お師匠様、構ってください


(さーて、お皿洗いおしまーい)


 ルーチェが手を拭いた。


(さて、自由時間だ。発声練習でもしようかな)


 あ、ミランダ様がリビングにいる!

 珍しく眼鏡をかけ、魔法書を読んでいる。


(すごい。眼鏡ミランダ様もかっこいい!)


「ミランダ様、紅茶いかがですか?」

「……あー、頼むよ」

「はい」


 ルーチェが紅茶を淹れた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 ミランダの目は魔法書から離れない。


「……」


 ふと、ルーチェが首を傾げた。ミランダの目は魔法書から離れない。


「……」


 ふと、ルーチェがその辺りをうろうろし始めた。ミランダの目は魔法書から離れない。


「……」


 ルーチェがミランダの肩を掴み、揉み始めた。おー、見た目に寄らず硬い。凝ってますね! ミランダ様! しかしミランダの目は魔法書から離れない。


「……」


 ルーチェがむすっとして、肩から手を離した。そして、その場に座りこみ、ミランダの膝の上に顎を乗せ、下から見上げる。


(ミランダ様、いつまで魔法書見てるんですか?)


 じっと見つめる。しかしミランダの目は魔法書から離れない。


(構ってほしいです)


 頭をぐりぐり押し付けてみる。


(構ってください)


 ふんすふんすと匂いを嗅いでみる。


(ミランダ様ってば)


 腰に抱き着いてみる。


(もー。いつまでその本読んでるんですか!)

「……」

(構ってください! ……寂しいです……)

「……はあ……」

(……寂しいよぅ……)


 ルーチェがミランダの膝の上でむすっとしながらじっとしていると、ミランダの手が動き、その灰色の頭に触れた。


(おっ)


 ミランダの指にルーチェの髪の毛が絡まる。


(お、おお……!)


 撫でられる。


(ミランダ様ぁーーーーーー!)


 途端にルーチェの頬が緩み、でれんでれんににやけ、そのままミランダに身を委ねる。


(好きです♡)

(お前は構ってほしがり屋の犬かい。馬鹿な子だね。全く)

(大好きです♡)

(少しは落ち着きなさい。もう)

(頭なでなで気持ちいいです♡ ……好きです……♡)

(いつになっても手がかかるんだから。たまには楽させとくれ)

(ミランダ様……♡)

(……仕方ない子だね)


 無言でやりとりをする二人を、セーレムが眉をひそめた。


「いや、普通に喋れば良くね?」

(ミランダ様……♡)

(今のお前は大型犬みたいだね。ルーチェ)

「なんで無言でやり取りしてるの? なんで会話しないの? ねえ、なんで? なんでそんな伝わってるの? テレパシー? テレパシーなの? 俺よくわかんないよ」


 今日もミランダ邸は平和である。






 お師匠様、構ってください END

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