第43話 クローズド! 黒い奴らの食べ納め!


 道中、わたしは邪想獣を食べていく。

 カルミッチェさんはわたしが食べる理由と、邪想獣の核に関する説明係りだ。


 サブンそのものが邪想獣となった邪想超獣を倒したおかげか、人型のような奴らは影も形もなくなった。


 ふつうの邪想獣も、わたしからすれば今更の相手だ。

 吐くほど不味いけど、食えないことはない。


 特筆すべきバトルはなかったし、正直に言っちゃえば邪想超獣のあとの邪想獣戦なんてただの消化試合。

 盛り上がりの欠片もないので、とっとと食べて終わらせる。



 そうやって町の中を掃除しているとーー


「お、ベルじゃん」


 探していた、神速なる猫たちを発見した。


 挨拶を交わしつつ、ピーニャちゃんを手招き。


「がーぶがぶ。

 がぶがぶ。がぶがが、がぶががぶっが」


 ピーニャちゃん。

 ごめんね。なぜだか、変化しちゃった。


 そう告げて、カルミッチェさんの持っている銃を示す。


「私の……銃、だよね?」


 コクコク。


「ベルちゃんが浄化したらパワーアップして、少し姿が変わってしまったみたいなの。

 彼女はそれを謝ってるみたいよ」

「そっか。呪いは解けたんだ」


 カルミッチェさんから銃を受け取ると、それを愛おしそうになでた。


「大丈夫だよ、ベル。

 姿形は少し変わっちゃったけど、でもこれは、間違いなく私のだ」

「がぶっが」


 よかった。

 たぶん元に戻すのは難しいから、そう言って貰えると安心するわ。


「それとピーニャちゃん。私からもごめんなさいしないといけない話があるんだけど」

「なんですか?」

「緊急時だったのもあって、その銃を少し使わせてもらちゃったわ」

「そういうコトでしたら気にしないでください。

 町のこの状況で、その行いに腹を立ててしまったら、この銃をくれた師匠に怒られちゃいます」

「そう。ありがとう」


 なにはともあれ、ピーニャちゃんに銃を返せたので目標達成っと。


「そういやベル、お前ってこのまま町中巡って邪想獣を食べて歩くの?」


 サラトガくんからの質問に、一応わたしはうなずく。

 すると、彼は何とも言えない顔で苦笑した。


「だいぶ落ち着いてきたとはいえ、町中を歩くのはさすがにコトじゃね?」


 それなー。

 一応、スーズさんは邪想獣を倒していけるみたいだけど……。


「あ、ベルちゃん。ピーニャちゃんの銃で邪想獣の核を撃ったらダメかしら?」

「がぶぅ……?」


 うーん……倒すだけならそれでいいかもだけど、それだと核が壊れちゃうんじゃ……。


「ベルちゃんの能力で核になってた想い出の品……壊れたとしても、直せたりしない?」


 ふむ。

 確かに、車輪と荷台を組み合わせて馬車を再生させられたしな。


 わたしは身振り手振りで、なんとか情報を伝える。


 みんながクイズに挑むかのような表情をしている中、神速たる猫のブレシアス担当サンディちゃんが手を打った。


「なんとなくわかった。

 壊れたモノを直すなら、壊れたモノのパーツの全てが必要。

 さらに言えば、壊れたモノを直すのに別の素材が必要な場合があるーーそれであってる?」


 いえす。いぐざくとりー!

 わたしは、ソレッ! とばかりにサンディちゃんに指を差す。


「ほんとコイツ、何でもアリか」


 コンクラーベくんが笑うけど、わたし自身も自分に対してそう思う。


「だが、壊れてもベルが直せるかもしれないワケだろ。

 持ち主には悪いけど、状況が状況だ。核を狙って確実に行くべきだ」


 そして、デライドくんがそう纏める。


「直せなかったら申し訳ないけど、放置しておくワケにもいかねぇか。

 いちいちベルが食べて回るワケにもいかねぇだろうしな」


 もしかしたら、スーズさんも同じことを考えて単独で倒して回ってるのかもしれない。


「なぁベル。オレの剣にも、邪想獣を倒せる属性付与できたりしないか?」


 サラトガくんの提案に、やってみる価値はあるなーーと思ったわたしは大きく口を開いた。


「そうこなくっちゃ!」


 手は大いに越したことはないしね。

 邪想超獣との戦いでだいぶ素材を急速消化しちゃったけど、まだ残ってる分はある。


 サラトガくんの剣は、ごくふつうのロングソード。

 聖なるチカラが強すぎると折れちゃいそうだけど……。


 鍔や柄をホワイトウッドで補強して、刀身はーーうん。なんか聖なる属性を帯びたインゴットの欠片があったから、こいつを混ぜ込もう。


 そうして、何だか久しぶりにも感じるエクスタシーッ!


「うおッ!? 膨らんだり萎んだり忙しいなッ!」


 なにはともあれ、完成したので剣を舌に乗せてベロリンと差し出した。


「なんかめっちゃ高級そうな剣になってる」

「高級そうーーじゃなくて高級な剣になってるよッ!

 名前は……『ロングソード改"白夜の枝"』だって」


 恐る恐る手に取るサラトガくんに、ピーニャちゃんが解説してくれる。


「白夜の枝……なんかカッコいいなッ!」


 お気に召してくれたようで何より。


「これでサラトガとピーニャが邪想獣を倒せるようになったなら、ベルとオレたちは手分けするべきだ。

 核は壊れても壊れてなくても回収して、あとでベルに渡す」


 デライドくんの言葉に、わたしはうなずいた。


「邪想獣の特性と倒し方は把握した。

 最悪、白夜の枝をサラトガより強い人に貸し出してもいい」

「えー」


 サンディちゃんの提案は、サラトガくんにとっては不満だろうけど、個人的には、そっちのが確実だと思うわ。


「ベル、無理して全部食べて回るくらいなら……強そうな探索者シーカーを捕まえて、白夜の枝みたいのを作ってやればいいんじゃね?

 カルミッチェさんがいれば、説明も問題ないだろうしさ」


 まぁ、カルミッチェさんが問題ないならーーそんな思惑で視線を向けると、彼女は一つうなずいた。


「そうね。

 ベルちゃんが町中回るにしても、そっちの方が早く終わりそうね」


 わたしとしても、クッソ不味い呪いの塊を食べる回数が減るのは助かるかな。

 ……壊れた核の味がどうなるのかはわかんないけどさ……。


「それじゃあ、ベル。また後でな!」

「がぶ!」


 こうしてサラトガくんたちと別れて、わたしとカルミッチェさんも動き出す。




 なんのかんので、日暮れ前には事態は完全に終息したよッ!




 疲れ過ぎて、ねぐらである厩に戻ってくるなり、おやすみ10秒。


 もはや睡眠というより気絶や昏睡レベル。


 だけどまぁ、ひとまずは一件落着ってことでいいんじゃないかな。




 

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