第2話 出会い
翌朝、メインストリートで細々と営業するパン屋のイートインで腹を満たした僕は、自分がヴァルタヴァに戻ってきた目的を果たすことにした。
ゲオルク・ケルマディクス。僕が従卒として仕えた方だ。連邦宇宙軍戦艦ロスコー48の艦長で、最終階級は連邦宇宙軍がまだ組織としてキチンと処理をしてくれているなら、二階級特進の連邦宇宙軍元帥。
何せ絶滅戦争ということで、凄まじい数の戦死者が出ている。階級なんて上位と下位が分かればいいと特進の前渡しの前渡しのバーゲンセールという有様で、本来大佐が務めるはずの戦艦艦長が、戦死とはいえ元帥なんて階級が付いていたのも、元々ゲオルク艦長が中将に昇進していたからだ。
僕にしても、そもそも一兵卒として招集され、艦長の従卒でしかなかったのに少佐だ。
『少佐になっておけば年金だって多少色が付くだろう。俺が中将なんだから従兵が少佐でも大佐でもいいさ。ま、戦争が終わって連邦宇宙軍と政府が残ってりゃの話だがな! わっはっは!』などといって、ゲオルク艦長が自分の昇進に合わせて適当に昇進の推薦をしてくれていたおかげだった。
その戦死については、実は僕もこの目で確認したわけではなくて、ただ、そうだろうという報告を見ただけなのだけれども。
少なくとも、惑星シーアンの防衛隊が玉砕したのは確かだったし、その直後、戦闘停止命令が出て連合帝国の部隊も引き上げていった。これも事実だった。
僕はこれから、艦長の遺族に戦死の報告と、遺品である階級章と制帽を届けに行く。
センターポリスの郊外、レンタルコミューターで四〇分のグスタフホフという町が目的地だ。コミューターに付いていたナビのとおりに走ると――オートパイロットは半年前にサービスを停止している――町外れの古びた屋敷の前に辿り着いた。
「ごめんください。ゲオルク・ケルマディクス艦長のご自宅は、こちらで間違い無いでしょうか?」
留守だろうか。玄関のベルを鳴らしても、物音一つしない。ひょっとして、艦長が知らないうちに、この家に住んでいた家族も亡くなられたのだろうか。
ただ、家の周りが綺麗すぎることが、僕の目を引いた。ここ数ヶ月どころではなく、つい昨日だれかが掃除したようなあとが見て取れる。
窓から中を覗いても、荒れ果てている様子はない。
公道からガレージへ通じる通路も、最近できた
その轍の先には、古風なオートモビルが停車していた。
近所の人に話を聞きたくても、何せコミューターで一〇分は走らないと行けないし、さて、どうしたものか……と僕はガレージらしい建物の中に入った。
不用心にもシャッターは開け放たれているが、ここにも人の生活の痕跡が見て取れる。
「誰かいらっしゃいませんか?」
というか、誰がか今しがた、食事していた形跡がある。
薄暗いガレージの中はいくつかのランタンが置いてあるだけで、目が慣れるまではしっかりと内部を見渡すことができない。
「手を上げろ。動いたら殺す」
唐突に、僕の後ろから女の子の低い声がした。
後頭部に当たるゴリゴリとした固くて冷たい感触は、言葉の意味と照らし合わせると、多分拳銃かなにかかもしれない。
「あんた何者? 金? それとも食糧が目当て? あいにく盗りにくるほど金目のものなんて、うちにないけど」
「……自分はこのお家に用事があってですね。ゲオルク・ケルマディクス艦長のご遺族の方へご挨拶に伺いました」
なんだか間抜けな答えを返した気がした。でもそれ以外の用事がこの家にはない。拳銃かもしれない何かの感触に足が震えそうになる。
「……あっ! それ親父の制帽!」
突然、僕の小脇に抱えていた帽子が抜き取られた。後頭部の感触も消えた。
「……とりあえず、銃を置いて話を聞いてもらってもいいですか?」
振り向いた先にいたのは、僕と同い年くらいの女の子だった。身長は男子平均の僕より少し低いくらい。彼女は制帽と僕を交互に見て、なんだか納得のいかない、不思議そうな顔をしていた。
銃を持ってるのかと思ったけれど、実際は大きいレンチだった。
「名前」
「はい?」
「あんたの名前は?」
「え?」
「官姓名と所属! 認識番号!」
そう言われて、僕は思わず入隊後にたたき込まれた仕草を自動実行した。
「ヴァルタヴァ連邦連邦宇宙軍、惑星シーアン防衛隊、ロスコー47艦長付従卒、ユリウス・シュナイデル少佐。認識番号Γ49-θ-2948」
しばらく、彼女は僕のことをしげしげと眺めていたが、やがて自分の中で納得がいった様子で頷いた。暗がりでも分かるほどのきれいな金髪、宝石のように大きくて、キラキラした赤い目、透き通った白い肌。その下の服は、整備員が着るツナギだった。
「……フローラ、フローラ・ケルマディクス」
彼女はようやく、自分の名を口にした。
フローラ・ケルマディクス、うん可愛らしくていい名前だ、などと考えていると、ようやく僕が泥棒とか強姦魔の類いではないと納得してもらえたようで、彼女は僕をガレージの奥へと案内してくれた。
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