えらい惑星(1)_Erai Planet Part 1

 世の中の星はいろいろあります。例えばひときわ明るく輝く星。いつでも暖かい星。端から端まで見える、とても小さな星。どんな星にも、絶対にそういう特徴があるのです。そんなわけで、毎年行われる「ほしグランプリ」では、それらの星が、さまざまなことで表彰されます。

 けれども、その中でひとつだけ、大した特徴はなく、毎年「ほしグランプリ」の会場のすみっこで、小さくなってじっとしている星がいました。……


 なぜ今更それを思い出したのかわからない。もう数十年前の話だ。

 ある冬の寒い日、隙間風のひどいおんぼろ小屋の中、薄い掛け布団に包まりながら父親の創作話に耳を傾けていた。その話は一つとして同じものはなく、あるときは壮大なジャングルの小人の話、あるときは甘党の煎餅職人の話、またあるときは海底に沈む流れ星のかけらとの話だった。時にそれはオリジナルで、または何かのオマージュだった。正直なところ、それがオマージュであったかも怪しい。は、ときに梨になったり、金柑になったり、古びた金貨になったり、水銀になったり、夜空の星になったり、猪の落とした獲物だったり、遠くの神殿から剥がれた壁画の欠片になったりした。

 あるとき、その疑問を父親にぶつけた。父親はうっすらと笑い、「実のところ、それは俺にもわからない。けれども、世の中には梨になったり金貨になったり、星になったりするものがあるかもしれないじゃあないか」と言った。「そんなものなんてありっこないやい」と、当時の私は思ったものだ。けれども父親は、「俺は見たり聞いたりしたものしか話さない主義なんだ。本当にすべてあったものだぜい。もし嘘だと思うなら、大きくなったあかつきに、俺が話したあらゆるものごとを、ひとつずつ、本当にあるか確かめに旅をするといい」と、哀しそうな笑みを浮かべるばかりだった。

 もちろん私はその父親の言葉をはなから真に受けるはずもなかった。あるものとないものくらい、私にはわかっている。何より、父親の創作話の大方は終わりゆくにつれて支離滅裂な展開になり、あり得ないところから巾着袋が出てきて登場人物が取り込まれたり、地面から猫のなる木がにょきにょき生えてきてそこらじゅう猫だらけになったり、空高い太陽が三つに分かれてそれぞれが好きなように動いたりした。

 「ほしグランプリ」の話も同じように、結末は支離滅裂だった。「ほしグランプリ」の会場のすみっこの星がどのような星かは父親にとって重要ではなく、どのような星か遂に明かされることはなかった。どんな星にも特徴がある、と言いながら、どんな大した特徴もない星が存在するという矛盾すら解消されるはずもなく、その星のことはやはり話が終わるにつれ、だんだんと忘れられ、今は墓の中に葬られた。

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