授業中8
今日も厳しくも自分の為になる授業が行われる中、先生のスマートフォンが鳴った。名前を見て、先生が授業を止める。
「ああ、ごめんね。ちょっとノートにまとめてな」
先生が着信に出た。
「なんだい。授業中だよ。……は? ……お前、この馬鹿。だから準備は大丈夫なのかって昨日聞いたんだよ」
この一言で全員気付いた。――あ、絶対相手お弟子さんだ。
「わかったから落ち着きな。この間あげた魔法書あるかい? ……ん。ならその167ページにワープ魔法の呪文載ってるから、それを参考に……うん。……だから、っ、ちが、お前人の話は最後まで聞きな!!!」
((これはお弟子さん、またなんかやらかしたな))
「杖は? あるね? うん。なら、いけるだろ。……セーレムは放っといていいから早く行きな。……財布は持っていきな。……うん。……荷物は準備してるのかい? ああ、そうかい。……はいはい。じゃあね」
先生が着信を切り、ため息を吐いたのを見て、ヘレンが手を挙げた。
「先生、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。ヘレン。大丈夫じゃないのは通話相手さ」
「先生、お弟子さんですか?」
「ロキシー。それ以外に授業中だってわかってて連絡してくる空気の読めない奴はいないよ」
「先生、お弟子さんに何かあったんですか?」
「答えようじゃないかい。ジャイルズ。あいつ、折角依頼案件を貰ってたのに、時間を間違えたそうだよ」
「うわ」
「先生、お弟子さん、大丈夫なんですか?」
「ありがとう。ゲニー。ワープ魔法を教えたから大丈夫だよ。お前達、時間はシビアにね。前日の寝る前の準備は魔法使いにとっては必須だからね」
「でも準備って結構なーなーにしちゃうよね」
「ね」
「ルルー。エマ。だからお前達は忘れ物が多いんだよ。遅刻者に仕事はやってこないよ。お前達、魔法使いになるなら遅刻は死だと思いな。うちの馬鹿弟子は特に多いんだよ。この間もやらかしてね、例えば……お前達、15時に集合と言われて何時にここに集まる? モーラ」
「私は遅刻が怖いので30分前には来るようにしてます。でもね、先生、ミルフィーは遅刻がとっても多いの。なぜならばそれは、ミルフィーもとんだ寝坊助だから! 起きれた試しがないの!」
「なしてそっこと言うの!?」
「本当のことじゃん!」
「ならミルフィーにも聞いとくかね。お前ならどうする?」
「ミランダ先生、あたしは研究して寝るのが遅くなって遅刻してるだけでありんす。サボってるわけじゃないっす」
「お前の都合で社会は回ってないよ。いくら研究や課題をしてたってね、お前、それが仕事だったらその言い訳で通用するかい? ミルフィーだけじゃないよ。遅刻の多い奴、みんな学校にいる間にその癖を潰しな。いいかい。ここは訓練場だよ。その癖を持ったまま魔法使いになってごらん。せっかくの努力が水の泡になるよ。死ぬ気で潰しな。いいね」
「「はーい」」
「ミルフィー、明日からモーニングコールしてあげる」
「余計なこと言うながや! モーラの馬鹿!」
「そこ、喧嘩しない」
「そうよ。ミルフィー。喧嘩売らないの。めっ!」
「では先生、質問でありんす。先生のお弟子さんは15時集合で何時に集まるんすか?」
「14時半に集まろうとして、14時半に家を出る」
……意味がわからず、皆が黙った。ジェニファーが手を挙げた。
「先生、もう一回聞いてもいいですか?」
「弟子がね、よくやるんだよ。『14時半に現場に行く』と言っておきながら、どこで脳内変換されたのか、『14時半に家を出る』に変わってるんだよ」
「脳内変換」
「あー、でもちょっとわかる気がするー」
「今の電話もそうだよ。家を出る時に冷静になって考えたら時間を間違えていたことに気づいたんだとさ」
「間に合うといいですね」
「そうだね。ロン。あの馬鹿弟子。遅刻してたら絶対許さないよ。……さて、待たせたね。続きからやろうかね」
その後、授業は平和に行われ、翌日からあたしの目覚まし音はモーラの着信音に変わったのだった。
(*'ω'*)
「おっすー。ルーチェっぴ、5分前ー」
「ご、ごめん! 本当にごめん! い、い、依頼人様は!?」
「まだ来てないよ。10分遅れるって」
「あっ……! 良かった……!」
「何してたの?」
「や……普通に……出る時間間違えて……!」
「水飲む?」
「あ、ありがとう……! ふぃいい……!」
駆け出し魔法学生はスタート地点を目指す(番外編) 石狩なべ @yukidarumatukurou
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