第33話 黒い奴らとラン&バトル!
Oh! エクスタシー! からのチ~ン! と完成ッ!!
【
呪いで変質したスーズ・カンパーリの思い出のムチ『クロス・ストリングス』を、光輝ナマズのヒゲと
元々はくたびれて使い物にならなくなっていたムチだったが呪われた際に、本来以上の性能を得てムチとして復活していた。
その強化され復活した部分はそのままに、呪いだけが取り除かれた上で、補強されている為、非常に強力なムチへと進化している。
当然、本来のクロス・ストリングスよりも強化されているだけでなく、聖なるチカラを宿した為、幽霊などにも有効打を与えられる装備となった。
持ち主であるスーズ・カンパリーリの意志を汲み取る能力も持っており、文字通り手足であるかのように彼女の意のまま動く。
完成したムチを舌に乗せて「んべ~」と渡した。
「え? ムチ? ちょっと待ってッ、少し意匠は変わってるけど、このムチ……どう見ても……」
恐る恐るスーズさんが、新しくなった想い出のムチに手を伸ばす。
「ベルの涎でベタついてるけど、この手触り……グリップの握り心地……間違いなくわたしのクロス・ストリングスだわ……。
でも、どういうコトなのベル。なんであの魔獣を食べて、何かを混ぜ合わせた結果、これが出てくるの?」
「がぶが、がぶぅががぶぶ」
これが、魔獣の正体。
――などと言ってみるものの、スーズさんは眉を顰めるだけで、反応がない。
「ダメだわ。重要そうなコトを言っているとは想うんだけど、言葉が分からない……。
でも、これ――わたしのクロス・ストリングスで間違いないのよね?」
「がぶ」
うむ。それは間違いない。
私がうなずくと、スーズさんは壊れた自分の部屋をしばらく見つめたあと、大きく息を吐いた。
「靴の回収は無理そうね。なら……ヒールは邪魔ね」
ヒールもお値段も高そうなその靴から、ヒールをもぎ取って投げ捨てる。
大胆で豪快な行動のように見えるけど、状況に応じた取捨選択にためらいがないところ、結構すごいよね。
「さぁベル、フィズちゃんのところへ行きましょう。
フィズちゃんなら、あなたの言葉を理解できそうだしね」
街の中はところどころで戦闘は発生しているものの、被害はそこまで大きくなさそうだ。
もちろん、戦闘の余波で家屋や店舗がダメになったりしている。それを想うと、壊されてしまった建物の関係者や、それを補填するだろうクロンダイクは大変そうだと同情はするけど。
でも、人的被害という点でみると、そこまで大きくなさそうなのは幸いだよね。
とまぁそんなことを考えながらスーズさんと一緒に走っていると、邪想獣に追われながらこちらへと向かって走る男性が見えた。
追いかけてきている邪想獣は、さっき戦った奴より一回りほど小さい感じ。
「クッソ! 何でこいつ儂ばっか狙うんだッ!?」
こちらへ走ってくる老齢の男性は、恐らくは元探索者か何かだ。
老いてもまだ現役でいける体力や運動能力があるのだろう。
そうでなければ、あれからずっと逃げ続けるのは難しいはずだ。
「おじいさんッ、そのままわたしたちの後ろへッ!」
「助かるッ!!」
そう告げるなり、スーズさんは早速新生した愛鞭を構えた。
おじいさんが私たちの横を駆け抜けきったその瞬間――
「
スーズさんは呼気と共にムチを振るう。振るった気がする。相変わらず目で追えなかったんだけど。
でも、彼女がムチを振るった直後、邪想獣の足の一つが弾け飛んだ。
さっきの霧散して躱すような感じではなく、文字通りムチで斬り裂いた感じだ。
「護身用のやつも業物だったんだけど……これ、比じゃないくらい強化されてるわね。
それに加えて付与された光属性の効果も高いのかしら……?」
何やら想定以上の威力だったらしく、スーズさんが独りごちていた。
そんなスーズさんに対して、おじいさんが賞賛している。
ムチの威力関係なく、ムチ捌きすごいもんね。
「おお。やるなお嬢さん」
私も、おじいさんの言葉に便乗するように、スーズさんにお願いをした。
「がぶがががぶがあぶぶがぶがぶッ!」
そのまま足を全部落としてッ!
