09.また会う日を楽しみに
尚がこの世界に残した1人の娘に僕は〈花〉と名付けた。
尚が好きだった花が沢山埋まる庭の花壇は今でも花が咲いている。
花が3歳を迎える頃。
お花屋さんに出かけたいと駄々をこねた。
仕方ないので花を連れて近所のお花屋さんに向かった。
中に入ると、花は辺りを見渡して首を振って出ていこうとする。
また別のお花屋さんに行っては同じ行動を繰り返す花に、僕は何を探しているのかを聞いた。
花は少し考えてから口をひらいた。
「あのねー、真ん中のお花はくりゅんってなっててまわりにいっぱいお手手ついてるの」
花の伝えたい事がわからず、何回か聞き方を変えてみたが僕には花が何を探しているのかわからなかった。
近くで僕と花の話を聞いていた店員さんが、この花ではないかと彼岸花を持ってきてくれた。
その姿をみて花は彼岸花を指さしながら
「しろ!」
と飛び跳ねていた。
店員さんは花の言葉を聞いてお店の奥から白い彼岸花を持ってきてくれた。
すると花は、
「これ!ママから!」
と僕の手を引いて店員さんの持つ白い彼岸花を指さした。
僕は驚いた。
花は尚と話したことは無い。写真でしか尚を知らないのに。
救急車を待っていた時に尚が痛みに耐えながら、この白い彼岸花を僕に渡して欲しいと言っていたから、探していたという。
信じがたかった。
だが、今までも尚がよく口ずさんでいた歌を花も口ずさんでいたことがあったことを思い出し、花の言葉を嘘だと思いきることもできずに白い彼岸花を買った。
花はすごくご機嫌そうにお姉さんから買った彼岸花を受け取り、僕に渡してくる。
花との会話を聞いていた店員さんは、尚が植物に詳しかったのかと尋ねてきた。
仕事柄詳しかったことを伝えると、店員さんは少し気の毒そうな顔をしながらゆっくりと言葉を放った。
花は色によって花言葉が違うこと。
彼岸花もその一つで、白い彼岸花の花言葉の意味を。
僕は店員の言葉を聞いて、手を繋ぐ花の顔を見た。
花は僕と目が合うと満面の笑みで僕を見つめてくる。
あぁ、尚。
君が残したこの子は、君にそっくりな顔で笑うんだ。
君が向日葵と顔の大きさを比べながら笑っていたあの時のように、無邪気な顔で。
残してくれたこの子を守り抜くよ。
強く、生きるよ。
僕と出会ってれて、ありがとう。
僕を選んでくれて、ありがとう。
花を産んでくれて、ありがとう。
また会う日まで
―終―
シロノヒガン(白の彼岸/日願) 喜壱 @K1CH1
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