見えなくても愛して(2)
「……クレイジー君?」
「やりたいことあるんだけど」
「ん、……なーに?」
「目隠しのやつ、してほしい」
「……」
「あの、ね」
クレイジーがベッドから下り、鞄からコンドームと――アダルト用アイマスクと、拘束リボンを取り出したのを見て、ルーチェが思わず笑ってしまう。
「あー、やっぱりそうだ。す、好きだったんだ。当たってたな。へへ!」
「いや、嫌いな奴いないって。やっぱ、彼女の自由奪ってすんのとか、めちゃくちゃ興奮するし」
それを聞いたルーチェがきょとんとした。
「え? それ、あたしがつけるの?」
「……俺がつけてどうすんの?」
「え、あたしがさ、触ってとか……」
「逆。逆」
「……えー」
「つまらない顔しない」
「クレイジー君の方が絶対似合ってる」
「俺はぴーちゃんの方が似合ってると思うなー?」
クレイジーがベッドに戻り、アイマスクをルーチェに被せる。
「目閉じて」
「……あたしがするの?」
「(あ、無理。見上げてくるの可愛い。もうやだ。尊い)やだ?」
「……今度クレイジー君もし、して、ほしい」
「……持ってるから今度ね」
「……え、自分のあるの?」
「結構前にそういうの好きな彼女がいて……」
「え、クレイジー君が目隠しってことはクレイジー君が下でその子は上ってことってことはそれは一体どんなプレイをし……」
「目隠しの魔法ーー!!」
「わわわっ」
(なんでこういう話に興味持つんだよ!)
ルーチェがそっとアイマスクに触れる。つやつやしている。触り心地がいい。ふむ。やはり売り場に出したのは間違いではなかったようだ。これはいい。
「普段用に使えそうだね!」
「いや、これは駄目」
「触り心地がいいよ!」
(楽しんでんなー。気に入ったみたいで良かった、良かった。……さてと)
クレイジーが鼻を甘噛みすると、ルーチェの肩がぎょっと上がった。
「わっ!」
「どう?」
「び、びっくりした。ど、どーこからく、来るのか、わからないから」
「そうそう。感覚敏感になるよね。こことか」
「わっ」
「こことか」
「あははっ! ちょっ!」
「てい」
「ふひひっ! や、やめて! ふひひっ!」
「次はどこ行こうかなー。てい」
「あはは! ……あっ、こ、声……あ、ごめん……」
「あー、そうねー。夜だからちょい抑えめでー」
(わくわくしてテンション上がってた。気をつけないと)
(この間覚えた防音魔法つけてるから本当は平気なんだけど)
クレイジーの口角が上がり、ルーチェに囁く。
「あんまり騒いでると聞こえちゃうから、ごめんね」
「……ごめんなさい」
「ううん、母さん来てないってことは平気なんでしょ。今から気をつけよ」
「うん。気をつける」
ルーチェが腕を伸ばし、クレイジーの体に触れると、よたよたと近付き、抱きついた。おっと、大変だ。急な出来事にクレイジーのクレイジーがクレイジーなことになっている。しかし見えないルーチェには当たってることしかわからない。
(この子やっぱり温かい……。目を隠してると余計筋肉の感じとかわかりやすいな。すごいな。鍛えてるのかな)
(うぉぉおお……やべえー……! 今すぐ中に突っ込んでめちゃくちゃにしてぇー!)
(あっ、ぎゅってされた。ふひひ! ……安心する)
(はぁーー。可愛いーー。たまんねぇーー。はぁ。待て。俺。すぅ。頑張れ。俺。はぁ。ここまでの信頼関係を絶対に崩すな。すぅ、はぁ。いい匂い。好き。ちゅっ)
(ひゃっ、キスされた)
(よし、頑張れ。俺、頑張れ)
ルーチェの耳に優しく囁く。
「両手、縛っていい?」
「……縛ったら、さ、触れなくなるよ? 楽しい?」
「(うん! めちゃくちゃ楽しい!)……怖い?」
「……ちょっと」
「あんま虐めないから」
「……ん」
ルーチェが両手を差し出してくる。クレイジーが唾を呑み、その両手首にリボンを結び、ルーチェに訊いた。
「痛くない?」
「痛くないけど……なんか、解けない」
「うん。でしょ」
「……研究したの?」
「男の子はこういうの好きなんだっぴ」
「努力の矛先……」
クレイジーがルーチェから離れた。ルーチェがきょとんとする。気配はする。ここらへんにいそうではある。だけど、両手を伸ばしても空振る。あれ、どこだ? ここら辺? と思って右を向けば――左から鼓膜に息を吹かれた。
(わっ)
声が出そうになって、慌てて口を押さえる。
(びっくりして声出そうになった。気をつけないと)
(あ、警戒モード入った)
自由を奪われたルーチェ。
(いや、やっぱ、普通に興奮する)
(ここら辺?)
