第38話 ディサイシブ・バトル! デカくて黒いのを倒せ!

73マゼモン本文38



    38.ディサイシブ・バトル! デカくて黒いのを倒せ!



 さて、ギガントなサイズの奴とバトル開始だぞ……っと。


「大型邪想獣……便宜上、邪想超獣と呼称するとしましょう」


 事務的な口調でそう告げると、スーズさんはムチを構えた。


「カルミッチェ、倒れてる騎士たちを頼む」

「はいッ!」


 倒れてない騎士さんたちと、私たちは邪想超獣の相手だ。


「最後までひたすらに迷惑をかけてきて、本当に迷惑な方ですねッ!」


 スーズさんがそう言いながら、ムチを構える。

 すると、スーズさんの構えるムチが帯電し、バチバチと言い始めた。


 彼女はそれを振りかぶり――


疾風ライトニング……ッ」


 小さく飛び上がってから振り下ろすッ!


迅雷波ブラスターッ!!」


 直後、ムチの勢いのままに、飛び上がったスーズさんの頭上あたりから、無数の落雷が放たれた。それらは尾を引くように連なって地面をなぎ払っていく。


 おお! カッコいい!

 結構な大技だったりするのかな、これ?


 小さな雷の群れに右の前足を飲み込まれながらも、邪想超獣はひるむことはなかった。

 再生したばかりの右前足をズタズタにされているのも気にせずに、邪想超獣は左前足を振りかぶる。


 みんなが警戒する中、私はその前足を見据えて左腕を上段に構えた。


「ベル?」


 みんなが訝しげにこちらを見ていることを気にせずに、意識を振り下ろされる邪想超獣の前足に向けて――


 心眼シンガン竜鱗弾きリュウリンハジキ


 ヒット直前、レバー前入れのテンションでッ!!

 脳裏に過ぎるスキル名! これはイケるッ!!


 だけど、口に出している暇はないので、呼気だけでもッ!


「がぶッ!」


 振り下ろされた前足を掲げた左腕で受け止める。

 その瞬間、光が弾け、振り下ろされた前足の衝撃を散らして無効化させるのに成功したッ!


 かーらーのー……!


「がっぶぁぁぁ――……ッ!」


 不抜フバツ確竜固閃撃カクリュウコセンゲキ


 反撃だ~~……ッ!


 受け止めた腕をグイっと押し返すように動かす。

 それでバランスを崩した邪想超獣に向けて、一歩踏み込み正拳突せいけんづきを放つ!!


 刹那――振り抜いた拳が猛烈な衝撃波を伴ったすごい一撃になっていた。


 これには私もビックリ。


 スーズさんの攻撃でズタズタになっていた前足を、拳から放たれた衝撃波で砕きながらふっとばす!


 踏ん張っていた前足が消えたことで、バランスを崩す邪想超獣。


「ちょうど良いッ、その右腕も置いていけッ!」


 そこを好機と踏んだクロンダイクが小さく飛び上がり、私の頭を踏んでさらに飛び上がった。


「セブンス・フラッシュ!」


 クロンダイクの握る剣は彼のルーマによって光り輝く。

 光をたなびかせながら飛び上がったクロンダイクは、その勢いのまま剣を振り上げる。


 光を纏った剣による対空技っぽいジャンピング斬り上げは、見事に右前足を捉えて切断した。


 斬られた勢いで、くるくる回転する前足は、さっきも前足が直撃した家に再び突き刺さる。


「よし! 切断も、巻き込みも計算通りッ!」


 いや、いいんだけどさ。クロンダイクがいいなら。

 それはそれとして――


「がぶがぶ!」

「分かってるッ、どうせすぐ再生するってコトだろッ?」

「がぶ!」


 それ!


「だから畳みかけるんだよッ!」


 ニヤリとクロンダイクが笑う。

 いつの間にやら、まだまだ戦える騎士さんたちが、邪想超獣をぐるり囲んでいた。


「やれッ!」


 クロンダイクの号令で、騎士さんたちが一斉に攻撃をしかけるッ!


 私ももう一発どつこう!

 そう思って構えた矢先――


 邪想超獣のボディから、無数の目が現れた。

 もうそういう模様かってくらいにヤケクソじみた目の数だ。

 ボディだけでなく、無事な足にも目が出てきたぞ!?


