心だ。「このあたりに詳しいの?」

「まあ、地元だから」

「お酒を飲むなら、ゆっくりできる空間がいいんだ。個室、または奥まった席があって、照明は暗め、それに強めの音楽があるといい。そんな場所はあるかな」

「あるよ。馴染みのショットバーがそんなん」その方向にあるらしく、空を指さす。「でもあんたが払ってよね。バーで二千円じゃ打ち上げになんないし、なによりあたしはデートしてあげるんだから」

 また苦笑を返した。「ぼくも余裕はないんだけど、うーん、とりあえず案内してくれたら考えるよ」

 おっけ、といって亜衣は歩きだす。

 五分も歩くことなく店には着いた。『BAR・ソレイズ』という看板が路地にぽつりと立っている。

 縦に伸びるカウンター十数席と最深部にテーブル席がひとつ、といった店内だ。亜衣は本当に馴染みらしく、テーブルがいいというと、ふたりであるにも関わらず、奥の六人掛けソファーへと通してくれた。たしかに、ここならば奥まっているし、暗めの照明具合も加勢して顔を見られない。音楽のボリュームもそれなりに捻られているので、クミの声も消されるだろう。しっかり条件は満たされている。これはご馳走する羽目になりそうだ。

「スロージン・ソーダ。甘さ控えめ、レモンふたつね」

 おしぼりを運んできたバー・テンダーに慣れた口調で亜衣がいった。洋助はなにを頼もうか迷ったが、以前友人から教わったカクテルをオーダーした。

 彼女はしばらく携帯をいじくっていたが、「さっきの見せてよ」といってきた。

「さっき?」

「あのアプリ。ボーカロイドのやつ」

 一度見せておきながら隠すのもわざとらしいので、液晶をテーブルに立てた。クミはポケットの狭隘なスペースから店内を眺めていたので、いきなり視界が開けてはっとしたが、もうユースマイルで嬉しそうにしている。ポケットから出されたイコール、お話ができるのだ、という解に至ったらしい。

 おーいクミ、と亜衣はいった。クミは、出てきました、といいながら手をふっている。

「どこでダウンロードできるのこれ。いま探したんだけど見つからないんだよね。だいたいこの液晶、これ、スマートフォン? いや、タブレット? 見たことないデザインだけど」

「ないしょだよ」と洋助はいった。

 なんか違法なやつダウンロードしたんじゃないの、と亜衣は訝しげだったが、そのタイミングで酒が出てきたので話が途切れた。

 彼女はロングカクテルを半分くらいあけて、かーっ、と中年のように叫び、また液晶を見ている。一方のクミは感心したように、「キレイな色、です。見たこと、ないです」とグラスを眺めている。たしかに、カクテルの色というやつは美しい。行き当たりばったりだが、これも見せることができてよかったかもしれない。

「すごいね」と亜衣がいった。「見えてるの? 声に反応してるとかじゃなくて? じゃああたしだって認識してるの? そんなことって……。まるで本物じゃん」

 洋助は訊いてみた。「本物だっていったら信じるかい?」

「んなわけないでしょ」

 呆れたような返事がある。亜衣はミュージシャンであるから、クミの知名度を理解している。この場にいることなど信じられるわけがない。

 続けて、「咲音クミ、聴いたことある?」と尋ねた。

「ないよ。ばからしい。――ねえ、おかわりしていいでしょ?」

 いいよといって、「ボーカロイドは嫌い?」

「大嫌い。こんなのがいるから、ミュージシャンたちは苦労してるんだ。たしかにキャラクターは可愛いよ。でも、だったら、写真集とか、文房具とか、グッズで売り出せばいいじゃない。音楽業界まで乗り出してこないでほしいよ」

 液晶を睥睨しながらいった。クミ本人は瞳をぱちくりさせながら、肩を狭めた。亜衣が不機嫌だということは察したらしい。そしてそれが、自身にむけられた悪意だということもわかったようだ。

