イチゴを見ると思い出す
朝になると、パパが病院に行く支度をしていた。妹が生まれたと言っていた。パパに連れて行かれて病院に行くと、ベッドの上に赤ちゃんがいた。
「ナビリティ、見てみな。ナビリティの妹だってさ」
「そうだよ。ナビリティ。これからお姉ちゃんになるんだよ」
笑顔のパパとママに言われて、赤ちゃんの顔を覗く。赤ちゃんが安らかに眠っているのを見て、思った。そっか。わたくし、これからこの子のお姉ちゃんになるんだ。妹の面倒を見るのはお姉ちゃんの役目。この子が悪さしないように、わたくしがよく見ておかないと。
「ルーチェ、お絵かきしようね」
「ぶー」
「わー、上手だねぇー」
小さいお指だな。
「はむっ」
「あ、ルーチェ、わたくしの指なんて美味しくないでしょ」
「むう」
「うふふ! もう。しょうがない子」
イチゴ柄がお気に入りみたい。
「やー!」
「ルーチェ、わがまま言わないの!」
「ママ、ルーチェね、イチゴのスカートの方がいいと思う」
「はあ。……買ってきた方がいいかもね」
「むふっ」
ルーチェのクローゼットにはイチゴ柄の服が並んだ。
「ねーね」
「なーに? ルーチェ」
ルーチェが、いつでもイチゴぱんつを穿くようになった。
「お姉ちゃん、いちご美味しそう」
「そうだね。美味しそうだね」
イチゴの前を通るとルーチェが売り物のイチゴを指で押そうとするから、しっかりと手を繋ぐの。
「ルーチェ、迷子になるから手握ってね」
「うん」
「売り物には触っちゃ駄目」
「足つかれた」
「おんぶする?」
ルーチェを背中に乗せると、持ち上げた時にイチゴぱんつの感触。
「ルーチェ、あっち行こうね」
「うん!」
イチゴを見てると、ルーチェを思い出すの。だってルーチェが、「イチゴぱんつじゃないといやいや」ってしていたから。
懐かしいな。
イチゴか。
……今も穿いてるのかな?
イチゴぱんつ。
「わ、すげー。本物の使い魔だー。……あれ、これお姉ちゃんのじゃ……」
(*'ω'*)
目を覚ましたルーチェは悲鳴を上げた。両手首を縛られた状態で長めのTシャツ一枚。ブラジャーはつけてない。キャミソールもつけてない。中に身に着けているのは穿いてたショーツだけ。
「パルフェクトォォオオオオ!!!」
ルーチェが叫んだ。
「てめえ!! 絶対に許さねぇからなぁああああ!!!」
ベッドの上でジタバタ。
「よくもこんなはしたない格好させやがってぇええええ!! 縄解きやがれぇええええ!!」
「あっ♡、ルーチェ♡起きた?」
「今何時だと思ってやがる!!」
「23時?」
「バイト帰りの妹をさらう姉がど、どこにいるんだよ!!」
「え? さらってないよ? わたくしの使い魔がぁ、ルーチェ♡を連れてきちゃったの!」
「お前殺す」
「ごめんね。ルーチェ♡。わたくし、もう死んでるから! あはっ☆!」
「(イラッ)……ど、どうでーもいいけど、……はや、早く、縄解いて」
「あ、そうそう。気になってることがあるんだけど」
「なに」
「ルーチェ♡、どうして黒色のぱんつなんて穿いてるの?」
「は?」
「イチゴぱんつじゃないの?」
「イチゴぱんつ? 何のこと?」
「んー。なんか黒ぱん似合わないねー」
もう! 仕方ないなぁ!
「わたくしが……着替えさせてあげる……♡」
「は?」
嫌な予感がして見下ろすと、パルフェクトが息を荒くしてルーチェのショーツに手をかけていた。
「おまーーーーーー!!」
「はい! オープン!」
「ぎゃーーーーーー!!」
「そして! いざ! おぱんつ革命!!」
「うわーーーーーー!!」
――パルフェクトがはっとした。成長したお尻にも、ナイスフィットイチゴ!
