鏡、時空、それに無限階層_Mirror, Space-time and Infinite Hierarchy

一、収監番号L-01i、第一日目


 “私は当然の権利で幽閉されている。この地を統治する法の某条に従い、またその法の最終条第五百三十八条に従い、私は〈法を犯した者デリンク・ウェンテ〉として当然その権利を有し、その義務を負う。その効力は規定に従い、私が真に罪人として目を覚ましたときに失効し、同時に、〈違反した者マルヴィ・ヴェンテ〉となる。〈違反した者〉として正式に認められるのは、自らの過去を十分に思起し、過去を反芻できる状態となること。同時に、無限階層に居続けたいと願うこと。

 頃は中世、〈法を犯した者〉は無限階層に幽閉された。そこはほとんど刻の流れを覚えず、平和の純度が高い空間として如何なる時代も守備された。そこに仕舞うのはダイヤモンドの原石でなければ、危険な放射性物質でもなく、何も知らぬ悪人である。実に守る価値はない。だが、その無限階層は唯一的かつその無限に湧き出る悪人を収監する絶対的な場所としてその地に偶発的に君臨し、以後その地のとして存在した。……”


二、収監番号L-01i、第二日目

 “ここは無限階層である。私は二日目にしてそれを確信した。昨日さくじつより一段、階層が高くなっているように思う、しかしこの部屋を見るだけではわからない。そのような気もするし、そうではないような気もする。私は遂にこの建築物の虜となった。また一日が終わった。”


三、収監番号L-01i、第三日目

 “やはり間違いない、昨日よりさらに一段上がっている。ここからは外が何も見えないが、天が益々近づいているように感じてならない。

 しかし地に落ちるより幾分かは良いというものだ。不治の病に罹りそのまま最終階層で優しい眠りにつくよりも。けれども、どちらも同じようにその場で異質な存在だと思い込んでいるであろうことは通じている。……”


四、収監番号L-01i、第四日目

 “私はひたすらに記憶を巡らしてみる。階層も四日目である。孤独な階層においては自己との対談以外に慰めとなるものはない。

 私に外傷は……ひどくある。体の節々が悲鳴を上げている。相当の疲労が関節や筋肉に溜まっている。大腿部は広範囲にわたって擦れているし、重労働をした後のように爪の付け根が痛む。私が重労働をしたという記憶はない。そもそも、重労働をすることが違反することに繋がる事例はない。この部屋には判例集がある。私は一日かけてじっくりそれを調べたが、やはりそれを排他的に証明することしかできなかった。……”


五、収監番号L-01i、第五日目

 “あなたは何処へラ・クェトール・シ・ヴィト

 私は知ることもできないのでしょうかニスゥランヒ・デジュ・レ・ナーィ

 愛と共に葬られたギットユ・フィーランツェエ・ウァン・ラーグト

 墓は私の終の住処ラッガ・クゥ・ツー・クゥ・レフ・トンヅィ


六、収監番号L-01i、第六日目

 “この部屋には歴史書がある。八百六年から毎年編纂され、その巻数は膨大なものとなっており、過去から昨年の書に向かい、紙特有の光沢を帯びている。今年のものはまだ追加されていない。本来であれば半期ごとに追加されるようだが、私はそれに興味を示さなかった。

 けれども夜遅く、その中に私の名前を見つけた。それ以降の巻で私の名は頻出した。なぜ頻出しているのかについての情報は具体的に書かれていない。けれども私は驚くべき大胆な仮説を考えついた。おそらくそれは正しい。しかしこの(おそらく)六枚目の手記では余白が狭すぎる。……”


七、収監番号L-01i、第七日目

 “すなわち私は、この地の最後の王である。ついに私はこれを確信した。私はこの地の王として君臨し、隣国との戦争の最後の引き金を引き、ただ唯一生き残った。敵味方問わず全てが灰になった世界で、唯一命を繋いでいたひとりの敵国の捕虜をこの手で撃ち殺した。どの地でも法は絶対的に機能することを欲する。夢から覚めた私は、その法に従い、この無限階層に幽閉された。当然の権利を有して。”

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