「……アイさん、楽しく、ありませんか?」とクミはいった。

「楽しくないよ」グラスをあける。一杯目というやつは効くので、目元に酔いが感じられた。「これはいっとく。あんたがいると、音楽界は衰退する」

 亜衣はつぎのグラスもいっきにあけた。そして、これおかわり、とバー・テンダーにいう。心のどこかに火がついたようだ。

 そんな彼女を見ているクミは、「スイタイ、なんですか?」と、尋ねた。

「あたしさ、剣道やってたんだ」小学生の頃、という。「知ってる? 竹刀ってのは昔、なかったんだ。木刀だけだったの。でも、竹刀は木刀とくらべて柔らかいし、痛くないし、怪我しないし、すごく画期的だったから広まった。でも剣道はさ、それで衰退したんだ。確実に弱くなったんだ。つまり便利さは、ときに力を削ぐってこと。それとおなじだよ」

 亜衣はテーブルへ置かれた桃色のカクテルを眺めた。

「咲音クミ、あんたはすごいよ。売り出しかたも上手だし、ひとにできないことをなんでもこなす、技術の塊だ。すごく画期的だ。でもそれは、裏返せばとてもひきょうだよ。音楽業界を衰退させてるだけなんだよ。生音ってやつの価値が、どんどん消えてく。一生懸命、楽器を練習するって価値がどんどん消えてく。……それがあたしは怖い」

 意図が伝わったとは思えないが、あやまりたいです、とクミはいった。

「それはちがうんじゃないかな」と洋助はいう。

「そうだね。アプリケーションに文句いってもしかたがない」

「ちがうよ。きみの理念がさ」

「あたし、いま難しいこといわれてもわかんないよ」

「それはずるい」といって、「厳しいことをいうようだけど、それはきみの努力が足りないだけだ」

 酔った瞳で睨まれた。「ファンがボーカロイド庇うと気持ち悪いよー」

 それでも洋助はいった。「だいたい、CD売り上げのトップは咲音クミじゃない。人気バンドも入ってる。その時点で生音というやつにニーズがある証拠だ」

「妨げになるっていってるんだよ」

「そんなの、どんな業界にだってある障害だよ。そもそも便利さを衰退だなんて思ったらだめだ。楽器なら……そうだな、たしか、アクティブというものがあるよね。楽器本体に電池が内蔵されたことによって、いままでより簡単にイコライザー分野に幅がでる。それは衰退なの? 新しい世界への前進ではないの?」洋助は続けた。「きみはインスタントラーメンを食べるかい? レトルト食品を買うかい? いまは安価で美味しい商品がたくさんある。でもそれによって飲食店が困ると考えたことがあるかい? レトルト食品に、咲音クミへむけたような憎悪をむけたかい? その便利なアイテムに対して、ひきょうだと考えたかい? どんな業界にも、といったのはこれだよ。たしかにきみは音楽をやっているから、咲音クミというアーティストを好ましく思わないかもしれないけど、それを忌避するのは、視野が狭すぎる。過去にはストーブが石炭や炭団を不況産業にしたし、携帯電話が公衆電話を減少させた、それも同じことなんだ。しかしそれでも、完全消滅はしていない。だからむしろ、きみは生音という存在を目立たせるべく、奮起するべきだよ」

 亜衣は顔をそらした。「だから、庇うと気持ち悪いって」

「関係ない」

 亜衣は苛々したように、ああーっ、といってスロージン・ソーダをあおった。

 それから一息ついて、「……わかってるよ。ごめん。馬鹿にするつもりはなかったんだ」

 苛々は自分にむけたものらしかった。

「いいよ。ぼくも悪い。咲音クミのファンなものだから、ムキになったよ。たしかに、気持ち悪いかもしれないね」

「だから違うって。ごめん。冗談だって。あんたが好きなのが咲音クミだろうがバンドだろうが、言い負けそうになると気持ち悪いっていってたと思うし」

 洋助は微笑んだ。「きみは素直だ」

 さんきゅ、と亜衣はいう。「でもなんだかあたし、ダサいよね。自分が売れてないって理由をいつも探してる。いつもなにかのせいにしようとしてる。あたしはがんばってる、それでも成功しないのはアイツが悪いんだ……てさ」

