第15話

 ケンジはゆっくり目を覚ました。意識が覚醒してゆく。目を開く前にケンジは異変に気付いて驚愕する……自分は外にいると。草木の匂いがする、手には土の感触がある、太陽の温かさを感じる、目を開けていない瞼の向こう側がとても眩しい。

 ケンジは徐々に片目を開いてゆく、太陽の暖かい光に目を慣らすようにゆっくりと。そして、そのまま身体を起こそうとした時に全身の痛みについ声が漏れた。そう、声が出たのだ。


「ようやく起きたか。まだ本調子ではないだろう? ゆっくり寝ていなさい」


 声のする方を見ると、そこには白銀に輝く巨大な狐の魔獣がこちらを見ていた。僕は一瞬、魔獣の美しさに目を奪われそうになるがハッとして起きあがろうとする。

 すると、狐の魔獣は尻尾を上手く使い僕の頭をそっと撫でると起きあがろうとする僕の身体を優しく抑えて


「驚くのも無理はない。たが、一旦こちらの話を聞いてくれ。森に瀕死で捨てられたお前を拾ってきたのだ」


「……? 捨てられていた?」


 瀕死で捨てられていた?僕は牢屋の中に居たはずだ。……いつからか意識を失っていたのか?


「私の子供が狩の途中に森の入り口付近を通った際に、騎士達がお前を森の中に捨てている所を見たらしくてな。どうすればいいか分からずに、私のところに連れてきたのだ。これも何かの縁と思い、薬草を飲ませ回復の魔法を掛けてここに寝かせていたと言うわけだ」


「そんなことが……助けて頂いてありがとうございます」


「気まぐれで助けただけだ。……それよりもお前は私を前にしても怖がらぬのだな」


「……まだ頭が混乱しているので怖がってない様に見えるんですよ。怖くない訳じゃないんですけどね」


「それもそうか。私は子供の様子を見てくるから安静にしているといい。ここにはほかの魔獣や魔物は来ないからな」


「……わかりました。ありがとうございます」


 狐の魔獣はとても優しく話をしてくれた。何故人間と同じ言葉で話せるのか、そもそも話を信じてもいいのかはまだ分からない。でも、この世界に来て関わってきた“人間”より、初めて会った狐の魔獣の方が優しく感じた。感じてしまった。


 ここは狐の魔獣の巣?だろうか、柔らかい葉っぱを積んでベッドのようにしている所に寝かされている。今は狐の魔獣の言うとおりに眠る。


 日本と違って、この世界は月や星がよく見える。美しい白銀の狐と話していたせいだろうか、眼前に広がる夜空や月がとても白く輝いて見えた。





_______________________





 狐の魔獣にお世話になり始めて1週間程が経った。魔獣の名前はビャクというらしい。子供に名前は無く魔獣としての格が十分に高まった時に自然と名前が浮かんで来るそうだ。


 僕はビャクにこの世界とは別の世界から転移してきた事、意識があるところまでを話した。話を聞いたビャクが、僕に酷いことをした人間達を噛み殺して来るって言った時は驚いた。何とか説得したけれど、ビャクが僕の為に怒ってくれたのが分かって嬉しかった。


 ビャクに改めてこの世界の歴史や知識、常識なんかを教えて貰った。人間でも魔獣でも強さが伴わなければずっと弱者のまま、搾取される側から抜け出せないと教えてくれた。


「ケンジ、これから私がお前の面倒を見てあげる。ケンジが強くなれば、降りかかる火の粉を振り払って前に進むことができる筈だ」


「僕は誰よりも強くなりたい。これは本心だよ、でも……前にステータスを鑑定した時に職業もスキルもステータスの値もどれも弱かったので……」


「もちろん強くなれる! ……と言いたいところだが、ケンジのステータスを見て見ないとこには分からないからな。…………ちょっと待ってろ…………あった! この水晶は鑑定ができる水晶だ。王国で見たのもこれじゃないか?」


「あ! これです! でも同じ水晶をどうしてビャクが持ってるの?」


「私がまだ名前を授かる前に、王国から盗んできたのだ。この子ができる前は随分とやんちゃをしていてな」


「やんちゃって……これ国宝レベルじゃ?」


「まぁ、昔のことだから時効と言うものだな! いいからケンジのステータスを見てみよう」


英 健二

職業:村人

Lv:1

SP(スキルポイント):50

攻撃:10

防御:10

魔力:50

素早さ:10

適応力:50

スキル:拳術、体術、魔力支配


「これは、なるほどの…………」


「改めてステータスを見ると、以前は気づかなかったけどHPやMPはないんだね……どうしてかビャクは知ってる?」


「うーん……HPは体力で、MPは魔力を数値化したもので合ってるか?……どうして無いかだが、私は知らんな。気にしたこともなかったが、こちらの世界では感覚を頼りにしているな。例えば、自分の中にある魔力を感知してあと何回、どの魔術が使えるだとか敵の攻撃を受けた時も傷の場所や深さ、流した血の量なんかで判断している。ケンジの元いた世界ではHPやMPの値を見て判断していたのか?」


「僕のいた世界にステータスなんてのは無いよ! でも、小説や漫画の話は前にしたよね? 小説や漫画に異世界転生や転移する様な物語があって、そこではHPやMPなんかのステータスが出てくるんだ」


「そうだったのか……ケンジのステータスの話に戻ろうか。数値を見れば確かに弱い。だが、ケンジの持つ三つのスキルが気になるな。鍛えていけば十分に強くなれると私は思うぞ」


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