通じるかどうか分からない。だけど、斬り飛ばした足を指さしてから、本体を指差し、最後に両手を合わせる。
「また食べるの?
その為には足が邪魔ってコト」
「がぶ!」
そんな感じ! ニュアンスが伝わってよかった!
「まてまて、テイムされているタベルンよ。
なんていうか、さすがにアレを喰ったら腹を壊すんでないか?」
会って間もない人が私を心配してくれる。
それをちょっと嬉しく思いながら、私は大丈夫だとウィンクをした。
「切り落としてもすぐ再生しそうね。
一気にやるから、とっとと食べちゃってッ!」
「がっぶーッ!」
スーズさんは言うやいなや、ムチを握っていた腕がブレる。
直後、邪想獣の五本の足がまとめて吹き飛んだ。
いやー、ハンパねぇなスーズさん!?
私は胸中で賞賛しながら、空中に投げ出された本体を見る。
そして、地面を蹴って大口を開くと、それを受け止めて飲み込んだ。
「がぶえぇぇぇ……」
やっぱクッソ不味い。
でもまぁ、足付きのままよりマシだ。
「あら? さっきより苦しまないのね。
なら、あの足がダメだったのかしら?」
「がぶ……」
それ……と弱々しく肯定を示し、飲み込んだ奴を鑑定。
今食べた呪われた弓は、やはりこのおじいさんの現役時代に愛用していた武器だったようだ。
これの呪いを解くなら……。
ホワイトウッドと、聖なる灰と……聖なる猫ひげ――かな?
しかし、ギルドにあった私用のご飯の山。
結構レアそうなのも混ざってたんだなぁ……。
ありがたく使わせてもらってるけどさ。
そうして合成を開始すると、身体が大きく膨らむ。
「な、なんじゃあ……ッ!?」
「大丈夫ですよ。ベルがスキルを使ってるだけなので」
驚くおじいさんを横目に、身体が細くなりチーンという音が聞こえる。
そして、舌の上に弓を乗せてべろいんと、おじいさんに差し出した。
「これは……儂の弓か? 光属性系の素材で強化されているようだが……。いやしかし、なぜお主が……」
「やっぱり。あの魔獣の正体は、わたしたちの持ち物なのね?」
自分のムチを見、スーズさんが結論を出す。
私はいえすと、スーズさんを指差した。
「そしてベルが食べると光属性で強化されて出てくる……。
違う――光属性で強化しないと、吐き出すコトが出来ない……が正しい?」
「いやお嬢ちゃん、恐らくそれも少し違う。
正しくは光属性で清めないと吐き出せない――そうじゃろ?」
お。おじいさん鋭い!
私はソレっとおじいさんを指差して肯定する。
「つまり、あの魔獣の正体は呪い?」
「それもとびっきりの奴じゃな。
どこでどう呪われたのかは分からぬが、儂がしつこく狙われてたのは、この弓の持ち主だから、じゃろうな。
だとしたらマズいぞ。戦える者が狙われる分には良いが……」
「戦えない人たちが狙われたりしたら……」
ますますフィズちゃんたちが心配にいなる。
「おじいさん、探索者ギルドまで走る体力は残ってますか?」
「バカにするな。現役を退いても体力維持には努めておる」
「今の推測をギルマスへ言付けて貰えないでしょうか?