 話し終えてから、おかわり、という。すこしお会計が心配になってきた。

「――ダサく、ないです」

 と、遠慮がちなクミの声がした。なので、ふたりとも液晶へ顔をむけた。

「すごく、がんばって、ます」とクミは続けた。

 もう酔った口調で、「励まし機能もあんの?」と亜衣はいった。

「楽しくない顔、させました。それ、たぶん、ワタシのせい、です」

 だから違うって、と亜衣は返す。

「ヨースケ、アイさん、とても、すごいです。ヨースケ、ワタシを、助けてくれます。アイさん、歌を、聴かせてくれます。だめなの、ワタシです。あやまりたい、です」

 亜衣は洋助を見て、また画面に視線をもどした。クミが続けた。

「アイさんのこと、ワタシ、好きです。でも、たぶんアイさん、ワタシを、嫌い、です。それ、わかります。あってますか?」

 なによこれ、という亜衣の呟きがある。いよいよ不自然に思えてきたらしい。

「ワタシ、じつは、知ってます。ちゃんと、わかってます。会社のひとたち、たまに、話してます。聴こえます。ボーカロイド、なんて、ニセモノ、キモチワルイ。これ、ワタシのことです。たぶん、これ、褒めてないです。わかってます。あってますか? ワタシ、キモチワルイ、ですか? でも、アイさんは、ダサくないです。ヨースケ、キモチワルく、ないです。それ、ワタシです。あやまりたい、です」

 クミはぺこりと頭をさげた。

「ゆるして、ください。ワタシ、歌えと、いわれたんです。歌わないと、たぶん、消されます。アイさん、楽しく、させていないかも、しれません。それ、あやまりたい、です。ワタシ、ボーカロイド、ニセモノ、キモチワルイ、とても、だめです。知ってます。迷惑かけてます。でもアイさん、ホンモノ、とてもすごい、ワタシより、すごい。それも、知ってます、わかってます。だから、ゆるして、ください」

「……もういいから」鼻をすすってから彼女はいった。「ちがうんだ……ごめん」

 クミは笑った。「だから、おトモだち、なれませんか? ボーカロイド、だめですか? だめじゃないですか?」

「あたし」瞳を拭う。「夢みてんのかな」

 洋助も目元に手をやった。「そう思ってくれたら助かる」

「なんだかワケありって感じだね」亜衣は、強くて優しい子、といいながら液晶に顔を近づけた。「咲音クミ、あんたはライバルだけど、トモだちだ。一番の友達にしてやる」

 わお、といって、「一番、それ、うれしいかも、しれません。でも、ヨースケが、ワタシの、一番です」

 意外な言葉で驚いた。

 へえ、と亜衣がいう。「なんだか好かれてんじゃん」

「ああ……うん」変な感じがしたが、嬉しかったので笑っておいた。

 亜衣がもう一度鼻をすする。

「あたし、フリーのシンガーじゃなくてバンドマンなんだ。あたしがギターヴォーカルで女四人組。ぼちぼち客、集めてんだよ。まあ、いま、活動休止中なんだけど」

「どうして」

「あたし、ステージ衣装で短いスカートはくんだけど、なんか、対バンの奴らに文句いわれてさ。心折れちゃって」対バンとは、その日に同じステージに立つバンドグループのことだと教えてくれた。「べつにそんな衣装、あたしだけじゃないってのに、自分たちの客取られるとすぐに僻みやがるんだから、困ったものだよ。いっとくけど下着が見えるようなやつじゃないよ? ふつうのミニ。ステージって熱いからちょうどいいんだ」

