目覚めと出逢い

第14話

 第一王女ミラーによって暗黒の牢屋に閉じ込められたケンジ。ケンジは長い期間をその闇の中で過ごすこととなる。


 一方、第一王女ミラーや騎士達はというと、初めの頃は牢屋の中を魔術で監視していてケンジの反応を見て一喜一憂していたが、途中からケンジが反応をしなくなると騎士達にある命令を出した。


 それは、ケンジの朝と夜のご飯の時間をランダムに変える事と蝋燭の支給を辞めることだった。これによってケンジの新しい反応を見ようとしたが、ケンジは特に反応することはなく次第に第一王女は興味を無くしていった。


 第一王女がケンジから興味を無くしてからは、ケンジを世話する騎士達の間でこんな提案がされた。“反応の無くなったケンジを発狂させる案はないか?”と、騎士達は遊び半分で色々な提案をしていく。


 一人の騎士が言った。五感をひとつずつ奪って行くのはどうだろうと、五感全てを奪えば発狂して喚き散らす様が見れるのでは?と。


 視覚は、牢屋を覆う闇と蝋燭の支給を辞めた事で奪えている。

 嗅覚は、トイレに施されている生活魔術をさらに応用して重ねがけする事で奪えるだろう。

 聴覚も、ケンジ自体の声は既に魔術で封じているので、嗅覚同様に魔術を牢屋とその周辺にかける事で奪える。

 触覚と味覚に関しては、ケンジに直接魔術を施さなければ封じることが出来ないので後回しにしていく。


 そうして、騎士達が飽きるまで様々な案を試されたがケンジが発狂することは無く、依然として何の反応も示さなかった。現実の時間として約1年と半年程ケンジの牢屋での生活は続いた。が、唯一時間を確認する手段だったご飯の時間をズラされたことにより、ケンジの体感時間は膨大なモノとなり既に狂い始めていた。


 しかし、狂い始めていたいたケンジだが意識まで狂っていた訳では無かった。自らの誓いと強すぎる復讐心がケンジをケンジたらしめていた。






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 五感を奪われ時間の感覚が無くなって尚、魔力感知と魔力操作を絶えず繰り返していた。ケンジは魔力感知で自分の身体の頭から腕、胴、脚と各部に留まらず、指先や血管、果ては細胞の一つ一つと魔力が宿る全てを入念に感知していた。そして感知した魔力を思い通りに、または無意識に動かしていく。


 魔力操作を繰り返す中で、自らの立てた誓いが、まるでドロドロとした呪いのように身体の内に溶けて混ざる感覚に陥る。そうして狂ってしまいそうな自分を無理やり引き戻すのだ。嗚呼ケンジよ、僕は誰よりも強くなるんだろう。と、今ここで狂っている時間はないだろう……と。



 光の届かない深い闇の中で、ケンジの片方の目がゆっくりと開いてゆく。


 片目を開けてもそこには闇があるだけ、なのだが違和感がある様に視える、自分の前方に2つの存在を感じられた。一つは、薄らと視える白い獣……もう一つは、闇の中だというのにやけにはっきり視える黒い獣……。


 ケンジは直感的にどちらかを選ばなければと考えた。しばらく悩んでいると、二つの存在がケンジの近くに寄ってきていた……早く選べと催促しているように。




 …………………………ケンジの出した答えとは。


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