第40話 革命? 新型? 分かり合いのディメンジョン!


 宇宙。

 第一印象はそれだった。


 暗い空間に瞬く無数の光。

 赤く伸びる光の束や、青く輝く川のような星の群れ。


 そこがどこかと問われたら、思いつく言葉はやはり宇宙。


 しかし宇宙?

 なぜに宇宙? ほわい宇宙??


 ここはどこ~?

 私はどこ~?

 いったい何が起きてるの~?


 宇宙っぽい空間を漂う私の顔は、きっとどこかの宇宙猫。


 いやマジでどこよ。ここ。


 ともあれどうあれ、よく分からないこの空間でどうして良いか分からないので適当にさまよい歩く私。


 宇宙っぽいし地面も特にあるようには見えないんだけど、ふつうにペタペタ歩けるので適当に歩く。


 ――っていうか、アレよね。

 なんかRPGとかでたまぁにあるよね。こういう謎空間を歩くイベント。


 誰かの心の中とか、敵の作り出した異空間だとか、結構重要なイベントで。


 ……つまりこれって重要イベントなのか?

 邪想超獣を食べたら意識が遠のいたことと関係あるのか?


 ん? 意識を失った?

 そうだ。意識を失ったよ、私。


 となると、これは夢の類?


 うーん……行けども行けども宇宙だから、よく分からん。

 私が首を傾げていると、何やらブラックホールじみたモノが視界に入った。


 その一定範囲の空間にだけ何もない。

 でも何か吸い込んでいるわけでも、吐き出しているわけでもなく。


 ただただ、宇宙に開いた穴のように。

 あるいはただ真っ黒いだけの球がそこに浮いているかのように。


 黒穴ブラックホールというべきか、黒球ブラックボールというべきか。

 何であれ、この空間で何をして良いのか分からないから、私はそのブラックホールっぽい物体の元へと向かうことにした。


 近づくにつれて、ブラックホールの中心に何かが見えてくる。

 恐らくは人。膝を抱えて丸まっている人間だ。


 私はそいつを知っている。

 無駄口のサブン。自らを邪想超獣へと変じさせた阿呆。


「何だお前? オレを笑いに来たのか?」


 こちらに気づいた阿呆がボソボソと陰鬱な声で訊ねてくる。

 その問いに、私は少し真面目に考えてから首を横に振った。


「嘘付くなよ……。

 どいつもこいつも、みんなみんな、オレを笑わずにはいられないんだろうが」


 拗らせてんなー……。

 しかし、ハッキリとさせておくべきことはあるよね。


 がぶがぶしか口に出来なくとも、ハッキリと言っておこう。


「自惚れんなよ。私にとっては、お前なんぞ笑ってやる価値もない阿呆だよ」


 おや? なんかふつうに喋れるぞ。

 このヘンテコ空間のせいかな?


