第9話 そう、キュート! 可愛ければよし!
とりあえず、私は飲み込んでいた木の枝を吐き出すと、それを手にして地面にカタツムリの絵を描いた。
……描いて思ったけど、この世界にカタツムリっているのかな?
「どうしたの? 急にカタツムリの絵なんて描いて」
よかった。いるみたいだ。
なら、問題ないな。
次に、その横へインク壷の絵を描いた。
……インク壷のつもりだったんだけど、微妙だな。
「今度は壷か?」
まぁいいや。
頭に思い浮かんだ生き物が、殻の代わりにインク壷背負ったカタツムリだっただけで、別にただの壷でも問題はない。
さっきと同じようにそれらを丸で囲み、矢印を伸ばす。
その矢印の先に卵を描いて、ちょっとヒビを入れてみる。
「おい待てウェイトだ。ストップだ!」
さすがはマイフレンド。気づいちゃったね? でも待たないッ!
そのヒビの入った卵からさらに矢印を伸ばして、インク壷を背負ったカタツムリの絵を描いてやったぜ、ふはははははーっ!
「やっぱりかーッ! お前ふざけんなよッ!」
「え? え?」
急に大声を上げるクロンダイクにフィズちゃんが戸惑ったような顔をしている。怖がってはなさそうだからいいけど、女の子の前でちょっと怖い声出し過ぎだぞ、フレンド。
「そのスキルはやばすぎるッ! 絶対に公言すんなよッ!?」
「がぶがぶ」
そうだよねぇ……生き物とアイテムを混ぜ合わせて新種のキメテムなんて存在を作り出しちゃうのとか、チートとは違う冒涜的な何かな気がするもんね。
「はぁ……一匹くらいなら嬢ちゃんに懐いた変わったコウモリで済ませられるか。
そのスキルを使うなとは言わないが、やたらめったら使うんじゃないぞ」
コクコク。
とりあえずはうなずくよ。やばい能力だってのは理解できるし。
だって、生き物とアイテムの組み合わせだよ?
無限に組み合わせが存在する以上、無限に新種の生き物を創りだせるとも言えるわけで……。
しかも、基本的な命令のインプットが可能となれば、化け物軍団を容易に作れるわけだ。
もはや魔王。あるいは魔物の母。魔性聖母とでも名乗ろうか?
いや、名乗らない。名乗りたくもないけど。
材料しだいであっさり軍団を作れそうなのがまずい。
しかも、武器や防具を素材にできるって、どう考えても戦闘能力を保有しているでしょ、それ。
……そうなると、このコウモリってどうなんだ……?
「がぶ、がぶがぶがぶ?」
「きぃゅ!」
君、戦えるの? となんと無く訊ねてみると、それは問題なく通じたらしい。
羽を広げたコウモリはピシっと手(?)を挙げると、フィズちゃんの肩から飛び上がった。
お? 何をするんだ?
空中でバサっ――いうよりシャランシャランって音が近いか――と、翼を大きく広げると、その内側にはナイフがズラリと並んでいる。あるいはナイフが並ぶことで翼を形成していると言うべきか。
……合成素材にしたのは、古びたナイフ一本だったんだけどな。君はどうしてそんなにナイフを持っているのかな?
そしてコウモリ君。
赤い目をギラリと光らせると、バサリと大きく羽ばたいた。
直後、ゲームとかでよく見る鳥系モンスターの羽を飛ばす攻撃のように、ナイフが飛びだした。しかも無数に。
殺意たっけー技だなッ!?
地面にズブズブと突き刺さるナイフの群れ。
やがて地面に刺さったナイフは、何事も無かったかのように色が薄れるように消えていく。
待ってくれマイフレンド。そんな目で見ないでくれ。私だってこんな凶悪なモンスターを生成する気なんてなかったんだ。
「がぶがぶが」
ありがとう。もういいよと告げれば、ドヤァという顔をしてフィズちゃんの肩へと戻っていった。まるでそこが定位置であるかと主張するようだ。
「コウモリさん、すごいね!」
「きぃゅきぃゅ!」
ドヤァとでも言いたげな顔をするコウモリは、身体が小さくいかにも小動物然とした雰囲気があるので可愛いことには間違いない。
フィズちゃんも純粋に喜んで、コウモリを撫でている。
撫でられるのが嬉しいのか、コウモリはもっともっととねだるよに身を捩っていた。
ああ、小さい女の子が小動物と戯れる光景は良いね。癒されるね。可愛いね。でも現実は非常だよね。
「レディ・モドキ」
見てるよ。マイフレンドがめっちゃ据わった目で見てるよ。
「…………」
まぁそうだよねぇ……。
領主的には私の能力を見過ごしづらいよねぇ……。
「さすがにこれは俺も黙ってるわけにはいかなくてな」
あー……、クロンダイクとは短い友情だった。
でも分かるよ。領主的にはやっべぇ能力だもんね、これ。
私の存在が戦争の火種になりかねないもんね。
「俺にも一匹よこせ。うらやましいッ!」
「……がぶ?」
「そりゃな? 領主としてはヤベェモンを創りやがってとは思うさ。
でもな? 何あの羽! 何あの能力! カッコよくねぇ!?」
「がっぶがぶ!」
そっちかよ!
いや、わかるよ。あの機械的というか人工的な感じにナイフが連なってできた翼にトキメキを覚えるのも! 厨二心をザクザク貫くよね!