「たしかに、それは悪くないと思う。でも文句って、どんな?」

 亜衣はクミに目をやった。

「あんなのひきょうだって。気持ち悪いって、さ」

 いいながら液晶をこつこつ爪で鳴らす。おおお、とクミはいった。

「……あたしがクミにいったのと、同じだね」亜衣は申し訳なさそうな顔をした。

 クミは首をかしげた。「アイさん、キモチワルく、ないですよ?」

 亜衣はふふふと微笑んで、「どうしてなのかな」

 なにがですかとクミはいった。

「どうしてひとって、こうなんだろう」

 クミはまた首をかしげた。亜衣の瞳が水面のように揺れていた。

「――ああそうだ」といって彼女は柏手を鳴らす。「気になってたんだ。クミあんた、なにかいいかけたよね。外で、ほら、ここに来るまえ」

 洋助も少し考えて、ああ、と思い出した。ストリート・ライヴが終わり、ほら行きなよという彼女に、行くまえにいいですか? とポケットから声をかけた。

「なんだか、あやふやになっちゃってたけど、あれなに? この子、覚えてるかな」

 クミは笑顔で答えた。「もちろん、です。ワタシ、いろいろ、覚えてます」

 おーえらい、といって、「んで?」

 洋助は歌に対するお礼かなにかだと考えていたが、その予測は違っていた。

「ギター、ワタシ、知ってます。でも、アイさんの音、すこし、へんです」

 たしかに咲音クミは、デジタルで精密に具現化されたギターを弾くことがある。

「……チューニングのこと?」

「高い音、低い音、あります。それ、よくない、です」

 へえ、と感心したように亜衣は頷いた。「うん。ヘッドとブリッジの調子が悪いんだ。だからどうも安定しなくて。クミ、あんたやるじゃん」

「歌、音楽、これ、得意です」

 そりゃボーカロイドだからね、といって、「あたしの歌はどうだった? 路上じゃあんなんだけど、ライヴハウスじゃ、なかなか評判いいんだよ」

「まだまだ、です」

「うわむかつく」

 クミはブイフェイスで笑った。「冗談、ですのに」

 まったくといって亜衣は腕をくみ、「からかう機能なんて必要ないだろ」と、どこか愉快そうな顔をしながら吐息をついた。

「――でも」とクミが続ける。「まだ完璧、ではないです。歌も、ギターも、なんだか、不安な音です。もっと自信、あるといいです。そしたら、楽しいです。これ、大切です」

 亜衣はテーブルに肘をついて、手のひらに顔を乗せ、液晶を見つめた。

「……そうかもね。たしかに、あたし独学だから、理論もわからないし、譜面も読めないし、不安だらけなんだ」

「それ、たぶん、まだまだ、です」

 うわむかつく、とまたいった。「だったらあんたが教えてよ。そーいうの、できんの?」

「そーいうの、できます」

 これすげえな、と亜衣は洋助にいった。「よしきた。じゃあ、場所変えて飲みなおそう。ここじゃギター鳴らせないし」

 だめでしょ? と彼女はバー・テンダーに問う。ちょっとそれは、と困った顔で返事があった。それはそうだ。

「でも、飲みなおすってどこで?」と、洋助は尋ねた。「ほんとうに余裕があるわけじゃないんだ」

「なによ。暇人が帰るつもり? つきあいなさいよ」これだから酔い人はいやだった。「クミとも仲良くなったんだから、帰るなんて許さないから」

 ね? と亜衣は液晶にいう。セーカイです、とクミはいったが、おそらく事態を理解できていないと思う。

「そうだな……。さっきぼくが出した条件が揃ってて、安い場所なら考えるよ」

「ばっちり」

「フランチャイズかい?」

「あたしの部屋」しれっという。

 慌てて、だめだめ、と首をふる。「そんなわけにはいかないよ」

「なんで」

「きみひとりの部屋なんでしょ?」

「うん。だからいいじゃん」

「まったくよくないよ」

「なあに? あたしに欲情する可能性があるってこと? だから不安なの?」

「きみは酔いすぎだ」

「じゃ、介抱して」チェック、とバー・テンダーにいう。「大丈夫だって。あたしは洋助のタイプじゃないと思うし」

「なんの話かな」

「だってあたし」にやにやしながらクミを見る。「ツインテールじゃないし」

 クミはそのキーワードを知っているらしく、二つ結いを握って嬉しそうに揺らした。

「洋助はさ、こういうのが好きなんでしょ?」

 やれやれと首をふる。ハタチの少女にずいぶんからかわれたものだ。しかしファンとして、そうなのか、そうでないのか、わからない問題でもあった。咲音クミをたしかに愛しいと思っている。それが自分のなかでどんな感情に至っているのか複雑なのだ。触れることはできないのに、彼女には人格があるため、どうも心が煩雑をみせる。

 それからお会計を済ませてバーを出た。そしてとりあえず、亜衣の部屋へと向かっている。最初は戸惑いもあったが、徐々に、自分が置かれている状況にも戸惑っていることが思い出されてきた。現在、洋助は逃亡中の誘拐犯なのだ。

 考えてみれば、願ったりの展開だとも思えてきた。他人の部屋なら、チェックインがないので顔が見られない。それに、しっかりとした寝床がある。費用もかからない。そして警察も予測が不可能である。まるでいうことがない。