 私が自分がふつうに声を出せたことに驚いていると、阿呆は目を見開いてこっちを見ていた。


「なんだよ、それ……。

 だったら何でみんなオレをバカにしてあざ笑うんだよッ!」

「そりゃあお前がバカで嘲笑ちょうしょうされるべくしてされる人間だからだろ」

「は……? なんだよ。なんなんだよ、ソレはッ!?」

「いや、何なんだよ言いたいのは私だよ」


 こいつの思考回路が良くわからん。

 自分なんて――と自嘲するクセに、その自嘲は正しいと行程してやればこれだ。


「そもそも根本的な話するけどさ。

 別に私だけじゃないからな? この世界に生きる数多の人々にとって、お前の価値なんて、笑い物にするだけの価値もないんだよ」

「は?」

「世界中の人々から嘲笑される? 自惚れんな。

 世界に生きる人々の多くは、自分の身近にいる他人以外に興味がないんだよ。

 お前を笑い物にする価値があるかないか以前に、お前という存在すら知らないし、知る気もない」

「だったら何でッ,どいつもこいつもオレのコトを……ッ!」

「そりゃあお前自身が行く先々、出会う人々の『身近にいるクソ野郎』たりうる行動を取ってきたからだろうが。

 自分から嘲笑される行動を繰り返してきたクセに、世界が自分を嫌ってるんだとか、壮大な寝言ほざいてるんじゃねーよ」


 いやもうホントにな。

 スーズさんから聞いた話と、私自身がこいつと対面して感じたことはそれだ。


「なんだよ、それは……何なんだよ……!」

「お前、それしか言えないのかよ?」


 やれやれ。


「まぁいいや。一つ、タメになる話をしてやるよ」

「は?」


 説教なんてのはガラじゃないし、面倒なんだけど……。


「誰だって身近な閉じた世界から、自分の世界は始まるんだよ。

 そしてそれは、意外なコトに生まれてから死ぬまで、そこまで広がらない」


 前世の私がそうだ。あるいは前世の地球人みんなそうだったのかもしれない。

 インターネットが発達し、自分の世界をいくらでも広げられるにも関わらず、基本的な世界というのはその身近で閉じた世界で完結する。


「正義の勇者として有名になろうと、悪逆の犯罪王として名を馳せようと同じだよ。閉じた世界を自ら割ろうと飛び出すか、外部からの何かしらのキッカケがなければ、その外に広がる世界なんて気づけないし理解できない」


 バズって有名になろうが、芸人や作家になって知名度があがろうが。

 その狭く閉じた世界の外へと飛び出す勇気を持たない人たちは、ずっとその閉じた世界で生きていく。


 閉じた世界の身近な人々こそが世界の全てのように感じてしまう。


 まさに前世の私がそれだ。

 プロゲーマー、大食い芸人。そんな新しい世界を垣間見れていたはずなのに……。

 インターネットで色んな世界に接続できているのに……。


 私の世界感覚は閉じたままだったんだ。

 だから、私なんかよりも世界を、未知なる道を理解してない田舎の家族や友人たち……頭の固い職場の連中の言葉なんかに耳を傾けてしまう。


 でも違うんだよな。

 前世の私は、外の世界からの声に、もっと耳を傾けるべきだった。


「アンタは大陸中を旅して、色んな人たちと出会いながらも、その閉じた世界にこもりきりだったんだよ。

 だから、アンタの世界にはアンタを嘲笑する声だけが満ちていた。

 なぜなら――アンタはその嘲笑に満ちた世界の外に興味を持たなかった。外から掛けられる声に耳を傾けなかった」


 それは前世の私も同じこと。

 もっと別のところに耳を傾け、未知なる道に進めば良かったなんてことに気づいたのは、この世界にベルとして転生してから気づけた話。


 今更と言えば今更だ。


 だからこそ。

 私はこの世界で、今度こそ――外の世界へと飛び出そうって想ったんだから……。


「自分の世界の外に目を向けろよ。

 そこには、お前の知らない嘲笑以外の声が広がる世界だぞ?」


 だから――


「だからサブン。

 お前はもっと外を見ろ。世界を見ろ。自分以外に意識を向けろ」


 これは私なりのサブンへの激励。

 恐らくは、サブンにとっての最後のチャンス。


 自分だけを見つめてる閉じた世界から飛び立てるラストチャンス。


「お前が、自分だけの世界――それだけを見続けている限り、世界はお前を嘲笑し続ける」

「外に出れば、誰もオレを嘲笑しなくなるのか?」

「いや。それは無いな。嘲笑する奴は居なくならない。だけど減らすコトは出来る。もっともそれは、お前自身がどう生きるかによって左右されるけどな」


 それでも、私の言葉の手を取るのなら、まだ挽回はできるかもしれない。

 前世の私の重なるところがあったからこその、私のささやかな同情と――救いの手。


 私のこの世界で手に入れた大事なモノを傷つけようとしたクソ野郎だ。

 本当ならこんな奴に手を差し伸べたいなんて想わないけれど……。


 ただの偶然による気まぐれとはいえ、私は手を差し伸べた。

 だから、この手を取るなら多少は気にかけてやってもいい。


 だけど――


「偉そうに説教してんじゃねーよッ、クソ女がッ!!

 結局テメェも同じかよッ! そうやって偉そうに説教こいてッ、オレをバカにしやがってッ!」


 その選択をしたのであれば、もう私は容赦しない。


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