恋人

「麻美に彼氏が!?」

先程帰宅したノアが唐突に告げたそれはまさに晴天の霹靂だった、幼稚園の頃から幼なじみの麻美は一度も男の話しなど聞いた事が無かった。

「まだ彼氏かは定かでは無いが、繁華街を男と連れ立っているとジョゼフからの連絡だ」

「麻美についに彼氏が・・・お赤飯の炊き方調べなきゃ」

「sekihaen?関取の話しではない、今ジョゼフに尾行させている、行くか?」

「え!ダメだよ!若い2人はそっとしとかなきゃ!」

「だがこのままその男と暮らすと言い出したらどうする、俺達追い出されるぞ」

「そんなヒモみたいな事言わなくても・・・でもそうだね、こっちも心算が必要だもんね、チラッと見に行こうか」

下衆な考えだとは承知の上で僕達はノアのバイクで繁華街に向かう事にした。

夕方の薄暗くなった街に煌々と街灯が道を照らしていて、イルミネーションの様に光輝いていた。この中をカップルが歩くにはデートと言って差し支えなかろう

「どこだ」

ノアが不意に声を上げる、ヘルメットに内蔵されたマイクに話し掛けているのだろう。

「この先を右か」

丁度T字路に当たる道を右に曲がろうとした時、人影が現れ急ブレーキを掛けた、咄嗟の事に目眩がしたが、その人が怪我が無いかまじまじと見ると麻美と中年の男だった。

「あれ?麻美?」

「ジョゼフ、接近しすぎだ」

マイクに向かいノアは静かに怒りを表した

「あ?え?その声信斗とノア?」

「知り合いか?」

中年男性は麻美の顔を覗き込んだ、親密なのかもしれない

「うちの下宿人です、信斗こんなところでどうしたの?」

「いや!その!デート中にごめんね!そのーちょっと通り掛かっただけというか・・あのー素敵な彼氏だね!」

必死に取り繕ってみたが麻美の顔はみるみる般若の様になってゆく、無理もない逢瀬の邪魔をしてしまったのだ

「この方は課長だ!取引帰りだよ!謝れ!課長!失礼して申し訳ありません!」

「いやいや若いとそう言う事もあるだろう」

課長と呼ばれた男性はまんざらでも無さそうに愛想良く笑った

僕はノアと見つめ合い、この後の顛末を想像し恐怖した

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