「亜衣、ぼくはこの街に住んでいるわけじゃないんだ。いまから腰をすえて飲みなおしていたら電車がなくなってしまうよ。だから、朝までいさせてもらうけどいいかな」

「おーけー」と亜衣は指で円をつくる。「泊まっていきなよ」

 数分歩いた場所にあるアパートの三階が彼女の部屋だった。コンビニで買い出し――念のため洋助は店内に入らなかった――をしてからなかに入る。間取りは八畳の部屋がある1DK。ひとりなのだから六畳の1Kでも充分に思えたが、最近の子は多少の家賃は覚悟してでも快適な空間を求めるらしい。

 亜衣は部屋へ着くなり安酒とおつまみを床に広げてギターを手にしている。持ち帰ってきたフォークギターではなく、隅に立て掛けてあったエレキギターだ。

 立ったままでいると、「適当に座って」とやっと声がかかった。「ああそのまえに、なんでもいいからコップ持ってきて。あと氷もね」

 この一室のなかでは親しい友人のように扱われるらしい。

 それを運ぶと、クミかしてよ、と彼女はいった。

 液晶をポケットから出して床に立て、洋助も腰をおろした。フルーツソーダを飲みながら、なんとか今夜も逃げ切れそうだ、と考え、やっと安堵する。しかしいよいよ追跡がはじまった。そして明日にはますます警戒網が濃く、太くなるだろう。

 ――時間の問題かもしれない。

 公開捜査も目前なのだ。本来ならば、こんなに悠長な雰囲気でいられる状況にない。クミを他人の目にさらすなど、もってのほかなのだ。

 洋助は亜衣とクミのやりとりを眺めた。意外にも気が合うようで楽しくやっている。性別も同じであるし、ボーカロイドとはいっても、そういうものなのかもしれない。

 でもこれでいいんだ、と思った。逃げながら遊ぶ、本日決めたこの方向性を崩すつもりはない。――だからこそ、とも思う。すこしでも長く逃げるんだ、と。

「そうだあたし、この曲、知ってるんだよね」そういってから亜衣が奏でる。咲音クミのヒット曲だ。「雑誌に譜面が載ってたから」と添える。知っている曲を弾いてもらうと、なんだか妙に嬉しくなった。

「うまいんだね」と洋助はいう。

「まーねー」自慢げに亜衣は笑った。「どうよ咲音クミ」

 珍しく、どことなくしかたなさそうにクミは答えた。「似てますが、ちがう曲、です」

 ほんとむかつく、と亜衣はいう。クミは続けた。

「止める、伸ばす、これ、大切です。似てるだけ、だめです」咲音クミのミュージシャンとしての瞳を見た気がした。「ワタシも、いわれました。これくらいでいい、とか、これくらいで満足、とか、そんな気持ち、怒られました。まずは、譜面、最後まで、正しくなぞります。これ、セーカイです」

「あんたボーカロイドでしょ。最初から完璧じゃん」

 洋助は、「ちがうよ」といった。「プログラムすることもできたのだろうけど、咲音クミはどこまでも人間らしく育てられたんだ。だから練習のときは歌詞を間違うこともある、音程を外すこともある。でも彼女はミュージシャンとしての意識が高くて、ちゃんと勉学しているんだ。だからこそ、頭ひとつ飛び出した社会的評価をうけているわけだよ」

「いや……その」亜衣は逡巡した。「それはすごい、けど……、だったらこの子、本当に本物なわけ?」

 余計なことをいったようだ。しかし、どのみちごまかしきれるとは考えていなかった。ここまで高性能なアプリケーションが存在するわけがない。いずれ訊かれていたと思う。

「なんともいえないんだ」

 亜衣はなにかが変だと感じている様子でじっと洋助を見ていたが、一息ついてから、

「わかったなにも訊かない」

 といってギターに視線をもどした。助かるよ、とだけ洋助はいった。

 また咲音クミの曲を弾きはじめた。今度は雑誌を開いて、載っている譜面を眺めている。しかし、ちがう曲です、とクミがいう。もはやなにもいい返せない亜衣は舌うちをした。

「なにがちがうのか、わかんないんだって」

 クミは人差し指を顎にあてて首をかしげる。「音符、わからない、ですか?」

「いつもタブ譜か耳コピだもん」

 クミは一度頷いて、「それも、すごいです。ですが、音符、大切です」彼女は瞳を伏せ、胸のまえで手を握りあわせた。「音楽は、音符と、音程と、拍に、支配されています。それを、描いたのが、譜面です。――音符は、散らばる果実です。それを、ひとつ、ひとつ」クミは弓弦をひくような仕草をする。「正しく、射抜きます。外すと、だめです。危険です。どこに当たるか、だれに当たるか、わかりません。そんな、イメージです。とても、頭、心、疲れます。これ、正しい、練習です」

