第42話 私、アウェイクン! だけど片付けが残ってる


 目が覚めると、何だが殿に小骨か痰がひっかかってる感じ。


「どうしたフレンド?」


 クロンダイクたちがみんな心配そうに見てくるけど、ちょっと待ってほしい。


 もごもご、もごもご……

 もうちょい。

 もうちょっと。

 お、いけるか?


 わたしは軽く手を振って見せると、クロンダイクは何か理解してくれたようだ。


「ベルが立ち上がりたいらしい」


 それにスーズさんとカルミッチェさんもうなずいて退いてくれる。


 よし。


 わたしは立ち上がると、口の中にあるものをプッっと吐き出した。


 ツバとも痰とも違う塊がわたしの口の中から飛んでいき、地面にぶつかるとポンという小気味良い音とともに小さな煙を上げる。

 そして、そこにサブン・バスアティスが現れた。


 あー……スッキリした。


「がぶ!」


 それから、心配掛けてすまねぇってノリで軽く手を挙げてみせれば、三人は安堵したように息を吐く。


「ベルちゃん、彼は生きてるの?」

「がぁ?」


 さぁ――わたしは知らね。

 あの精神空間の影響がどうなってるかは知らないし、別にどうでもいいし。


 あいつが生きてようが死んでようが、廃人になってようが何も変わらない。

 私にとってはどうでもいいことだ。


「生きてはいるみたいだな。

 ルーマ封じを何重にかしてしっかり幽閉するべきか……」


 倒れたサブンの様子を見ていたクロンダイクが確認を終えたのか、近くにいた騎士に声を掛けている。


「面倒くせぇな、コイツ。

 どうせロクな稼ぎもないだろうから、賠償金なんて期待できねぇし。

 罪人奴隷としてどっかの職場に送ろうとも、返品されてきそうだしな……」


 それ、すっげー分かる。


「いっそここで、キルをするべきか?」

「クロンダイク様、それにトドメを刺すのでしたら少々お待ちください」


 六割くらい本気の口調で独りごちるクロンダイクに、スーズさんが待ったをかけた。


「いや言ってみただけだが……何かあるのか?」

「まだ町中の邪想獣が消えてないようです。変に殺してしまうと、彼らが強化される可能性がありますので」

「……こいつが意識を失ってもダメなのか」


 嘆息するクロンダイクに、私も同意するように嘆息する。


「それと、邪想獣なんですが……」


 なし崩しにでっかいのと戦うことになったので、報告できていなかった邪想獣の核の話をスーズさんがした。

 ようするにあれだ。人の想い出の品が核になってるってヤツ。


「やっぱキルをセレクトするべきか?」


 本気度が八割ほどになった声色でクロンダイクが呟く。

 まぁ気持ちは分からんでもないが、落ち着けフレンド。


「がぶがぶ」

「分かってるよ。別に本気じゃないさ」

「がぶー?」


 私が目を眇めると、クロンダイクは苦笑しつつも無言で肩を竦めたので、説得力がない。


「ベルちゃん。ちょっとじっとして」


 クロンダイクと遊んでいると、カルミッチェさんが駆け寄ってきてそんなことを口にする。


「がぶ?」


 私が首を傾げていると、カルミッチェさんは腰元のポーチから何やら液体の入った瓶を取り出した。


「ガジェット・ブーステッド」


 そしてその瓶に何やら念を込めると、うっすらと輝きだす。

 私が不思議に思っていると、クロンダイクが説明してくれる。


「ガジェッティアのスキルの一つさ。

 自分の理解が及ぶ範囲の道具の効力を一時的に高める。

 消耗品なんかは高まっているうちに使うのがセオリーだな」

「がぶー!」


 おー! つまり、あの薬の効果を高めたのか。

 永続的じゃないから、商売には使いづらそうだけど。


「よし。じゃあ、ベルちゃんの背中の傷に駆けるわね」

「がぶ。がぶがぶが」


 おお。忘れてた。

 そういえば、背中に傷があったわ……って想い出したらなんかめっちゃ痛くなってきた……!


「カルミッチェ女史、急いでやってくれ。

 フレンドは今、女史に言われて痛みを想い出したらしい」

「え? あ、ゴメンねベルちゃん! 急いで掛けるからッ!」


 そうしてバシャっと結構乱暴に液体を背中にぶっかけられた。

 ――そういう使い方するんだッ!?