「ルーチェ♡! やっぱりイチゴおぱんつ! 激かわすぎ!!」
「……っ、お前……覚えてろよ……。よくもあたしの黒パンを頭から被った挙句……こんな……恥ずかしい思いさせ……させやがって……ぐっ……! ……ミランダ様にチクってやるからな!!!!」
「だって、ルーチェ、イチゴおぱんつ好きだったじゃない?」
「さっきから何の話してるの!?」
「それはそれはまだわたくしがナビリティの時代……」
ルーチェの脱がしたて黒パンを頭に被るパルフェクトがアルバムを開いた。どこから手に入れたの。それ。
「ほら、見て。ルーチェ♡ったら、いっつもイチゴおぱんつ穿いて! 激やばかわたん!!」
「……あー……」
(なんか……うっすら覚えてるような……)
そういえば小さい頃、受話器のおもちゃを持ちながらイチゴぱんつを穿いてたような……。
「ほら、次のページも、次のページも! ルーチェ♡ったら、イチゴおぱんつばかり!」
「ねえ、ぱんつに『お』ってつけるの、や、やめてくれる? 何も可愛くないから」
「イチゴの時期になったら思い出すの。そういえばルーチェ♡、イチゴおぱんつ穿いてたなって!」
「無視かい」
「というわけで、ルーチェ♡、縄をほどいてあげたから、一回両手上げて、バンザイしてくれる?」
「え? バンザイ? なんで?」
「キッド殿下ばんざーい」
「キッド殿下ばんざー……」
その瞬間、パルフェクトにTシャツを奪われた。ルーチェがイチゴぱんつ一枚となり、両手で胸を隠す。
「この変態ーーーー!!」
「じゃあ次は……ルーチェ……♡ これをつけてもらおうかな……♡?」
「ひいっ! そ、それは……!」
「ルーーーーーチェーーーーー♡♡!!」
「アッーーーーー♀」
イチゴブラジャーとイチゴぱんつをつけられたルーチェが四つん這いになって拳で地面を叩いた。
「
「ああん♡! 可愛い! ルーチェ♡ いとおかし!!」
「ぐっ! 触ることも近づくこともなく、ただ見るだけという名の視姦行為! 許されない! こんなのは許されない!」
「え? 触ってほしいの?」
「み、み、見るなって言ってんだよ! 馬鹿!!」
ルーチェがシーツに包まった。顔を真っ赤にして恥ずかしがるルーチェもいとおかし。
「こんなことしてタダじゃ済まさないからな! この……セ……セクハラ女!」
「え!? わたくしがいつ大事なルーチェ♡にセクハラしたというの!? こんなに愛してるのに!!」
「お、お、お前その脳みそかち割ってやろうか……!」
「とりあえずルーチェ♡……冷静に話をしない?」
「お前が一番冷静じゃないんだよ」
「下から、おぱんつ、ブラジャー、ここまでで2点セットのイチゴ柄が揃ったわけです」
「はい」
「そう。つまり、これで満足しちゃいけないということなの」
「満足しちゃ……いけない……?」
ルーチェが眉をひそませた。
「どういう……こと?」
「人間の着るものにはまだまだ布が存在する。それは、まだイチゴが終わってないということ」
「い、イチゴが……まだ終わってない……!?」
「そう……。つまり……!」
パルフェクトが服を脱ぐと、イチゴ柄のブラジャーとぱんつを身に着けていた。
「お姉ちゃんもお揃い2点セット!」
「出ていけ!!」
「大丈夫。ルーチェ♡、サイズ以外はお揃いだから!」
「うるせえ! どうせお前はGカップ! 妹のあたしはBカップ!! 全く追い越せない壁と実力の差と魔力! なんな、なんだよ! この違い! 理不尽かよ!! 畜生!!」
「これで2点セット+二人のイチゴ姉妹が出来上がり。でもまだイチゴは終わらない!」
「もういいよ! これで終わりでいいよ!」
「最終兵器、これも用意しました! どん!!」
……色違いのイチゴ柄パジャマを二人で着る。すごく風通しが良く、夏には最適だ。
「さあ、ルーチェ♡、これで完成形。中身も外側も、イチゴナイトウェア!」
「お前こ、この、このためにあたしを呼んだの? だとしたらまじでミランダ様にチクるから」
「違うよ? わたくしが呼んだんじゃなくて、わたくしの使い魔が、ルーチェ♡を、連れてきちゃったの!」
「うるせえ! 同じことだろうがよぅ!!」
「イチゴに包まれたルーチェ♡、激かわたん! 真っ赤なお顔がイチゴそっくりキュートプリティ激かわルーチェ♡!」
「馬鹿にしてんのか! おまっ……」
パルフェクトがふう、と息を吹くと、氷の光に包まれたルーチェの脳が停止し、ぴたりと固まり、ベッドに倒れた。
「……うわ……また……何これ……何したの……」
「今夜はもう遅いから、ルーチェ♡、お休みしようね?」
「家帰せよ……。ミランダ様が待ってるんだよ……」
「あ、大丈夫」
パルフェクトがスマートフォンを見せる。
「あのババアには許可取ってるから」
<今日ルーチェうちに泊めるからよろしくー☆
>わかったから、ほどほどにしておきなよ。
「ミランダ様ーーーーーー!?」
「じゃ……お楽しみの……イチゴパーリーナイト?」
「ふ、ふざけんな……! 今せっかく着替えたばかり……!」
「ルーチェ♡?」
パルフェクトが冷たく微笑んだ。
「脱がせるから、着せるんだよ?」
(あ、この人、話通じない人だった)
「はーーーーー♡ ルーチェ……♡ イチゴルーチェ……♡」
(あーーーー……どうすっかなー……)
「あ♡ そうだ。ルーチェ♡、いちごケーキがあるの。食べる?」
「え? ケーキ? あ、た、た、食べたい」
そう返事をして、ルーチェは一瞬で後悔した。
「へえ……♡」
パルフェクトはとても笑顔だ。
「じゃあ……持ってくるね……♡?」
(あ、これ、やばいやつだわ……)
ルーチェが顔をしかめ、動かない体に力を入れてみたが、無駄なあがきに終わってしまった。
(*'ω'*)
翌日、ルーチェがイチゴをどっさり持って帰ってくると、ミランダが少しだけ明るい顔をした。
「……なんだい。これ」
「イチゴです」
「……食べていいかい?」
「ええ。もちろんです」
「……」
ミランダがそっとイチゴを持って、食べてみた。甘い。美味しい。これはいいものを持って帰ってきたね。いやいや、本当に美味しい。
「ルーチェ、洗うからお前もお食べ」
「いえ、あの……」
イチゴを見ると、思い出す。
「あたしは……沢山い、いただいたので……」
「ん? そうかい?」
「アンジェちゃんでもよ、よ、呼びましょうか」
「ああ、そうするかね」
「ええ。そうしましょう。……そうしてください……」
(しばらくイチゴは見たくない……)
その赤くて可愛い見た目を見ていると、パルフェクトのいやらしい笑顔を思い出し、ルーチェは恐ろしさで背筋を震わせるのだった。
イチゴを見ると思い出す END(R18フルverはアルファポリスにて)
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