授業中3

 今日も厳しくも自分の為になる授業が始まる。


 今日の先生の授業は合成魔法だ。普通合成魔法というのは錬金術のように素材と魔法陣を書いて行うものだが、先生は光魔法を使って合成魔法を行う事が出来る。というわけで、その実践というわけだ。これまた魔力分子の形が面白いから、あたしは結構好きな授業。


(大丈夫。叱られないように先生の言う通り数をこなして練習してきた。その上で結果を見せて、より魅力的な魔法になるにはどうしたらいいのか、先生からアドバイスをもらおう。そうしよう)


「今日は合成魔法の課題を渡していたけど、練習してきたかい?」


 あたし達はにこりと笑った。

 やってない人達は冷や汗を流した。


「ま、一人ずつ見ていこうかね。やってない奴は知らないよ。……まあ、見本がないと出来るもんも出来ないかね」


 ふと、先生が懐に手を入れた。


「ちょっとこいつを見てほしいんだがね」


 あたし達は先生が懐から取り出した万年筆に注目した。レトロなデザインで、ちょっと高級そうだ。


「これは光の魔力を操って素材を合成させて作ったものだよ」

「わあ」

「綺麗」

「ああ。見た目だけは綺麗でね」


 先生が溜め息を吐き、万年筆を眺めた。


「弟子が作ったんだよ」

「えー!」

「すごい!」

「合成魔法ですか?」

「ああ。弟子も光魔法を専攻しているからね。お前達と同じように課題を渡したら、これを作って――私にプレゼントしてきたんだよ」

「なんか、レトロな感じでいいですね」

(お洒落)

「こういうところのセンスは良いんだけどね、なんで魔法のセンスはないんだかね。これを作るのに朝から晩まで唸っていたよ」

「先生、それは万年筆を合成魔法で作るっていう課題だったんですか?」

「いいや? 今からお前達にしてもらうことと同じだよ。何でも良いから合成魔法を得意な魔法の魔力を使い、一つ物を作ってごらんって言っただけ。だけどね、わかるかい? お前達は週に何回かしか私の授業がないだろう? 他の授業の課題もある。それもやらなければいけない。課題の積み重ねが起きれば、どこかで何かを捨てなければいけない時だってある。それがこの授業の課題だった奴もいるかもしれないね。大目には見ないけどね、ま、百歩譲って、そこは理解しよう。だがね、あいつは毎日私の家にいて、毎日私の元で魔法を学んでいる環境にある。お前達よりもずっと恵まれてる環境だよ。なのになんでそこで唸るんだい? やれと言われて「はい。やります」と一言言って一秒後にはぱっと魔法を使っている。いいかい。これがプロの世界だよ。ノートに書いときな」

((んな無茶な))


 全員が心の中で思ったものの、無言でノートに文字を書く。言われたら「はい、やります」一秒後には教えてもらったことのない魔法もあっけらかんと使えてる。そんな人いるはずない。怖い。


「因みに」


 先生がノートをあたし達に見せた。


「このページからこの万年筆で書いてるよ」

「字きれーい」

「インク濃くて見やすいですね」

「書き心地とかどうですか?」

「……そうだね。まあ、悪くないかね」


 先生がずっと万年筆を見つめてる。


「魔法は正直だから、思いは届くものなんだろうね。頭に思い浮かべた人物が便利に使えるものを作りたいと思えば、その人物にとって便利に使えるものが形となって生まれる。これだから魔法はやめられないよ」


 先生が万年筆を教壇に置いた。


「さ、一人ずつ見ていくから、そこに立って見せな。ランダムで行くからね。……ミルフィー」

(おーう。まじかー。……でもやってきたもんね! 今日こそミランダ先生に褒めてもらうんだから!)


 その日以降、ミランダ先生の手には必ずお弟子さんが作った万年筆が握られていた。


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