(あー、捜してる捜してる。……やっばー。すごー……。可愛い……)
「クレイジー君?」
脇腹に触れる。
「わっ、ふふっ、びっくり、した」
首にキスする。
「わっ」
舌で耳を舐める。
「……んっ」
(ルーチェ、耳弱いもんな)
以前、二人で参加したダンスコンテストで感じやすいからイヤリングすると痛いんだよねーって笑って言っていた。
(ちょっと虐めてもいいかな)
(*'ω'*)
(……あれ……あたし……)
ぼんやりとルーチェの意識が戻る。
(あ……そうだ……。ユアン君の……部屋に泊まってて……目隠しされて……怖くなって、泣いちゃって……)
瞼を上げる。
(……あ)
――自分を腕枕するクレイジーが、頬に唇を寄せていた。
「……ユアン……くん……?」
「……起きちゃった?」
「うん。なんか……覚めちゃった」
見上げると、上半身裸のクレイジーが手を伸ばし、ルーチェの頬を撫でてきた。温かい手が触れると、とても安心する。すごい。彼は、やはりミランダ様のようだ。ぼうっと目をとろかせると、クレイジーが思わず笑った。
「ぴーちゃん。まだ寝てていいよ」
「……目隠しつ、使おうかな」
「それは駄目」
「……なんで?」
「可愛い彼女っぴの寝顔が見られなくなるから」
「気にしてるの?」
「大反省中」
「うふふっ。も、もういいのに」
「……まじごめん。怖かったっしょ」
「や、あたしが、あの、ほ、本当に、び、び、びっくりしちゃった、だけだから」
「……感覚が鋭くなるからな。やっぱ」
「うん。次は、もっと頑張る」
「いや、しばらくやめとこ」
「え、でも、ユアン君の番がまだだよ?」
「……あー、そういう?」
「結構楽しみ」
「なになに? ルーチェっぴ、俺っちが目隠しして何もできなくなった姿に興味ある感じ? 嫌な趣味をお持ちだっぴなー?」
「うふふ!」
「……」
「……あっ」
またクレイジーからキスをされた。ルーチェの頬は既に緩んでいる。
「……んふふ」
「もう寝たら? まだ日も昇ってないみたいだし」
「くっついていい?」
「ん」
「ふふっ! ……あったかい」
(……温かい……)
抱きしめたら温もりが伝わって心が安らぐ。クレイジーがクスクス笑うルーチェを堪能していると、ルーチェから声をかけてきた。
「……あのね」
「ん?」
「なんか、さっきね、えっと、……あの……、……してる、時のね、ユアン君、今日なんか、す、す、すごく、……か、可愛かった」
「……可愛かった?」
「そのー……い、……ってる時の顔が、なんか……いいなーって、思った」
「やだ、ちょっとー。どこ見てんのよー。えっちっちー」
「何それ! んふふふふっ!」
「……好きって思った?」
「……あ、でも……今日は……」
ルーチェの笑みに、クレイジーが目を奪われる。
「……やっぱり、ユアン君以外の人とは……触れ合いたくないって、思った、かな」
「……」
「あたしが、その、あ、えっと、ゆ、ゆ、ユアン君以外、知らないっていうのも、あるんだけど、あ、あはは……」
「俺も、ルーチェ以外興味ない」
「……」
「嫌なことは嫌って言ってくれていいし、めちゃくちゃ甘えてほしい」
「……うん。ありがとう」
ルーチェが軽く笑い、クレイジーの胸に寄り添った。
「……このまま寝ていい……?」
「ん。いいよ」
「腕、痺れたでしょ」
「別に?」
「嘘だ。ふふっ」
「……俺がしたかったから、いいの」
「……ありがとう。や、優しく、してくれて」
「なんで? ルーチェこそ、いつも側にいてくれてありがとう。……今日はまじで嫌われたと思ったけど」
「……ユアン君も、嫌なことは嫌って言ってね?」
「あ、うん。俺っちはね、正直じゃないと生きていけないから」
「あと、その、あ、あたしも……ユアン君に甘えてほしい」
「……」
「……答えられるか、わからないけど」
(……。……。……天使……)
「ね、寝るね!」
ルーチェがクレイジーの胸に顔を隠した。
「お、お休みなさい!」
「……ん。お休み」
優しく抱きしめて、キスを送る。ルーチェが一瞬緊張した。しかし、優しく背中を撫でてくる手に、やはり力が抜けてくる。
(やっぱり、この子優しいな……。すごく大切にしてくれてるの、あたしでもわかる)
(大好き。ルーチェ)
(泣いちゃったけど、でもやっぱりユアン君がいると安心する)
これは、
(好きってことなのかな……)
答えはわからない。けれど、確かにその温もりに安心した自分がいて、ルーチェの瞼が自然と下りていき、数秒経てば、寝息を立てていた。
そんなルーチェを見つめ、クレイジーも無意識のうちに瞼が下りていき、そのまま深い眠りについた。
安心しきった顔で夢の底へと落ちていく。
眠る二人の距離が離れることはない。
見えなくても愛して END
(R18はアルファポリスにて公開中)
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