かわいい惑星(1)_Kawaii Planet Part 1

 不時着ですか。それは大変でしたね。どうぞどうぞ、よければ私たちの国へ寄って行ってくださいな。地球からですよね? 地球のことはよく知っていますよ。ほら、あそこにそびえたつ山、あの上に地球を観測するための巨大望遠鏡があるんです。

 はそういうと、ついてこいと言わんばかりに都度振り向きながら私から離れていった。実を言えば、私はついていくべきか躊躇していた。その宇宙人が――いわゆるSF小説に出てくるように――私に対して常に友好的であると断定はできない。地球を観測するほどの生体だ、私を解剖してニンゲンの調査をおっぱじめるかもしれない。しかし仮についていかなかったとして、私が生きるすべは到底ない。右も左もわからないこの星では、食料はおろか水分すら陸に調達できないだろう。ええいままよ、仮に解剖されたとてそれは決して無駄には終わらぬ。の知的好奇心に貢献できるのだから、決して無駄死にではなかろう。かのようにして私はそのちんまりとした生物についていくことにした。


 数日後、私は研究所へ送られることはなく晴れて自由の身となった。それまでの間は不時着の際に負傷した、軽い打撲の治療に当たっていた。やはりどのような生命体であろうが医療とはあまり変わらないものらしい、地球にいたときと大して変わらない処置を施され、国営の宿泊施設に通された。

 室内に入って目についたのは、目に余るほどのパステルカラーのグッズの数々。ソファ(もちろんこれは便宜上の呼称だ。この星にはこの星なりの呼び方がある)の上にはクッションが三、四つばかり並べてある。ラタンに似たバスケットがゴミ箱として設置されており、部屋の隅にはビューローがちょこんと据えられている。反対には広々とした窓があり、その手前のベッドからは遥か下に街の喧騒を感じられる。天井の証明はほのかに甘い色をしており、床にはライオンの鬣のような剛毛なクッションが敷かれている。それを踏むたびに芝生を裸足で歩くような心持になる。

 一体どうしてここまでの宿泊施設がこの星に出来上がったのか、そして私がなぜこのような場所に通されたのか、あまりに見当がつかない。こうしてベッドに大の字になり目をつむると、よもやすべてが幻想で実家のベッドの上にいると錯覚する。


 トットッという柔らかなノックの音で私は目が覚めた。「どうです、お体の調子は」という優しい声で、私はここが地球ではなく別の星だと思い起こさせられる。重たい体を起こすと、扉の前へと趣き戸を開ける。「よかった。大事には至っておられませんね。朝食をお届けいたしました。昨晩は夕食もお召しにならず、ずいぶんお眠りになっておられるようでしたからおなかがすいていることでしょう?」

 「ああ、どうもおせわさまです。わざわざ」寝起きの間延びした声でそう口にして、いささか申し訳なくなる。訓練生時代の長官の言葉をふと思い出す。もし異星人にであったならば、歴然とした態度でなくとも礼儀はわきまえていなくてはならないというのが長官の口癖だった。それがどのような生物であろうと。

「ところで、きっとこの星についていろいろと気になっているのではありませんか?」それは訊ねてきた。「ニンゲンとは、疑問があると眉間に皺がよると聞いていますが」

「ああ」

「それはこの星……というかこの国の風貌についてでしょう? よければ朝食をお召しになっているあいだ、それについてお話ししましょうか」


 それの語る処によれば、この国のほとんどは、地球の文化をオマージュしたものであるという。なるほどやけにかわいいものであふれかえっているのか、道理で地球を彷彿とさせる国である。「私たちは、その『カワイイ』をよく研究したのです。そのために、地球のインターネットまで閲覧できるようにして、全てを網羅する分析システムまで構築し、その挙句にこの国の文化ができたのです」

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