第8話 とらぶる無きロード
クロンダイクと出会ってからわちゃわちゃやってはいたけど、実は全く道を進んでいなかった。
そんなワケで私たちは、なだらかな丘陵を下りながら、領都クリングを目指す。
「なるほど。ベルがルオナ草を飲み込んだら、ポーションを吐き出した、と」
「はい」
涎がキレイにふき取られた瓶をのぞき込んでいたクロンダイクは、それをフィズちゃんに返して、私を見た。
「どういうコトなんだ?」
「がぶがぶぅ……」
どういうことだと問われてもなぁ……。
んー……自分でもちゃんと把握できてないけど、まぁ分かってることはあるよね。
私は適当な木の枝を拾うと、地面に縦棒を一本描く。それを指さして、飲み込む仕草を見せた。
次に、横棒を一本描く。それを指して、同じように飲み込む仕草をする。
それから、地面に描いた二本の線を丸で囲み、丸から矢印を一本延ばし、その先に十の字を描く。
そして十字を指で示しながら、吐き出す仕草をしてみせた。
理解を示したようにうなずくクロンダイクを確認して、私は手にしていた枝を口の中に放り込む。
「ふむ。飲み込んだモンを混ぜ合わせたってコトか?」
「がぶ」
その通りと、クロンダイクを指で示す。
「すごい! じゃあルオナ草があればポーションいっぱい作れちゃうの!?」
目を輝かせるフィズちゃんは可愛いけれど、でもそんな単純なモンじゃないと思うんだよなぁ……。
「お嬢ちゃん。たぶん、これは調合や錬金術と同じさ。
必要なモノを必要な
ルオナポーションをたくさん作ってもらうには、ルオナ草以外のモノだってたくさん必要だ」
「そっかぁ……」
残念そうな顔をさせてごめんねぇ……。
だけどまぁ、この世界には調合や錬金術ってものも存在するのは分かった。
「だが、機材や施設などを必要とせず、食べるだけで混ぜ合わせられるとなると……」
クロンダイクはぶつぶつと言っている。
そこから聞こえてくる言葉を思うと、確かに私の存在はやばいな。
必要な機材はいらず施設がいらないとか。
私が出向いちゃえば、素材調達した時点で混ぜ混ぜできちゃうっていうのは、同業者的には驚異だろう。
だからって私一人で全部を賄えるワケじゃないから、その仕事が廃れるなんてことはまずないんだけどさ。
でもさぁ、戦場とかに連れてくと便利だよねぇ。
素材を現地調達して私が混ぜ合わせれば即席で傷薬とか作れるんだよ? たぶん金属とか食べれば武器とか防具も造れるだろうし。
物資補給担当として考えると、かなり強い。
「まぁ錬金術や調合とは別に、混ぜ合わせる為の条件とかはあるかもしれないな。その辺りは、おいおい実験していくしかないか」
「がぶが」
それな。
結局、私も混ぜ混ぜするルールが分かってないし、他にもいろいろと自分で把握してないスキルも多そうだし、検証は必要だよね。
「このポーションも、ただのルオナポーションじゃないのかな? 何か中にお花が入ってるし」
「そうだな。カルミッチェに調べてもらった方がいいかもしれないか」
「確かにカーマお姉ちゃんなら、いろいろ分かるかも!」
「おっと? お嬢ちゃんはカルミッチェを知っているのかい?」
「はい! うちのお店の常連さんなんです! よく、素材とか買いに来てくれるんですよ!」
ほうほう。
領主であるクロンダイクと、商店の娘のフィズちゃんで共通の友人がいるとは。しかも女性らしい。
素材を買っていくっていうから、錬金術とか調合とかを仕事にしている人なのかも。
フィズちゃんとクロンダイクで、その人の呼び方が違うけど、カーマ・カルミッチェさんなのかな?
それともカルミッチェさんの愛称がカーマなのかな?
何であれ、二人が信用してる人であれば、私も信用して良いのかもしれない。会うのがちょっと楽しみだ。
まぁそれはそれとして、自分で今なにが造れるのか分かったりしないかなぁ……。
などと思っていると、脳裏にゲームのメニュー画面のようなものが浮かんでくる。
おっと。これはこれは……。
二人の後ろを追うように歩きながら、私はメニュー画面を観察する。
細かいとこは無視して、重要そうなワードだけ拾うと……。
・収納ストマック
・アイテム合成
・キメテム合成
……の辺りだろうか。
『収納ストマック』は予想できてるんだよね。
たぶん、食べたモノを文字通りそこへ収納できるんだろう。
ストマックってことは胃か? 胃に収納してるのか?
まぁ異次元収納系の能力だとは思う。
ともあれ、どんだけの容量があるのかは、あとで確かめる必要はありそう。
そして、その収納ストマックに収まっているものを合成するのが、『アイテム合成』だと思う。
うん。この二つはわかりやすい。
実際にポーションを作った時もそんな感じだろうって予想できたし。
問題は――そう、問題は……キメテム合成とやらだ。
キメェアイテムの略かな? うん、ないな。自分でボケておいてそれはないなと思ってしまった。
一応、ちょっと調べてみようか?