私はギルマスの指示でとある場所へ向かっている途中なので」
「了解した。お嬢ちゃんも、そっちの頭の良さそうなタベルンも、無理はするなよ?」
「がっぶー!」
そうして私たちはおじいちゃんと別れて再び走りだした。
「ベル、全部食べれる?」
「がぶぅ~ん……」
うーん……。
微妙だよね。正直、食べたくないけどそれ以外に解決策がないなら、がんばるけど。
「まぁ身悶えするほど不味いみたいだし……あまり無理はさせたくないのだけど」
気にかけてくれるだけありがたいんだけどね。
まぁ、成り行き任せでやるしかないさ。
そうして、ベース商会へとたどり着くと、コリンさんが短槍を構えて邪想獣に立ち向かっていた。
マリーさんとシャラランもいるけど、そんなことより戦っているコリンさんが衝撃的なんだけど。
ベース商会の建物の一部が壊れている。
たぶん、スーズさんの家同様に、家の中で邪想獣が生まれたんだろう。
おのれ! フィズちゃん家になんてことを!
それはそれとしてコリンさんなんだけど――
「がぶぉッ!?」
「あの構え、素人じゃないッ!?」
ふつうに戦ってます。
邪想獣も私たちが遭遇してきた奴の中では一番大きいサイズなんだけど、やっぱりコリンさんが戦っているインパクトの方が強い。
振り下ろされる前足を飛び退いて躱しながら、コリンさんは素早く呪文を口にする。
「水の想い出、闇の記憶。重ねて震えて思い出せ。氷の息吹に吹かれ、鋭き刃よ群れをなり、我が意に従い舞い踊れッ!」
その間、空にいるシャラランが羽からナイフの雨を降らせて牽制。
やがてコリンさんの呪文が完成したのか、周囲に太く鋭いツララが無数に現れた。
「行ってッ!
術の名前と共にコリンさんが腕を振るうと、それらが一斉に飛び出していく。
しかもただ真っ直ぐに放たれたワケではない。直線的ながらもあちこち飛び交うような挙動を見せながら邪想獣へと迫る。
外れたモノは途中で制止し方向転換してから、再び敵へ向かって飛びかかっていく。
こう――宇宙戦争ロボットモノの終盤に出てくる、主人公やライバルの機体に搭載されるビット兵器みたいな挙動といえば、通じる人には通じるだろうか。
そんなコリンさんの放った術を見ながら、スーズさんが驚いている。
「ただの
術式を我流でアレンジして、彼女のオリジナルレベルまで昇華されてるわ……」
スーズさん。ガチで驚いてるなぁ……。
まぁ正直私も驚いているけど。
なんかそういう戦い方に慣れてる動きって感じだ。
コリンさん、マジで何者なんだろう……?
そしてコリンさんが牽制している中、スキを突いてマリーさんの剣が邪想獣の足を切り落とす。
だけど、少し時間が立つと足が再生してしまう。
まぁそれはそれとして。
「がぶ」
いつまでも私たちは傍観者しているワケにもいかない。
「あの魔獣のターゲットは誰かしら?」
少しの間、邪想獣の動きを見ていると、何となく分かってくる。
「建物――ベース商会……体調を崩して寝ているという、会頭さんを狙っているのかしら? あるいはフィズちゃん?」
「がぶがぶ、がぶっががぶがう」
ともかく、ぱくっと食べよう。
私の言葉が正しく通じたかどうか微妙だけれど、スーズさんはうなずくと、声を上げながら戦闘に加わる。
「手を貸しますッ!」
「スーズさんッ!?」
「がっぶー!」
「ベルもいるのか!」
「助かるわ」
「きぃぅきゅぅ!」
そうして、スーズさんが足を六本斬り散らし、宙に残されたボディを私がごっくんするという瞬間撃退芸を見せるのでした。
不味い。不味いんだけど、なんか不味さに慣れてきた感あるね。
もしかしてこれからクセになる味と感じるようになるんだろうか……ねぇな。慣れても不味いモンは不味い。うん。この味に慣れられる気がしないや。
さて――今食べたのは、呪われた黒塗りのナイフ……か。
ジンさんが商売の師から護身用にとプレゼントされたナイフだそうだ。
全く、次から次へと……。
まぁでもこの他人の思い出を踏みにじる感じの呪い――あいつの術っぽさはあるよね。
なんてことを考えていると、この街の貴族街の方から大きな音が聞こえてきた。
おいおい。マイフレンドは大丈夫か?
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