えらい惑星(2)_Erai Planet Part 2

 けれども、その父親の話に登場したいくらかのものは実在した。例えば、毎日三個の卵を産む鶏や、いくらでもページが終わらない本や、ソーサーに置かれることを嫌がるコーヒーカップなどだ。ときにそれは突然に目の前に現れたし、あるいはそのものの噂を聞きつけて、それのためだけに仕事を辞め、三ヶ月かけて小国の山の奥地に赴いた。そうしてじっくりそれらを眺めていると、ふいに父親の言葉を思い出した。「お前が信じていようが信じてなかろうが、俺はこれらのことを誇って話す。……訝しげな顔をしているな。いつかお前にも、なぜ俺が誇れるのかわかるときが来る」。

 しかし私が里子を受け入れ、父親になってもそれはよくわからないままだ。この歳になってほんの少しわかったようなふりをすることができるようになったが、けれどもそれを説明しようとすれば言葉にすることはできない。断熱のしっかりとした一軒家の片隅の部屋で、布団に包まった息子に、父親譲りの話を聞かせるたびにそういう無力さをふいに覚える。その度に話は止まり、思考は息子の声で現実へ引き戻される。そうして、話ははじまりに戻り、その話が終わる頃に息子はぐっすりと眠りについている。

「ところでさ、その『ほし』ってなんのほし?」

「さあね。けれどももしかしたら、それはこんな話だったかもしれない」


 世の中の星はいろいろあります。例えばひときわ明るく輝く星。いつでも暖かい星。端から端まで見える、とても小さな星。どんな星にも、絶対にそういう特徴があるのです。そんなわけで、毎年行われる「ほしグランプリ」では、それらの星が、さまざまなことで表彰されます。

 けれども、その中でひとつだけ、大した特徴はなく、毎年「ほしグランプリ」の会場のすみっこで、小さくなってじっとしている星がいました。

 その星は、えらい星でした。何か特別明るく輝くわけでも、はやく動けるわけでも、ろても大きいわけでもありませんし、カラフルな色をしているわけでも、こんぺいとうのような不思議な形をしているわけでもありません。綺麗な宝石が採れるわけでもなければ、広々とした海があるわけでもありません。けれども、それはやはりえらい星なのでした。

 星たちは、そんなえらい星のほうを見ては、なんの特徴もないことを嘲笑っていました。「ほら、あれが『えらい星』だよ」。「へえ、あれがかい。やはりなんの特徴もないね」。

 あるとき、えらい星に宇宙人が降り立ちました。どうやら、宇宙船に故障があり、その星に不時着したようなのです。「あのこんぺいとうみたいな星に、降り立つわけにはいかないからね。しばらくの間、この星におじゃまします」。

 故障がなおるしばらくのあいだ、宇宙人はえらい星で暮らしていました。そこにはこれといってとても美味しい食べ物や飲み物があるわけではありませんでした。けれどもその宇宙人は、むしろそれがよかったようです。あんまりに好き嫌いが激しくても食べられます。

 故障が直ったあと、その宇宙人は、特に後ろ髪を引かれることもなく旅立っていきました。良くも悪くも大した特徴はなかったので、宇宙人はこの星から出られたようです。ずっとこの星に居続けることもなく、逃げ帰るように旅立つのではなく。

 しかし宇宙人が来るなど、星たちにしてみれば大したことではありません。えらい星にどんな宇宙人が来たかなど、特別なことではないのです。来年の「ほしグランプリ」でも、えらい星は同じようにしているでしょう。それでいいのです。えらい星は、そう思いました。

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