授業中2
今日も厳しくも自分の為になる授業の最中、ふと、先生がこんなことを言った。
「あーそういえば、お前達には癖の自覚ってあるかね」
あたし達は首を傾げた。
「別にあってもいいんだよ。魔法に影響さえなければ、問題ないからね。ただね、私の馬鹿弟子にろくでもない癖があってね。今の若い子達はみんなそうなのかね」
先生が険しい顔で言った。
「瞬きを忘れる癖がある奴、いるかい?」
「瞬きですか?」
「いや……」
「流石に瞬きは……」
「そうだろう? 私も流石に瞬きを忘れたことはない。だけどね、あの馬鹿弟子はそうじゃない。あいつは小説とか絵を描くことが好きでね、しょっちゅう描いてるんだ。最近パソコンを買ったものだから動画編集まで腕を上げてやってるんだけどね」
「動画編集」
「すげー」
「やってることは凄いんだがね、あいつ集中しすぎて瞬きの存在を忘れるもんだから、気がついたら目を押さえて目が痛い目が痛いってわめいてるんだよ」
「瞬き忘れる人とかいるんだ」
「コンタクトしてる時なんてもっと大変だよ。一昨日のことだよ。家に帰ったらあいつが目を押さえてジタバタしててね、どうしたって聞いたら目を開けられないって言うじゃないかい。また小説でも書いてたんだろうと思って、とりあえず目を開けられるようにしないといけないだろ? 仕方ないから目薬をさしてやろうとしたら、あいつなんて言ったと思う? ワロー」
「痛くて目が開けられないので、魔法でなんとかしてください」
「惜しいね。ジェームズ」
「目薬じゃなくて、水がいいです?」
「あ、聖水とか」
「あー」
「残念だったね。正解は、自分以外にやられるのは怖いから近づかないでください」
「えっ、そんなこと言ってる場合ですか!?」
「ていうか、先生にそんなこと言えるのすげえ……」
「強者……」
「そう。事は一刻を争う。そんな子供みたいなこと言ってる場合じゃないのに、あの馬鹿がガキみたいにダダをこね始めたもんだから、目薬持ちながら言い争いだよ」
(そこで言い争うって、ミランダ先生のお弟子さん、やっぱり強いなぁ……)
「先生、そこからどうなったんですか?」
「仕方ないから救急車を呼ぼうとしたら、涙で乾いたコンタクトが潤ったらしくてね、そこでようやく目を開けられて、自分で取ってたよ」
「わあ、それは良かった」
「すごいな」
あたし達は拍手をするが、先生はうんざりした表情を浮かべた。
「何もすごくないよ。目薬させば一瞬で終わった話なのに、馬鹿な奴だよ。偉大なるお師匠様に『近付くな』って言うんだからね。いいかい? お前達は大切な人にそんなこと言っちゃいけないよ。これから反抗期に入る奴も、入ってる奴もいるだろうけどね、面倒見てもらってる以上は、そんな悪い言葉を使うもんじゃない。それが魔法にも影響してくるからね。わかったね」
「「はーい」」
「……さて、長話をしちまった。えーと……」
鐘が鳴り、あたしは質問をしに小走りで教壇の前に立った。
「ミランダ先生、質問いいっすか?」
「なんだい。ミルフィー」
「二点あるんすけど、一点目が、さっきの魔力の操り方についてなんすが、ミランダ先生はどのように練習されたんしょうか?」
「ああ、似た魔法を百回以上試したんだよ。結局は慣れの問題だからね。地道に反復練習する方がどんな練習よりも習得する近道だよ」
「やっぱり地道な努力なんすね。早速今夜やってみんす。……あともう一点なんすけど、……お弟子さん、失明とか大丈夫でありんしたか?」
「ああ、その心配はないよ。あの後私が見てあげたからね。治癒魔法で癒やして、次の日に眼科に行かせて、それでおしまい」
「あ、それは良かったんす」
「本当に馬鹿な子だよ。ウサギみたいに目が真っ赤に染まっちまっててね」
ミランダ先生がため息をついた。
「せっかくの澄んでる、あの綺麗な目が潰れたらどうすんだい。あの馬鹿」
(ミランダ先生、やっぱりお弟子さん大好きだよな)
「いいかい。ミルフィー、瞬きはちゃんとすること。それと、大切な人に近づくなって言ってはいけないよ」
「はい。ミランダ先生」
「はあ……。あいつもお前達くらい聞き分けが良かったら楽なんだけどね」
ミランダ先生がため息をつきながら、まるで恋人に冷たいことを言われたような、少し寂しそうな背中を向けて教室から出ていった。
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