第34話 ディスエンチャント! 胃の中のベッドを一つ対象とする!


 貴族街の方から大きな音がしたと思ったら、大きな邪想獣が出現している。

 これまで戦ってきた邪想獣と雰囲気も違うし、あれが親玉なのかもしれない。


 そんなことを思っていると、家の中からフィズちゃんの悲鳴じみた声が聞こえてきて、私は思わず反応する。


「お母さんッ!!」

「フィズ? どうしたの?」

「お父さんの様子がッ!!」

「……ッ!!」

「きぃぅ!」


 コリンさんは慌ててお店の中へと駆け込んでいき、シャラランもそれを追いかけていく。

 それを見ていたスーズさんとマリーさんは貴族街の方を睨んだ。


「旦那は元々呪いの影響を受けて苦しんでいた……。

 呪いの元となってるベッドはベルのハラの中だけどさ」

「ええ。マリーの言いたいコト分かるわ。アレが無関係とは思えない」

「あたしはここの護衛が仕事だ。悪いけど動かないよ。スーズさんはどうするさね?」

「行くわ。あのサイズ――人の少ない貴族街ならまだしも、こっちに来られたら危険だもの」


 二人はそこまで話したあとで私を見た。

 んー……とりあえず、ジンの呪いの根幹ってようするにベッドなワケで……。


 だとしたら――


 ベッドに、ホワイトウッドと聖水に……綺麗な布きれって感じかな。


「ベル!? どうしたの急に合成をはじめて」


 おっと。すまねぇスーズさん。

 そりゃあ横で急に膨らんだらビックリするよね。


 ともあれ、エクスタシー! ひゃっふー! そしてち~ん! からの完成ッ!


 今回はちょっと大きいので、いつぞや馬車を吐き出した時のように、ぷっと痰を吐き出すようなばっちぃモーションになってしまうけど……。


 吐き出したものが地面に振れると元の大きさに変化する。


「……ベッド?」

「ベル、これ旦那の使ってたベッドかい?」

「がぶ!」


 首を傾げるスーズさんに対して、マリーさんは即座にこれがなんだか分かってくれた。

 そんなマリーさんにサムズアップ!


「呪いが解けてるじゃないか!」


 だけど、それだけじゃない。

 スーズさんのムチや、さっきのおじいさんの弓もそうだけど、これには光属性が付与されている。


 これはカンだけど、ここで寝てもらえば多少は回復するはずだ。


「がんがんぶ、ががぶがぶがぶ!」


 ジンさんを、ここに寝かせて!

 ――と言ってみたけど、通じるかどうか……。


「んー……旦那をこのベッドに寝かせる、でいいのかい?」

「がぶ!」


 私がうなずくと、マリーさんもお店の中へと駆け込んでいく。


 それを見送りながら、スーズさんが言う。


「ベル。わたしは貴族街に行ってくる。

 戦力的にあなたが来てくれると助かるけど、来るかどうかは任せるわ」


 私が分かったとうなずこうとすると、ジンさんをお姫様抱っこしたマリーさんが駆けてきて、ベッドに置いた。


 早いよ。そしてちょっと乱暴じゃない?


「マリー。もう少し優しくしなさいよ」

「コリンさんにめっちゃ急かされちゃってさ……」


 ……と、思ったら出発直前にその様子を見てしまったスーズさんも、思わずといった様子でツッコミを入れる。そのツッコミに、マリーさんは苦笑で応えた。


「でも、ベルがベッドの解呪をしてくれたおかげか、あたしが顔を見た時点でだいぶ落ち着いてた感じだったよ」

「ベルの合成効果で光属性が付与されているでしょうから、寝かせておけば悪化するコトはないでしょうね」


 スーズさんが補足してくれたおかげで、マリーさんも私がベッドに寝かせてといった意味を理解できたみたいだ。

 何より理解できなくても信じてくれたのはありがたい。


「ベル~!」


 フィズちゃんが外へと飛び出して私のお腹に向かってダイブしてくるので、それを自慢のやわらかぽにょにょんいお腹すとまっくで受け止めた。


「お父さん、もう平気?」

「がぶ」

「ベル、ありがとー!」


 私がうなずけば、フィズちゃんが破顔する。

 良い笑顔頂きましたー!