 なにあれ? 気持悪ッ!?


 などと思ったのも束の間、その目が四方八方デタラメに、黒いレーザー光線みたいなのを発射した。


「なにィッ!?」

「うそッ!?」


 クロンダイクやスーズさんはすぐに反応した。

 騎士さんたちは躱せそうな人と当たりそうな人が半々くらい。


 だけどそんなことより――


「がぶがぶがぁ~~……!!」


 カルミッチェさんッ!!


 ケガ人の手当に集中しすぎて状況を把握してなかったカルミッチェさんへ、一筋に黒い閃光が向かっていく。


 それでも、私は何とか間に合った。

 私は閃光へと背中を向けて、カルミッチェさんに覆い被さるように抱きしめる。


「ベルちゃん……!?」


 直後、背中に強烈な痛みが走る。


「がぁぶ……ッ!」


 この痛み――前世じゃああまり味わう機会がなさそうなやつだ……。

 だけど泣いているワケにはいかない!


 素早く振り返り、邪想超獣を見れば、いつの間にか前足は再生していた。

 ご丁寧に、前足にも目が出現している。


 なんだよこの超再生ッ!

 クソゲーかよ!


「ベルちゃん!」

「がぶががッ!」


 さわるな!

 背後からカルミッチェさんが手を伸ばしてくるのに気づいて制止する。


「でも、その傷……」

「がぶっがぶ」


 わかってる。


 なんか背中の傷口がコポコポ泡立ってるんでしょ?

 炭酸飲料か溶岩かって感じで。


 コポコポしている実感はあるし、めちゃくちゃ痛いよ。

 だけど、今は気にしている場合じゃない。


「その傷、たぶん呪いが掛かってるわ。

 ポーションや治癒術では、たぶん治せない……」


 辛そうなカルミッチェさんの声。

 周囲を見渡せば、騎士さんたちもさっきの黒い閃光を浴びてしまった人たちがいた。


 あれ自体もかなりの威力があったし、治療できない傷を負うのはやばい。

 実際、今の一撃で完全に戦線離脱してしまう騎士が出てきている。

 死者はいなそうだけど……。


「ベルちゃん。

 たぶんだけど、傷そのものはともかく、傷を覆う呪いは――アイツを倒せば解けるわ」

「がば、がぶがぶがばぶ」


 なら、話ははやい。


 最初から倒すつもりだったんだから、勝利条件は変わらない。

 むしろ、勝利報酬が増えたと思えばいいんだよね。


「レディ・カルミッチェ!

 オレもフレンドも、ケガしたくらいじゃこの戦いは降りる気はないぜ。

 もとより、降参サレンダーなんて許されないバトルだしな」


 こちらのやりとりを聞いていたのだろう。

 クロンダイクが叫ぶように口を挟んできた。


 でもまぁ、その通りなんだよね。

 邪想超獣との戦いってのはそういうものだ。


 クロンダイクは領主として街を守る為には戦うしかない。

 私はフィズちゃんとその家族や、この僅かな期間でも良くしてくれた人たちを救いたい。


 なら、戦うしかないじゃない! ってね。


 振り向いて、私はウィンクをしてみせる。

 それに何を思ったのか、カルミッチェさんは何かを言い掛けて、大きく息を吐いた。


「……変なコト言ったわね。ごめん。

 みんなの手当をしてくるわ」


 色々言いたいことを飲み込んだ様子で、カルミッチェさんが動き出す。

 私や騎士さんたちの呪いの傷を見て、思うことがあったんだろうな。


 だけど、クロンダイクや私の言い分も理解できるんだろう。

 理解はできるんだけど、上手く感情が処理できない感じかな。


 プライベートならまぁもうちょっとお話ししようかなって思うけど、今は戦闘中だからね。


 会話はここらで切り上げだ。


「フレンド、行けるんだな?」

「無理はしないで……とは言えない相手よ、ベル」


 クロンダイクとスーズさんのいる戦線に戻ると二人が声を掛けてくる。


「がぶっがぶ」


 わかってる。

 私はそう返事をすると、お腹の中に意識を向ける。


 急速吸収で一時的なブーストをかけた方がいいだろう。

 ――となると、さて……何を消化してみようかな……。


 

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