第44話 グッド・イブニング! 遅く起きた昼に
もにゅもにゅと、私の
「がぶ……?」
仰向けに眠る私のお腹に乗っているのは――フィズちゃんだった。
「えへへー」
あなた、トトロっていうのね! とでも言い出しそうなフィズちゃんの笑顔に癒される。
「もうお昼すぎちゃってるよー」
あらま。もうそんな時間なのか。
私はお腹の上に乗ってるフィズちゃんを持ち上げながら、身体を起こす。
それからあぐらをかくような姿勢で座り、フィズちゃんを足の隙間に納めた。
さぁ背中で私のもちもちぽんぽんを堪能するがいい!
「ふにゃー……なんか眠くなっちゃうくらい気持ちいいね」
そうだろうそだろう。
私がフィズちゃんの頭を優しく撫でていると、厩に誰かが入ってくる気配があった。
「ああ、ベル。起きたのね」
「がぶがーがぶぶがぶ」
おはよーございます。
「ええ。おはよう。
何だかフィズちゃんはおねむっぽいけど」
クスクスと笑うスーズさんの声で、フィズちゃんはハッと目を開けた。
「スーズさん危険です! こうやってベルに寄りかかってると眠くなっちゃうッ!」
「それは確かに危険ね」
自分も試して満たそうな顔で笑うスーズさん。
「がぶがぶがが。がぶが?」
お疲れなら、貸すよ? と言ってお腹を撫でて見せると、スーズさんが少しグラっと来ている。
「い、今はダメよ……。色々と仕事が溢れてるから……」
いや、そんな血反吐と血涙を垂れ流すかのような顔で言われても。
「それより、ちょっと外に出てきて貰える?」
「がぶ?」
言われるがまま、私は立ち上が――る前に、フィズちゃんを膝から下ろしす。
よし。立とう。
「スーズさん、わたしも一緒に行って平気?」
「いいわよ」
「やった」
フィズちゃんは小さく喜ぶと、私の手を取る。
「行こう、ベル!」
「がぶ!」
私はうなずくと、フィズちゃんと手を繋いで
厩を出ると、仮設テントが増えていた。
「がぶ?」
しかも、もともとあったのと合わせて五つもある。
「みんなの想い出の品と、それの解呪を願ったベルへの激励のご飯の数々よ」
「がぶがぶがぶががー」
こんなにあるのかー。
どっちがって話じゃなくて、どっちもって感じ。
スーズさんの説明によるとギルド本舎よりの二つのテントが想い出の品。壊れてたり呪われてたり。
そして厩側三つが、私への差し入れ。
この差し入れもふつうの食べ物や、壊れたアイテムの数々のほか、解呪を願う人たちが集めてきた聖なるチカラを秘めたものの数々も置いてある。
「無理して、一気に全部食べるとかは必要はないから、自分のペースで食べたり解呪したりしてくれて構わないわ」
うん。それは助かる。
んー……それはそれとして、だ。
「がぶがぶ」
「どうしたの?」
私は手近なテントに触れ、それから空きスペースでテントを示すジェスチャーをしてみた。
「ベル、テントが欲しいの?」
フィズちゃんが可愛く小首を傾げるのに、ソレっと指を差す。
「厩はイヤ?」
今度はスーズさんの問いかけに、私は軽く首を横に振る。
なんて説明すればいいか……って、そうか。実演した方が早いか。
二人に対してちょっと待っててとジェスチャーして、私は適当に呪われた品を口に放り込む。
この呪われた釣り竿。
持ち主が息子さんから初めてプレゼントされた品らしい。
全く以て、マジでロクなことしてねぇなサブン。
ともあれ、ごっくん。
Oh、不味い! だけど強烈なの味わったあとだからか、ヌルいね。こんなのは不味いうちに入らないよ!
明日また来てください、真に不味いモノをお見せしますよ――などと脳内で変なセリフが湧いてくるけど、自分で考えておいてそんなもの見たくない。
などと――アホな妄想してないで、合成合成っと。
ホワイトウッド……だけじゃダメか。
んー……お、よさそうなのあるじゃん。よし。
膨らんで、へこんで、エクスタシー! ひゃっふーい!!
そうして聖なる釣り竿を吐き出して、地面に置いてから――私は改めてその釣り竿を覆うような感じでテントのジェスチャーをする。
どうやらそれで、二人に伝わったらしい。
フィズちゃんとスーズさんは顔を見合わせてからうなずいた。
「そっか。解呪したあとのアイテム置き場が欲しいのね!」
「それもそうよね。ごめんね、ベル。あとでちゃんと用意するわ」
良かった良かった。
これで安心して解呪できるよ。
「とりあえず、その釣り竿は預かるわ。
一応、ギルドの受付の横に、解呪完了のスペースは作ったのよ。
でもわざわざベルちゃんに来て貰うより、どんどん合成してどんどんテントに置いても貰った方が効率が良さそうね」
解呪済みのテントに置いてあるアイテムはギルド職員が勝手に持って行って、専用スペースに移動させてくれるそうだ。
その方が、私も気楽でいいかな。
「さて、伝えたいコトは伝え方から私は仕事に戻るわ。
ひと段落したら、お腹を貸して貰えないかしら?」
「がっぶー」
おっけー、と私はサムズアップ。
それを見て、スーズさんは笑顔を浮かべると、颯爽と去っていった。
うーむ。出来る女の去り姿。カッコいいじゃないの!
私がスーズさんの後ろ姿を見ていると、横にいたフィズちゃんが私の手をクイクイと引っ張った。
「べるー」
「がぶ?」
「えーっとね。ご飯食べてからでいいんだけど」
「がぶ」
なんだろ?
「わたしのお家に来てくれないかな?」
「がぶぶが……がぶが?」
いいけど、なんで?
「お父さんがね。動けるようになったから。ベルと会いたいんだって!」
なるほど。フィズちゃんパパが目覚めたのか。
寝込んでた原因が呪いだったワケだし……。
原因となったベッドは解呪され、呪術師は倒れた。
――となれば、復活するのも当然か。
「がっぶー」
フィズちゃんにもおっけーとサムズアップ。
本心としてはすぐにでも行ってあげたいんだけど……。
「やった!」
ぐぎゅるるるるるるるるぅぅぅ……っ!
「すっごいおなかの音だ!」
「がぶー」
ごめんよフィズちゃん。
マジでハラペコなので、少しだけ待っててくれッ!
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ウェスタン風異世界での荒野と口笛なファンタジー新作を始めました。
『レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~』
ご興味ありましたら、是非
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