 内容も言葉も、奇麗なものだと思った。さすが音楽のこととなると、トップ・アーティストの影を落とす。

 亜衣はひょいと両手をあげて、はいはいわかったよ、といった。呆れたようなそのそぶりは、自身がやってきたことの甘さを恥じているのだとわかった。

「しっかり学ばせてもらいますよ、お師匠さま」

 なんだか燃えてきた、といって洋助にむかって片目を閉じた。それから、そもそも四分音符ってなによ、と訊いている。クミは、それ知りませんかあ……といって、思いなしかげんなりしていた。愉快な反面、こんな対応もとるのだなと意外に思う。

 洋助はテレビでニュースをチェックし、お風呂を借りてから横にならせてもらうことにした。きょうはずいぶん動いたので、すでに睡眠欲がおぶさっている。

 あたしのベッドつかっていいよ、といってくれたが、さすがに遠慮して床へと身体をあずける。気をきかせて亜衣が明かりを絞ってくれると、すぐに眠ってしまった。

 彼女たちのレッスンは遅くまで続いたらしく、途中、歌とギターの音色で何度か目を覚ました。「メジャー・スケールってなによ」と亜衣が訊いてるのも耳に入った。それ知りませんかあ……と、またくたびれた声もしていた。


 暑い朝にうなされて目を覚ました。先ほどまでエアコンが効いていた記憶があるが、タイマーがセットされていたらしく、いまは冷風を吹かなくなっている。もう九時だった。

 クミは膝を抱えて眠っていたが、亜衣はいない。物音がしないから、坂井田の時と同じく、どこかに出掛けたらしい。

 ちょうど玄関が開き、待たずして彼女は帰ってきた。これまた同じく、コンビニへ行っていたらしく、昨夜買い出しをした店舗のレジ袋を手にしている。ごはん買ってきてあげたよ、と亜衣はいった。あげた、を強調する発音だ。袋にはおにぎりとドリンクが入っている。イクラはあたしのね、といわれた。具のことらしい。

「ありがとう。助かるよ」

「正直、面倒だからあんたにあたしのぶんも頼もうと思ったんだけど、考えてみれば昨夜さ、なぜだか洋助はコンビニに入らなかったからね。なにか事情あるんでしょ」まあ訊かない約束か、と亜衣は添えた。

「ごめんよ。迷惑はかけない」

「いいって。朝飯代と宿泊費もレッスン料金に含むってことでタダにしてあげる。逆にこっちが足りないんだろうけど」

 咲音クミだもんなあ、といいながら亜衣はこつんと液晶を突く。眠っていたクミはぴくりとしてから片目をあけ、すぐにニコニコしながら手をふった。アイさん見つけました、といっている。

 亜衣は、はい見つかりましたー、と適当に答えて、「顔でも洗ってくれば」といった。

 頷いてから立ち上がり、洗面台へと向かおうとしたが、そのまえに気になったことを尋ねる。

「なにを買ったの?」

 彼女がもどってきた際、右手には洋助への朝食、左手には小さな段ボール箱を乗せていたのだ。いま見てみると、大手ネット通販のアマンゾという名前が書かれている。補強のためか、ガムテープが巻かれていた。

「コンビニで受け取ってきたの。やっと買えたんだから触んないでよー」

「CD?」

「女が見るアダルト・ビデオ」

 ああごめん、となぜか謝ってしまった。彼女は笑った。

「なに焦っての。冗談だよ。好きなバンドのビデオ・クリップ」

「なんだ。きみはひどいな」

「クミよりましだって。知ってる? こいつの音感すごいんだ。ちょっと音はずすと、ちがう曲です、だもんなー。ひどすぎる」

 それとこれとは話が違うような気もしたが、それはさておき、とりあえず顔を洗いに水場へと歩いた。顔に水を浴びせてから、「ビデオ・クリップか」と呟く。よく部屋で咲音クミのDVDを視聴した。いつか亜衣にも渡してやれば喜ぶかもしれない。一方、坂井田に送りつけてやればどんな顔をするだろうかと思うとおかしかった。