「さて、わたしは行くわ」


 スーズさんの声を聞いて、わたしはゆっくりとベルちゃんを自分が引っ剥がす。


「ベル?」


 その行動の意味を理解してくれたスーズさんが、訊ねてくる。


「来てくれるのね?」

「がぶ」


 それに首肯すると、フィズちゃんが私の尻尾を掴んだ。


「ベルぅ……」


 首だけで後ろを見ると、不安そうに見上げて目を潤ませるフィズちゃんがいる。


 こんな時になんだけど、フィズちゃんのコロコロ変わる表情可愛いよね。


「ダメよフィズ。

 ベルちゃんは、お友達を助けにいきたいんだから」


 お店から掛け布団を持って出てきたコリンさんが言えば、フィズちゃんは渋々といった様子で手を離した。


 そういえばこの間の会議の時に、クロンダイクが私のことを友達と呼んでたからね。コリンさんはそれを覚えていてくれたんだろう。


「ベル。こっちは気にするな。あたしもいるしシャラランもいる。

 それに、コリンさんだってさっき見た通りさね」

「きぅぃきぅぃ!」


 それな。

 正直、この場所の不安はない。

 ……いや、ベッドを外に出しちゃってるし、そこにジンさん寝かせちゃってるんで、そういう意味じゃちょっとアレなんだけど。


 あ。そうだ。


 黒塗りのナイフと、黒曜聖石、聖なる灰、ホワイトウッド……。

 これでいけそうだね。


 ボヨン! ポン! プシュー! ち~ん! で完成だ。


「んべ~」

「主人が大切にしているナイフ……ベルちゃん、どうして貴方が?」

「さっきの魔獣の正体です。

 思い出の品などが、魔獣化して暴れているようなんです。

 それにあの魔獣たちは、その持ち主を狙うみたいでして」


 スーズさんの言葉に、コリンさんとマリーさんが納得したような顔をする。


「だから執拗にうちを壊そうとしてたのね。

 正確には、主人を……なんでしょうけど」

「ベルはどうしてこれを出してくれたの?」


 フィズちゃんが首を傾げるけど、実はそこまで強い意味はない。

 まぁ強いて言えば、邪想獣は呪いの塊だから、光属性の武器とかあった方がいいな……程度なんだけど。


「がぶぅが、がぶぶぶがぶがぶがぶが」


 そんな感じなことを伝えたかったけど伝わるかな?


「さっきの魔獣用ってコト?」

「がぁぶ」


 ビシっとフィズちゃんに指差す。

 伝わったようで何より。


 そしてすぐにスーズさんの横に立つ。


「がぶがが、がぶんが」


 待たせて、ゴメンね。

 その言葉はどうやら通じたらしい。


「気にしないで。でも少し急ぎましょう」

 

 スーズさんの言葉にさんきゅーっと軽く手を挙げる。

 それにスーズさんは小さく微笑み足早に歩き出す。


 私もその横に並んで歩き出すと、私の背中に向けて声が届く。


「ベル~~~~~ッッ!! がんばってね~~~~~~~ッッッ!!」


 フィズちゃんの声に振り向くことなく手だけ振って応え、私はもう少し歩みを早めた。


 フッ、ちょっとキザだったかな??


「全然カッコよくないからなベル!」


 ……とか思ってたらマリーさんにツッコミを入れられてしまった。おのれ。




 そうして私たちが貴族街に向かって進む。

 その途中で、見慣れた乳白色っぽい淡い金髪の女性が見えた。


 カルミッチェさんだ!