 っていう驚きはさておいて、あっという間に痛みが薄れ、傷がふさがっていくのを感じる。


「すごいわね。元々質の良いポーションだったんでしょうけど、ブーステッドの効果も高いおかげで、最高品質クラスの効力を発揮してるわ」


 スーズさんも感心するくらい、カルミッチェさんの腕前は良いらしい。


 うんうん。いいねいいね。

 スーズさんもカルミッチェさんも美人で出来る女だなんて。


 背中の痛みが完全に消えた私は大きく伸びをする。

 そこへスーズさんが声を掛けてきた。


「ベル。悪いんだけど、もう一仕事できる?」

「がぶがぶ」


 はいはい。分かってますよ。町に残ってるヤツですね。


「私にはこのムチがあるから、手分けしましょう」


 そう言いながら、スーズは預けていたピーニャちゃんの銃を差し出してくる。


「それと……この後、絶対に忙しくなって返す機会が無さそうだから自分で返しに行った方が早いわ」

「がぶぅ」


 そういうことならしょうがない。

 私はピーニャちゃんの銃を受け取りる。


「あ、そうだ。スーズ女史」

「はい」

「オレからの依頼だ。ベルの腹の中での浄化に使えるような素材を大量に募集する。ギルドから領主からの特別依頼スペシャルクエストというコトで張り出してくれ」

「かしこまりました。報酬はいかほどで?」

「復興費用もあるしな……通常の買い取りの二割増しが限界だな。

 報酬は先にギルドで出しておいてくれると助かる。最終的に総額の六割をこちらが負担しよう」

「かしこまりました。ギルドマスターにはこちらから伝えておきます。

 町中の邪想獣の討伐が完了次第、ギルドに戻り依頼書を張り出します」

「よろしく頼む」


 んー……まぁ浄化するには私が合成する必要があるっぽいから、素材集めは大事だと思うんだけどさ……。


「もしかしてベル、私が勝手にやっていいのかって思ってる?」


 思わずスーズさんを見ていると、気づかれた。

 なので、素直にコクコクとうなずく。


 いくら領主様からの依頼とはいえ――いやむしろ領主様あからの依頼だからこそ、ギルマス通さんでいいのかな……って。


「大丈夫。これでも一応、サブマスターの権限持ってるから」

「がぶがッ!?」


 スーズさん、まさかのサブマスだった。

 でもまぁ納得。


 現場能力も、事務能力も高いもんね。


「それとカルミッチェ女史」

「はい」

「騎士たちの中には治癒術や、ガジェッティアのスキルを使える者もいる。

 この場の手当は問題ないから、君もベルに同行して町の方で、住民や探索者シーカーの手当に当たってくれ」

「わかりました」

「がぶ!」


 それなら、ピーニャちゃんの銃はカルミッチェさんに預けておこう。


「これ、ピーニャちゃんの銃?

 確かこの前の騒動の時に預かってたモノよね?」


 えーっとどうやって説明しよう。

 なんて考えていると、スーズさんが横からフォローしてくれる。


「そうです。それをベルが浄化したんです。それを一緒に返しに行く途中で、今回の騒動が起きてしまったんですよ」

「なるほど……でも、ベルちゃんはどうして私にこれを?」

「たぶん、道中の護身用かと。

 通常の戦闘なら、カルミッチェさんが普段使いしている銃でも大丈夫なんですけど、邪想獣には効きが悪いですから。

 でもベルが浄化して属性を付与したその銃でしたら効果があります」

「じゃあピーニャさんを探しつつ、ちょっとだけお借りするわ」


 カルミッチェさんが白い銃を受け取ってくれて準備完了って感じだね。


 私はマイフレンドの方へと体を向けて、軽く手を挙げた。

 んじゃ、行ってくる――ってなモンよ。


「がぶ」

「おう。頼む。

 落ち着いたらもうちょっとちゃんと、オレの町を案内してやるさ」

「がぶがぶががぶぶ」


 たのしみにしてる。


「それじゃあベル、また後で」


 スーズさんも軽く手を挙げて、踵を返した。


「がぶが」

「そうね。私たちも行きましょう」


 それじゃあ、馬鹿の後始末を始めましょうかッ!

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