第3話 今日も社畜
「ごめんね秋月君。今日も、残ってくれて、助かります」
声のした方へ顔を向けると、女性主任が「助かる」と言った表情で立っていた。
「いいえ」
このやり取りも、もう耳にタコだった。主任は、自分の役目を果たしたと内心思っているように俺には思えた。
残業をしてもらっていることへの申し訳なさはきっとない。残業は日常的なもので、仕方のないもの。と言うのが本音だと思う。
(本当に、申し訳ないと思ってんなら、残業しないでいい方法を本気で考えろよ)
心の内で悪態をつく。
そもそも、残業をお願いしている相手も、大体決まっている。独身男性で頼みやすい人。その一人が俺だった。
正直、予定があるわけでもない、彼女もいない。明確な断る理由がないのは事実だった。
頼まれた仕事が終わると、時間は20時を回っていた。会社の職員出入り口の廊下はすでに暗くなっている。俺の他にも遅くまで働いていた社員がちょうど、出入り口の扉を開けていた。
会社から駅までは徒歩10分。外に出ると11月の寒さに、俺は首を引っ込めた。駅に着くと、各駅停車の電車の時間まで15分の待ち。
俺は駅に隣接している書店に足を運んで、ビジネス書の棚を物色した。
「無駄のない時間術」「ノートが仕事を加速させる」「断る技術」「繊細さんのカルテ」などなど。
「断る技術」の本を手に取り、目次をさらっと確認する。立ち読みをしていると、15分はあっという間に過ぎた。一本遅らせて、電車に乗ることにする。
本は結局買うことなく、元の場所に戻して、駅の改札を抜けた。
駅のホームでスマホを取り出し、YouTubeチャンネルを確認。登録してる中で、最新のものを一つ選んで、ワイヤレスイヤホンで試聴を開始する。
(この人たちは、一体、いくら稼いでいるのだろう)
チャンネル登録者数や試聴回数を見るたびに、俺はそう思わずにはいられない。
(俺もいつかフロー所得を得て、FIREしたい)
思うだけでは叶わない。ことは分かっていても、行動に移すまでは至っていない。
降りる駅は、各駅停車で二つ目の駅だ。すぐに着いて、駅を出て、すぐそばのコンビニに今日も足を運ぶ。
「いらっしゃいませ〜今日もご利用ありがとうございます」
入ってすぐのレジから若い女の子の声。アニメのキャラクターが大きなパネルの中で、客の対応をしている。
この前見た時とは髪型が変わっていた。
AIレジについては、最近ニュースでも話題になっていた。人材不足の解消や人件費の削減に効果的とのことで、数年もすれば無人レジが可能となるだろうと、いう内容だった。
「山田さんはいつもサラダを買っていて、健康的ですね」
「どうも、ありがとう」
「私も、もっと野菜をとるようにしないと」
(会話をしている!)
俺は思わず立ち止まって、レジ前でやりとりしている男性を見た。
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