第26話 カースドベッド! その対処法を考えろ!
吐き気を催す邪悪と対峙する時よりも、吐き気を催しているかもしれない私ことベルです。
ゲロマズなベッドを飲み込んだわけなんだけど、まぁ喉元すぎれば熱さ忘れるって奴よね。
収納ストマックに納まっちまえば、同じことよ。
いやまぁ舌先に微妙に後味が残ってる感じがおのれ……って気分にはなるけど。
ともあれ、私は一息ついて、マリーさんを睨む勢いで二階の窓を見る。
すると彼女は手をひらひらとやりながら訊ねてきた。
「ベル。それ何とかできる?」
「がぶ?」
何とか?
私が首を傾げていると、マリーさんを押しのけて、カルミッチェさんが顔を出す。
「ベルちゃん。それ、浄化とかする手段はあるかしら?」
ああ、そういうことね。
するべきことを理解した私は、お腹の中にある呪われたベッドへと意識を向ける。
まずは鑑定っと。
【呪われたベッド】
ベース商会の会頭ジン・ベースが使用しているベッド。
使用者の肉体、精神を徐々に衰弱させる効果を持つ、最上級に近い強力な呪いが掛かっている。(呪魂異常)
また、長時間使用し、その効果がベッドの使用者へと強い影響を与えている場合、使用を中止しても、このベッドが存在する限り呪いの効果は継続する。
あと少し、いくつかの条件を満たすと、呪いそのものが進化する可能性を持つ。
生物に掛かっている呪いではない為、ポーションなどの生物を回復させる薬品や、能力は効果がない。
物質を清める為の道具や能力による解呪が必要となる。
おっと、呪魂異常だと判明したね。とはいえ、こいつは中々強力な呪いみたいだぞ。
まぁ邪想異常なんて滅多にないって話だし、そこは大丈夫そうかな?
……ただベッドを使うのを止めても効果は継続するようだし、何よりもっと呪いが進化する可能性有りなんていう不安な一文が書かれてるのを考えると、早急に対処した方が良さげだ。
いやでも、対処するって言ってもどうして良いのやらって感じだけど。
んー……こいつをミックスの素材にできるかな?
脳内で合成メニューを呼び出して、調べてみる。
お、出来る出来る。レシピ通りに混ぜる方ではなくて、フリー合成の方だけどね。
そこから何が出来るのかは分からないけど……。
この合成能力を使って解呪とかできないかな。
アイテム説明のところにある、清める道具とやらと合成すればいける
気はするんだけどな。
問題はこれをどうやって伝えるかだけど……。
あ、そういえばストーカー!
――って周囲を見渡したけど、姿が見えない。
それならそれでいいや。
あいつはひとまず放置や。
「ベルちゃん?」
こっちの挙動を見て不思議そうにカルミッチェさんが声を掛けてくる。
それに応えるように上を見て――
さて、どうやって答えよう……。
「あー……イエス、ノーとハッキリ言えない感じなのかしら?」
お。カルミッチェさん、ナイス読みとりッ!
私はそれにうなずいた。
「出来る可能性はあるの?」
「がぶん」
いえす――と、首肯する。
すると、今度はコリンさんが顔を出してきてた。
「じゃあ、ちょっと相談しましょうか。
悪いけど表のカウンターの方に回って貰えるかしら?」
手を挙げて了解の意を示すと、私は裏庭から出て建物に沿って表に回る。
「わざわざ回って貰ってありがとう。
それでベルちゃん。どうやって解呪するのかしら?」
コリンさんに問われて、さてどう答えようかと考える。
いや、口で説明してもがぶがぶしか言えないしな。
「コリンさん、紙とペンあります?
たぶん、それが一番意志疎通がしやすいと思いますので」
悩んでいるとカルミッチェさんがフォローしてくれた。
そうして受け取った紙とペンで、私はいつもの十字の合成イメージ絵を描く。
「合成で解除ができるの?」
絵を見たフィズちゃんに問われて、私は少し悩んでベッドの絵を描く。
そのベッドに、ドクロマークを付けて、まとめて丸で囲んだ。
もう一つ円を描き、そっちには中にハテナマーク。
いや、ハテナマークが通じるかどうかはともかくとして、まぁニュアンスくらいは伝わるはず。
あとは、十字の合成イメージの要領で線を結んで――その線の先に、もう一度ベッドとドクロを書きつつ、ドクロにバッテンを付けた。
「これは何だい?」
マリーさんがハテナマークを指さして聞いてくるけど、それは私も分からないので、肩を竦めて首を傾げてみる。
「……わかった! これが分かれば、呪いが解けるんだね?」
「がぶ!」
フィズちゃんにその通りだ、とサムズアップしてみせた。
それでカルミッチェさんは理解してくれたようだ。
その能力についての詳細を知らないコリンさんとマリーさんに説明をしつつ、訊ねてくる。
「ベルちゃんは、食べたものを混ぜ合わせて別のモノを作り出す能力を持ってるの。
その能力を応用して、呪われたベッドと、それを清めるコトの出来る道具を混ぜ合わせて、呪いを解こうってコトでいいのよね?」
コクコクと私がうなずけば、コリンさんは少し顔を輝かせた。
「だけど、解けるかどうかは分からないし、もしかしたら別の道具に変わってしまう可能性もある……わよね?」
「がぶ」
うん。それは間違いなくある。
なんか混ぜ合わせたら呪われた巨大な木製タワーシールドとかが生まれる可能性もゼロじゃない。
「錬金術に近い能力だから、ベルちゃん自身も想定してない結果が出る可能性があります。そこを考慮した上で、コリンさんはベルにどうして貰いたいか、考えた方がいいかと思います」
カルミッチェさんに言われ、コリンさんは少しだけ思案したあと、フィズちゃんを見た。
「フィズは、どう思う?」
「やって貰っていいと思う。
それともお母さんはやらない方がいいと思ってる?」
問われて、コリンさんは困ったような顔をし、曖昧な笑みを浮かべる。
「あのベッド……。
初めてこのお店で大きな黒字が出た時に、夫婦セットで買った記念品だから……」
あー……。
思い出の品かぁ……。
それだと確かにちょっと躊躇っちゃうな……。
だけどコリンさんは話をしているうちに腹が決まってきたのか、決意をするかのように顔を上げた。
「でも、そうね。やって貰おうかしら。
呪いが解けたら儲けもの。解けなかったり別のモノになっちゃったなら、きっとそれはベッドの買い換え時ってコトなのよ」
その言葉は、決意表明であると同時にきっと自分へ言い聞かせる言葉でもあったんだと思う。
「ベルちゃん、お店に並んでるモノ……どれを食べてくれてもいいわ。
最悪、呪いさえ消えてくれるなら、どんな結果でも構わないから」
コリンさんの真剣な眼差しを受けて、私は大きくうなずいた。
それから、胸――いやお腹を叩いてポヨンと鳴らす。
「がぶぶがぶが!」
まかせといて!
コリンさんがここまで覚悟を決めてるんだ。絶対に呪いを解いてやるんだからッ!
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