脳内でその項目をタッチするイメージ。
すると、メニュー画面の表示が切り替わった。
ベースとなる生物を選んでください……と表示された。
……生物……生物ッ!?
『ダンジョンバット』『モスリザード』『
選択できる生物にも心当たりあるし!
目が覚めてすぐに洞窟で食べたやつと、フィズちゃんを助ける時に食べた狼。それから戯れで食べたジェルラビじゃん!
……恐る恐る、私は『ダンジョンバット』を選択。
すると、次に――合成する素材を選択してください……と出る。
『古びたナイフ』『折れたロングソード』『錆びた鉄の盾』……
……え? 魔獣とアイテムを合成……できるの……?
キメテムってもしかしなくても、キメラアイテムの略ですかッ!?
それは生物の冒涜とかではなく!? え? これ実行したりしたらこの世界の神様とかに怒られたりしない?
「ん? どうしたー?」
「ベル、変な動きしてるよ?」
そりゃあ変な踊りも踊るよ!
どうしよう、これ! 二人に言った方がいい? いや、言うにしてもどうやって伝える?
……あ、無理だ。
今の私の伝達力でこれを説明するのは無理がある。
あばばばばばばばッ!
ならば仕方がないッ! そう仕方がないんだッ!!
私は『古びたナイフ』を選択し、実行ボタンを脳内タップするぜ!
ふははははははーっ! もう勢いで試すッ!
基本的な行動指針を設定してください――だと?
よく分からないけど『私の友達を守る』ってやっとけば、悪いことにはならないでしょ?
それを決定した瞬間――私の足が勝手に止まって、身体が一回り大きく膨らむ。
「あ! ポーションを吐き出した時とそっくりな動きだ!」
「フレンド……歩きながら、何か実験してたなッ!?」
ああ、そうさッ! その通りさッ!
私はお腹の中が激しくぐるぐるしているのを感じながら、大きくうなずいてみせる。
やっぱりこの瞬間は気分が高揚するぜ、ひゃっふー!!
そして、しゅぽー! と頭の上から蒸気(?)を出しながら、身体が細く窄まり、ややしてチーンって音とともに元の姿に戻った。
……って、あれ? 合成したモノはどこいった?
ポーションの時は勝手に舌の上に乗ってたんだけど……。
――て。
あ、待って。
ちょっと待って。
いくら魔獣の身体になったとはいえ、心は一応乙女なんだけど!?
この衝動!? この感覚!? さすがに人前でするのは……!?
尻尾の付け根! その下のあたり! さすがにそこにあるのは何だか分かる!
が、がまんしないと! 乙女の尊厳的に! さすがにまずいって!
そういうプレイを自分がするのはNGだ! でもダメ! もう耐えられない!
いやーん……
シュポン!
ああ、出てきてしまった。
ひりだしてしまった。
産卵プレイだ……。
「……卵?」
「……何で急に生んだ、フレンド?」
でも良かった。
モザイク必要なブツじゃなくて、ただの卵だったらしい。
……産卵ならまぁ……いや、「産卵なら」ってなんだよ! 落ち着け自分ッ!!
ひっひふー ひっひふー……呼吸は大事よ。深呼吸深呼吸。全集中。
「もしかしなくても、卵が生まれるなんて思ってもなかったのか?」
クロンダイクのツッコミに私は目を逸らしながらうなずく。
「ベルの子供が生まれるの?」
純粋なフィズちゃんの質問に、私は首を横に傾げた。
たぶん違うとは思うけどね。キメテムが生まれてくるんだと思う。
……いやキメテムってのもよく分かってないんだけど。
ベルが優しく包むように持ち上げた卵にヒビが入る。
「あ! どうしよう!?」
「お嬢ちゃん落ち着け。たぶん生まれてくるんだ」
「がぶがぶ……」
何が生まれてくるんだろ?
三人で注目して生まれてきたのは、一匹のコウモリだった。
私が食べたモノよりもだいぶ小さいコウモリだけど……。
「かわいい!」
「どうしてタベルンモドキからコウモリが生まれてくるんだよッ!」
クロンダイクのもっともな指摘に、私は首を横に振るしかない。
よく見るとこのコウモリ、顔やボディはふつうのコウモリっぽいけど翼はメカニカルだ。しかも何か刃物を思わせる形な気もする。きっと気のせいじゃないよね……。
金属質な
「きぃゅっきぃゅ」
愛らしい鳴き声をあげると、そのメカニカルな翼をはためかせて飛び上がる。
翼を動かすとシャラシャラと涼やかな音が聞こえる。
外側から見ると黒かった翼の内側は、チラっと見えた感じ、銀色だ。
やっぱりあの翼は、まともな翼じゃないっぽいぞ。
やがてコウモリはフィズちゃんの肩に止まると翼を丸めて自分を包みながら、満足げな顔をする。
「なつかれちゃった?」
「マイフレンド、どうなってるの?」
いやほんと、私が知りたいです。
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