 ハンドガンを携えて、何かと戦っている。


「がぶがぶ!」

「ん? 知り合い?」


 スーズさんに問われてうなずく。


「でも彼女が戦っている相手は何?」


 そう。それが分からない。

 邪想獣の足と似た雰囲気の黒い人型の何か。


 その人型が腕を横薙ぎする。

 カルミッチェさんは、それをちょっと見ててヒヤっとするようなあぶなっかしい動作で屈んで躱す。

 そこから前傾姿勢で踏み込んでいき、至近距離から人型の腹部へ数発銃弾を撃ち込む。


 次の瞬間、カルミッチェさんが青い光に包まれて姿がぶれたッ!

 おお! イナキャン! イナーシャルキャンセルって技だ! カルミッチェさんも使えるんだッ!!


「エリアル・エッジ!」


 イナキャンから繰り出すのはサマーソルトキック!

 黒い人型のあご(?)を蹴り上げながら、空中へと飛び上がった。


 そこからさらに、空中で青い光に包まれ姿がぶれる。

 イナキャン必殺技からのイナキャン! カッコいいッ!!


 いつの間にか二丁拳銃になったカルミッチェさんが、腕をクロスさせながら眼下へ向けてそれらを構え――


「エリアル・ランページッ!」


 ――交差させた腕を開くように乱射する。


 黒い人型は身体に穴をあけながら、地面へと転がり、そのまま動かなくなったと想ったらゆっくりと黒い煙になるように消えていく。


 少し遅れてカルミッチェさんは着地……したけど、思い切りバランスを崩して尻餅をついた。


 尻餅の衝撃でメガネがちょっとズレちゃっているのを含めて可愛いオチだ。


「がぶがっぶぶん!」

「え? ベルちゃん?」


 私が名前を呼ぶと、尻餅をついたままこちらを見た。

 スーズさんは素早くカルミッチェさんに駆け寄り、手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい。すみません、カッコ悪いところを」


 カルミッチェさんはその手を取って立ち上がった。


「普段はギルドの受付をしているスーズと申します」

「ご丁寧にどうも。わたしも普段は想導具ルジェット職人をしているカルミッチェです。一応、ガジェッティアのクラスを取得してますので、戦闘も多少できます」


 二人は軽い自己紹介を交わしてから本題に入っていく。


 ……って、カルミッチェさんもピーニャちゃんと同じガジェッティアなるクラスとやらみたいだ。

 ほんと、ガジェッティアってなに?


「さっきの黒いのは?」

「分からないんです。貴族街の方に大きいのが出現してから現れたようで」


 やっぱ、あのデッカイの放置するのあぶなそうだな……。


「あの一体だけでした?」

「いえ、今のでわたしが倒したのはニ体目です」

「今後増える可能性も高そうですね」

「ええ。クロンダイク様のコトも心配ですし、貴族街に向かおうかと。

 ガジェッティアのスキルで、薬などの効果を高められますから」


 なるほど。術を使わないヒーラー的なやつかな?

 薬の効果を高めたりできるのは大きいね。

 どれだけの補正があるのか分からないし、純粋な回復術師みたいのと比べると道具が必要な手間はあるけど。

 使う薬や状況次第では、純粋なヒーラーでは出来ない活躍ができそうだ。


「銃技や体術などはどれほど?」

「実はあまり得意ではなくてですね……。

 身体能力を高める想導具をいっぱい身につけて、何とか動ける感じなんです」


 ふむ?

 話の感じ的に想導具って身体能力向上系……ゲーム的にいうならアクセサリ的なあれかな?

 あるいは、それを含めたマジックアイテム的なの全般のことかな?


「分かりました。そしたら、基本的にはガジェッティア本来の支援をメインでお願いします。わたしとベルが前衛をやりますので」

「了解です……というか一緒に貴族街へ行っても?」

「はい。少しでも戦力は欲しいので是非」


 そんなワケで、私とスーズさんのコンビにカルミッチェさんを加えた三人で貴族街を目指すことになるのだった。



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