かわいい惑星(2)_Kawaii Planet Part 2

 私が朝食を平らげると、それは食器をワゴンに載せて去っていった。ぱたりと扉が閉まる音を背に、私は部屋の中を今一度見回した。この部屋は地球の模倣である、と言われても簡単には腑に落ちない。しかしこれは紛れもない「かわいい」の模倣であり、にわかに信じがたいその話も次第に飲み込めるようになった。むしろ「かわいい」を生み出した人間という生命体としての誇らしさと、その文化を尊重することへの有難さと、この国への親しみとのおもいがざっていた。

 それからの数日で、私はこの国と星について断片的な情報を手に入れた。教育機関はほとんど地球と同じ構造をしているが、よりこの国は前衛的である。国家としての規模は小さいため、政治構造は直接民主制を取っている。ただし、教育機関と同様その体制は若干地球のものとは異なっており、そのすべてを理解できたわけではないが地球のものよりも優れているようにみえた。

 それとは別に、文化推進局と称して「かわいい」の研究が日々行われているという話も聞いた。その背景にはいわゆる産業革命期の無機質さからの脱却がある。産業を発展させるがために過去の文化というものはすべて淘汰された。文献も(ちょうど人間がミイラを燃料として用いていたように)失われたという。あまりに無機質な世界で、あまりに生活が映えなかった。まるで奴隷となり日々荏苒として過ごす国民が増えることが社会問題となり、産業革命における社会システムが見直されるきっかけとなった。その際にも一部では暴動が起こり、一時は国家としての崩壊もあった。それに歯止めをかけたのが、いわば「かわいい」文化であるというのだ。「地球にはよい古諺こげんがありますよね。『かわいいは正義』、これが国家再建でのスローガンだったのです」。残念ながらそれは古諺ではないよ、と口にするのは憚られた。素知らぬ顔をしておいた方がよかろう。


「それにしても、このかわいい文化は地球でも現代に確立したように思えるのだけど。つまり、十数年――」ふと隣で国を案内するに訪ねかけて言い淀んだ。地球人の尺度である「年」はこの国で通用するのだろう? 結果としてそれは杞憂に終わった。私はこのような回答を得た。「ええ、私たちの国もそのの間で崩壊の危機に瀕したり再建の計画が立ち上がったりしたのです。正確にはこの星に換算すれば廿余年にじゅうよねんです。地球より『年』に当たる期間は短いので」なるほど一年の期間が短ければ、その分発展も早くなるのかもしれない。地球では国家が崩壊するまで七十年かかっているのだから。

「ところでこの国では、はじめ、サイバーパンクの方向性を取ろうとしていたのです。地球のあらゆる国を調べましたら、ニホンの発展が凄まじいと知り、その都市を真似しようと試みたのです。しかし私たちは大きな問題に発展しました」

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