でも、お前の反応それでいいのかよぉッ!
「安心しろ。言い訳ならいくらでも考えてやるさ。
何せ領主というか貴族の仕事なんてモンは、言い訳と誤魔化しばっかりだからな!」
「がぶんがぶがぶがぶ、ががぁッ!?」
問題発言だよね、それェッ!?
さっきはカッコ良い領主に見えたのに、今はポンコツにしか見えんぞ……。
まぁいっか。誤魔化してくれるなら。
「がぶぅ」
私は木の枝で、地面に狼とトカゲとジェルラビの絵を描く。
サラっと描いたわりには良い感じで可愛くデフォルメできたと思う。
「犬とトカゲ……それとジェルラビか? それがどうした?」
犬じゃなくて狼のつもりなんだけど、まぁいいか。
とりあえず、それぞれ指さして、食べる仕草をして見せれば、理解してくれるかな?
「もしかして、トカゲっぽい魔獣にするか、犬っぽい魔獣にするか、ジェルラビっぽい魔獣のにするかってコト? あっちはコウモリっぽくしたわけだ」
いえす。
通じているようで何より。
「なら、犬だ。トカゲよりも誤魔化しやすそうだしな」
ウキウキした様子を隠しもせずに選択したクロンダイク。
……誤魔化せるといいね。どうなっても知らないけど。
欲しがったのはクロンダイクだし、犬と勘違いしたのもクロンダイクだ。
私は何にも悪くないッ!
次に私は、地面にナイフ、剣、盾、杖の絵を描く。
「お? なるほど、この犬と混ぜ合わせる道具をここから選べ、と?」
私がうなずくと、クロンダイクが親指で下顎を撫で始めた。真剣に悩んでいるということなんだろう。
そんな私たちのやりとりを見ていたフィズちゃんが、とても感心したように声を掛けてきた。
「カタツムリもそうだけど、ベルは絵が上手なんだね!」
「がぶぅ」
わーい、フィズちゃんに褒められた。
「確かにな。特徴を捉えつつ簡易的に描くのが上手いようだ」
そこにクロンダイクも乗ってきた。
ふふふ、褒めて。もっと褒めて!
「よし、ベル。俺は剣で頼む」
「がぶ」
私はうなずいて、剣を選択し……。
命令はまぁ友達を守って欲しいでいいか。
――って、あ! キメテムを創るってことは、また卵を産むってことじゃん!
私、また人前ではしたないマネを! そういうプレイは趣味じゃないのに! 趣味じゃないのに……能力がひとたび発動しちゃうと、おさえられな~いッ!
いや~ん……。
……というわけで、男友達の前で再びヒドい姿を見せてしまった雑食系女子ことベルです。
ま、そのマイフレンドもそんな姿の私になんて興味はまったくなくて、卵が愛おしくて仕方ないみたいですけどねッ!
別に見て欲しいわけじゃないけど、何一つ反応されないとそれはそれで不満だぜ。いやまぁこんなずんぐりモンスターの姿じゃあエロスの欠片もないけどなッ!
ともあれともあれ。
出てきた卵は、ややしてひび割れ、中から子犬が顔をだす。いや、子狼か。
「かわいい!」
その姿を見て、フィズちゃんも目を輝かせて近づいてきた。
肩に乗ってるコウモリちゃんがちょっと嫉妬しているみたいだよー。
卵の中から姿を見せた狼は、艶めく紫色の体毛に、きゅるんとしたつぶらな瞳は血の色で。幼いながらも鋭い牙は生え揃っている。
だけど、愛嬌振りまくように尻尾を振って、ペロペロとクロンダイクやベルちゃんの手を舐める姿は、子犬そのもの。いやぁ可愛いねぇ……。
いやぁほんと可愛いよ。そのボディに鞍のようなものがついていて、その左右に子狼の体躯と同じくらいの長さの鞘付き剣がくっついてたりするのを見なければ。
鞍と剣だけ妙にメカニカル。たぶん剣の向きとか角度とかある程度、調整できるんじゃないかと思う。
それに尻尾もふつうの尻尾のように見えて、剣の柄のようなものが先端に見える。もしかして、抜けるのか……あれ……?
ソードウィップとか蛇腹剣とか呼ばれているアレ的な?
「なぁフレンド。このキュートなリトルドッグ……実はリトルウルフだったりしないか?」
何を今更。
私は狼を描いたつもりなのですよ?
素直にうなずいて見せると、クロンダイクは顔をややひきつらせた。
「この体毛と瞳の色……。
もしかしなくても、ただの狼じゃなく
そうですが、何か?
またもや素直にうなずいてみせれば、クロンダイクは諦めたように天を仰いだ。
「やばいぜ。誤魔化す難易度が高まった。
ハードからエクストラハードになった気分だ」
はっはっは。自業自得じゃないですか。
領主業よりも厨二心を優先するんだからさぁ!
「すごいね、ベルはこんな可愛い子たちを産めるんだね!」
そんな大人たちの心のありようなど関係ない純粋たる少女フィズちゃんは、目を輝かせてはしゃぐように私に飛びついてくる。
ああもう可愛いな……。
フィズちゃんも、コウモリも、狼も、ずっと可愛いままで居て欲しいモンだ。見た目はともかく、せめて心だけでも、さ。
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