第25話 コンソテーション! その症状を見極めろ


 そんなワケで、わたしたちはフィズちゃんのお家へ突撃ッ!


 ……と、意気込んで出発したその道中――


「がぁんぶがぶ」


 なぁんだアレ。

 背後から感じる怪しい気配に、わたしは思わず呟く。


「ベルも気づいてるみたいだね」


 マリーさんがわたしの横に立って、小さく囁いた。

 どうやらマリーさんも気が付いているようだ。


「がぶがぶがぶがぶ?」


 狙いは誰だろ?


 こそこそと後を付けてきているようだけど、何というか素人のわたしから見ても素人臭い尾行なんだよね。


「何言ってるか分からないけど、まぁ狙いは何かって話だろ?」


 だとしたら、ストーカーの類かな、とも思ったりするんだけど。

 そう言えばこの視線――昨日だか一昨日も感じたような……?


「フィズじゃないかとあたしは踏んでる。

 あいつ、フィズのお店を出た時点で居たんだよな。

 最初は偶然かと思ったけど、どうにも尾行してたって感じだ」


 フィズちゃんのストーカー。許せませんね。


「がぶぶ?」


 締める? と問いながら、わたしは軽くシャドーボクシング。

 だけど、マリーさんはそれに首を横に振った。


「まだダメさね。証拠も何もないんだから、手を出したらこっちが負けるぞ。フィズや領主様には迷惑は掛けたくないだろ?」

「がぶぅ……」


 そりゃあね。

 そう言われたら大人しくしてるしかないじゃん。


 ちぇー……。口を尖らせてるやるぅー!


 マリーさんとそんなやりとりをしながら、気が付けば小さなお店の前に付いていた。


 手前が店舗で奥の自宅と直結しているタイプと見た。


 自宅側は二階建て。

 店舗部分とあわせると結構大きいかもしれない。


 そんな建物からコリンさんが顔を出した。

 そして、顔を出すなり駆け寄ってくる。


「フィズ! もう、勝手に飛び出して!」

「ごめんなさい……」


 そこへ、シャラシャラと綺麗な音を立て、シャラランも慌てたように、フィズちゃんのところへと突撃してきた。


「シャラランもごめんね……」

「きぃゆー……」


 フィズちゃんの肩にとまり、彼女のほっぺたに頭をすりすりとこすりつけている。


「マリーさん、わざわざ追いかけてくれて、ありがとうございます」

「構いやしないよ。不安で飛び出したくて仕方なかったんだろ。

 それに、護衛はあたしの仕事だしね」


 そう笑えるマリーさんは本当に良い人だと思うわ。


「カルミッチェさんも、ベルちゃんも、わざわざ来てくださったのね」

「ええ。ちょっと思うコトがありまして……その、もう一度ジンさんの症状を診せて頂いてもよろしいですか?」

「はい。もちろんです。何か分かればいいのですが……」


 そうしてみんなが中に入っていく中で困ったことが起きてしまった。


「がぶぅ……」

「カウンター……ベルだと乗り越えられないね……」


 そうなのだ。

 カウンターの向こうに住居と繋がってる扉がある。

 そのカウンターは、脇から抜けて中に入れるんだけど、そもそもわたしの体が大きすぎて脇を抜けられない。


 カウンターをジャンプで乗り越えるにしても、わたしの身長だと天井とぶつかってしまう。


 ……困った。


「お母さんたちは先に行ってて! ベルはこっち!」


 そうして、コリンさんとカルミッチェさんは奥へと向かっていき、わたしとマリーさんはフィズちゃんの案内で一度店舗部分から出る。


 そのままぐるっと建物の脇を回って、住居部分へ。

 こっちはこっちで入り口があるんだって。

 お店を開けてないときの出入りはこっちでしてるらしいよ。


「うーん……フィズ。やっぱりベルを家に入れるのは難しそうさね」

「だねぇ……」


 でも、そっちの扉もダメでした。


 困ったように笑うマリーさんに、苦笑しながらうなずくフィズちゃん。

 裏庭のようになっているお家の裏口は、ふつうの人なら充分なサイズなんだけど、わたしにはちょっと小さそうである。


「がぶぅ……」


 まぁ仕方ないか。


 なので私は裏口の傍にある木に寄りかかりながら、腰を下ろした。

 それから、二人に手を振ってみせる。


「そこで待ってるのかい?」


 マリーさんに問われてわたしはうなずく。


「――だ、そうさ」

「わかった。ごめんね、ベル。ちょっと待っててね」


 そうして二人は建物の中へと入っていった。

 ちょっぴり寂しいけれど、わたしのサイズが人間と比べると規格外なんだから、仕方ないよね。


 私は木に背中を預けてぼんやりしていると、例のストーカーっぽいやつの気配を感じた。


 怪しいのに手を出せないってのはもどかしいな。


 チラリと、気配のする方を見れば、フードをかぶった男が見える。

 フードから覗く髪の色はヨモギ色……かな? 前髪が目を隠すくらい長いんだけど……ファッションというより、適当に伸ばしてるって感じ。

 髪の隙間から見える瞳は濁ったようなクリーム色だ。


 見た目だけの印象なら、陰キャのコミュ障。

 だけど、アレが纏っている雰囲気はそれらとは少々異なる。

 自覚的、あるいは自称な人たちとは明確に纏っているモノ違う。


 私もそこまで比べて見たことはないけれど、あれの纏っているモノは、ただの陰キャやコミュ障がだせるものじゃない。


 さて、どうしたもんかね……。


 証拠は一切ないんだけど、私のカンがあれはただの拗らせストーカーではないと告げている。


 などと考えていると、この裏庭に面している二階の大きめの窓が開いて、マリーさんが顔を出してきた。


「ベル。呪われたベッドって食えるかい?」


 マジでベッドが呪われてたんかいッ!

 それはそれとして、食えるかどうかと問われれば、たぶん食えるとは思うけど……。


 うん、よし。食べてみるか。


「がぶ」


 そんなワケでうなずくと、マリーさんがニヤりと笑った。

 ちょっと待って。嫌な予感がバリバリするぞい。


「こっから落とすけど、食える?」

「がぶがぶば!」


 無茶言うな!

 私はそう叫んだつもりだったんだけど、マリーさんには通じ無かったようである。


「よし。なら食っとくれよ!」

「がぶがッ!?」


 まじでッ!?

 などと驚いている暇もなく、窓からベッドが顔を出し、それが私めがけて落ちてくる。


 マリーさん、やっぱ見た目通りの脳筋かよッ!!


 胸中で罵りながら、私は限界まで口を大きくあけて待ちかまえた。想定以上にめっちゃ大きく開いてくれるのは助かる。

 前世でポップコーンでこれやったことあるけど、流石にベッドは初めてだから、出来るかどうか不安だけど、そうも言ってらんないよねッ!!


 ともあれ、ベッドは無事に私の口の中に吸い込まれてきた。


 これで何とかひと安心……って、喉ごし最悪ッ!

 味とか今まで気になってなかったのに、感覚的にわかるよこれ!!


 呪いのせいなのかなんのか、一つ言えることあがあるとすればこれは……!!


  超が付くほどのゲロマズだ~~~~~ッ!!!!!


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