4日目/共犯

 12月16日(月)。


「今日、おにいちゃんが来るから」

 歯磨きをしていた楜に、朝食の片付けをしながら瞳子は言った。

 歯を磨き終えた楜はそのまま、シンクで洗い物をしている瞳子の隣に立った。

「おにいちゃんって?」

「おねえちゃんの彼氏だよ」

「え?おにいちゃんもお仕事がないの?」

 楜は、心配そうな表情をした。

「大丈夫!おにいちゃんは美容師さんだから、月曜日がお休みなの。」

「美容師さんなの?カッコいいね!」

 楜は目を輝かせた。


 ピンポーン。

「くるみが出る!」

 11時に来る、とあらかじめ楜には伝えてあった。

「はーい」

 可愛らしい高い声を出しながら、楜は玄関のドアの鍵と扉を開ける。

「お・・・っと・・・・・・誰?」

 彼女を見下ろした草太朗は、不安そうな声を出した。

「さいとうくるみです」

 彼女は自己紹介をした。

「あっ・・・シラカワソウタローデス」

 彼は何故か片言の日本語で、同じく自己紹介をした。


「親戚の子?・・・斉藤なんて親戚、いたっけ?」

 ソファーで静かに漫画の続きを読み始めた楜をチラっと見て草太朗は、キッチンで彼の為にラーメンを作っている瞳子の傍に来て訊ねた。

「知らない子。金曜日、偶然会ったの」

 彼女は楜に聞こえない小さな声で、囁いた。

「は?・・・どういう意味だよ?」

 彼も同じく囁いた。

「虐待に遭ってるらしいの、楜ちゃん。だから、かくまってあげてる」

「はぁぁぁ?!おまえ、それ、誘拐だぜ?てか、警察に行けよ~瞳子がどうこうできる問題じゃねーだろ!」

「しー。声がデカい」

「デカくもなるわ!・・・はぁ・・・とりあえず、俺、警察連れてくわ」

 草太朗は踵を返す。

「待って!」

 キャベツを切る手を止め、瞳子は草太朗の腕を掴んだ。

「警察連れてったら、楜ちゃん、おうちに戻されちゃう!」

「いいんだよ、それで。瞳子が首突っ込む話じゃねーから・・・つか、金曜日からだったら、親、もう警察にとどけ出してんじゃん?」

「警察はまだ知らないと思う」

「何で判るんだよ」

 言われて瞳子は、冷凍庫の中から三つ折りにした紙を取り出して、彼に渡した。

「昨日、ポストに入ってた」

「何でそんな所から紙が出てくるんだよ・・・」

 呆れながらも草太朗はヒンヤリとしたそれを開き、目を通す。

「ヤベーじゃん!親、めっちゃ探してんじゃん!」

「虐待するのが悪いんじゃない。知らないわよ。そうやってずっと探してればいいのよ。ふんっ」

「いやいや・・・瞳子の気持ちは解かるけども・・・これはダメだって~てか、俺ももはや共犯じゃん・・・ヤベーよ、マジで・・・」

 半泣きになった草太朗は、左手で自分の頭をわしゃわしゃと掻いた。


 結局、その夜は三人でハンバーグを食べた。

 夕飯が終わった頃には草太朗は、楜のおもちゃになっていた。

「おにいちゃん、美容師さんなら、くるみの髪、可愛くして!」などと言われ、短い髪に無理矢理アミコミをさせられていた。


 この光景は、どう考えても平和そのものだった。

 瞳子は、「あたしは何ひとつ間違った事はしていない」、と今日も自分にそう言い聞かせた。







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