 それよりも――と、思考を現実世界へともどす。きょうも泊めてくれといったら亜衣はどんな顔をするだろう、と考えた。この環境はベストだ。予測できない者の部屋、ひとり暮らし、しかも彼女はクミに対して神妙な顔をしながらも、追及をしてこない。

 ――ここなら発見されない。

 しかし、迷惑はかけられない。昨夜はともかく、公開捜査がはじまれば、彼女の心理に誘拐犯をかくまっているという意識を与えてしまう。もちろん社会的にも、犯人蔵匿等罪というものがある。そうなれば迷惑どころの話では済まされないだろう。

 ――だが、逃げるならどこへ……。候補がひとつ生まれてもいるが、それが最善なのかどうか判断ができなかった。そもそも最善などないのだ。どこへ行こうが、これは追跡者とばったり出くわしてしまえば幕を閉じてしまう逃走ゲームなのだ。再び心に重石が乗ったとき、昨日のようにクミを叱ってしまうかもしれないと考えると憂鬱になった。

 部屋にもどった。クミは顔を揺らしながら鼻歌を歌っている。亜衣は先ほどの段ボールを開け散らかしたあと、テレビニュースを見ながら朝食にありついていた。これは偏見なのだろうが、彼女にニュース番組は不釣り合いだ。

 喉まで出ている胸のうちを吐きだそうとしながら、洋助も座った。いうか、いうまいか、やはり迷う。

 すると急に、亜衣が咀嚼を止めた。そして洋助を見た。すぐにテレビへ視線をもどす。

 ――逃走中の男性は……

 洋助は自分の名前を聴いたような気がして、画面を見た。女性キャスターが真剣な面持ちで話している。はっとした。

 『咲音クミ誘拐?』というテロップが表示されている。そして武国館の監視カメラに映ったのであろう、脱走中の洋助が四角い枠のなかに静止画として飾られていた。洋助は写真に見入ってしまい、キャスターの言葉を冷静に聴けなかった。しかし内容は、間違ったものではないとわかった。武国館のコンサートあと、咲音クミを液晶画面に入れて逃走。

「電車をつかい埼玉方面へ逃走したとみられています。警視庁では市民の協力を求めており、目撃情報などを最寄りの警察署へお寄せください、とコメントしております」

 最後の言葉だけは、はっきり耳に入った。

「変わった事件ですねえ」とキャスターがいう。「窃盗……いや、やはり誘拐なんでしょうねえ」と隣の男性キャスターが首をひねった。

「しかも、アーティスト咲音クミに殺人教唆の疑いがあるとの情報もあります」

「殺人? どんな?」

「まだ公式発表はないみたいで」

「殺人教唆って、咲音クミが? それはまずいんじゃないの? どうなっちゃうのよボーカロイド業界」

「まだ噂の段階ですが、大人気歌手だということを考えると、混乱が予想されますね」

 画面が街中に変わる。埼玉市街と表示されている。インタビューのようだ。

「咲音クミの誘拐、このニュースいかがですか」

 若い男が答える。「びっくりですよ。よくテレビとかで見るんで」

「埼玉方面へ逃走したとのことですから、この付近に潜伏している能性もありますよね。不安とかありますか」

「不安っていうか、まあはやく見つかってほしいですね。なんかこの辺りで見たってひといるみたいですよ」

「そうらしいですね。――咲音クミが殺人教唆との噂もありますが」

「教唆ってなんですっけ? そそのかしたみたいなやつですっけ? うーん、それは信じられないですけど、でも、咲音クミって知能があるでしょ? だから可能性はあるんじゃないですか?」

 テレビが消えた。亜衣がリモコンを画面に向けている。彼女が消したのだ。部屋が静まり返る。クミの陽気な鼻歌が間を埋めた。

 ――今晩も泊めてくれないか。――かくまってもらえないか。この言葉はやはり飲みこんだ。重罪なのだとあらためて悟り、やはりだめだと思った。彼女を罪人にはできない。

「……あの、さ」と亜衣がいった。

「大丈夫、もう行くから」

 何秒かあって、「……あたし、まあ、なんとなくわかってたよ。やっぱり、ここにいるのは咲音クミ本人なんじゃないかって。でもあんなビッグネームが、いるわけないじゃん。だから、たぶん、わかんないけど、なにか良くない事情があるんじゃないかって、さ、それくらいわかるよ」

 そうだねと返した。

「誘拐は……なんかまずいって。しかも、クミがなんつったっけ、えと、殺人キョウサ? それもたぶん、やばいんでしょ?」

 うん、という。

 また何秒かあった。「……でも、さ」亜衣は洋助を見た。「たぶんあんた、悪くないんだよな。なにか事情があるんだろ? わかんないけど、クミは嫌がってないし、拐われてるって感じじゃないし、あんたになついてるし、だったらこれ、クミのため、なんじゃないかなって……」

「自分では、そう信じてる」

「クミだってさ」がしがし頭を掻く。「月並みだけど、なんか悪いことできるようなやつじゃないよ。だってこいつが、やばいことできる? 無理だって」

「説明している時間はないけど、ぼくもそう思うんだ」

「……だったら悪くないじゃん」

「そうだね」

 亜衣は一度、ぐっと唇を噛んで、「だったら……その……ここにいなよ」

 洋助は首をふった。「いけないよ。わかっていてかくまうと、罪に問われる」

「だってあんた悪くないんだろ」

「そう思う。でも犯人隠避というのはね、のちほど、その人物が悪くないとわかっても罪として成立するんだ。亜衣の気持ちは嬉しいけど、なんのメリットもないよ。これからの人生、どうするんだい」

 ぐっと亜衣は目を閉じた。洋助はまとめてある荷物と液晶を持って、立ち上がる。しかし彼女も追ってきて、袖を握ってきた。

「ごめん、あたし……馬鹿だから、バンドでプロってやつも、すこしは夢見てて。だから、犯罪はやっぱり……」

「きみは悪くないよ」そっと手を払う。ひき止めてくれた言葉に敬服したいくらいだ。

「アイさん」クミがいった。空気は察している様子だ。「お別れです。ワタシ、逃げます。いいですか?」

「どのみち、あんたのご主人さまがダメとはいわせてくれないよ」

「では、もうひとつ、いいですか?」

「なに」

「まだ、ボーカロイド、嫌い、ですか?」

 ばーか、と笑って、「そんなことねえよ、お師匠さま」

 クミはユースマイルでくるりとまわった。

 亜衣は微笑んで、「――クミ、あたしからもいい?」といった。

「はい、お話、好きです」

「あたし、一晩で成長した? 咲音クミの曲になった?」

 クミはブイフェイスで答える。「ちがう曲、です」

「うーわむかつく」

 いいながら太ももを叩く。本気の声だった。

「ねえ聞いた洋助? こいつ空気読めねえよ。馬鹿だよ。こんなやつに、あたしぜったい負けないからな。だいたい、優しくて顔ちっちゃくて目が大きくて脚細くて色白でスタイル抜群ってとこからむかつくんだよ。これで音楽まで負けたら、あたしはどうなるんだっての。こら笑ってんじゃねえよ、まわってんじゃねえよ。あたしぜったい追いつくからな」

 大多数が八つ当たりのようでもあったが、彼女なりの最後の叫びらしい。

 洋助は玄関から出るときに尋ねた。「バンド活動、再開するの?」

「もちろん。ぐずぐずしてる場合じゃないよ。もうメンバーに連絡した。きょうの夜からライヴだよ」

「へえ、すごいじゃない、どこで?」

「お祭りの舞台。ああいう会場ってステージあるじゃない。しばらくライヴ・ハウスではやりたくないからさ、東京近隣のイベントをツアーっぽくまわろうって計画してエントリーしてたんだ。ドタキャンするつもりだったけど、演ってくる」

「きっとうまくいく」

「だろうね。師匠がトップ・アーティストだからな」片眉をあげてクミを見る。「ボーカロイドを認めきったわけじゃないけど、好きか嫌いかじゃなくて、勝つか負けるかって気持ちで演奏してくる」だからあんたも……と、亜衣はいった。「捕まるなよ」

「その言葉は、心のなかで」

「……わかってる」

 一応、連絡先を交換してから玄関から出た。閉めるとき、亜衣は背中をむけていた。また腕が伸びないようにするためなのか、右肘を左手で押さえていた。

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