第4話 勇者、殺される?

 全く休めないまま、北東に隠された魔法の扉を見つけたのは再び夜だった。

 正直疲れと眠気で魔王どころじゃない。


 この人と一緒にいるといずれ死ぬ。そう思いながら前にいる男を見やる。

 男は不敵な笑みを浮かべていた。


「ふん、これが魔法の扉か」


 目の前にあるのは自分の背丈をはるかに超える巨大な扉だ。

 そうとしか表現できない。

 森の中に突然扉だけがそびえている様はまさに異様。扉は古びているものの、かなり頑丈そうな素材でできている。厚みも数十センチ以上あり、まず破壊するのは不可能だろう。


 魔王でも壊せないんじゃないのか。これ。


 こおおおおお。


 試しにどうのつるぎで突くと、キンキンと甲高い音が返ってきた。


「さすがに無理ですよ、こりゃ」


 こおおおおおあ。


 扉にはかぎ穴がある。

 これが村長がいっていた鍵を差し込むところなのだろう。


 こおおおおお。


「一回引き返して鍵を入手しましょうよ」


「こおおおおおおっ」


「……」


 さっきから、こおおお、ってうるさいなって思ったら、

 この男の呼吸音だった。

 妙なポーズで集中しているようだ。


「ファイヤあああああああああ」


 男が木の杖を勢いよく扉に突き刺す。


 まさか!



 ばきぃ!



「……」


 派手な音がして、男の手元から何かが飛び散った。

 よくみると杖がへし折れ、粉砕されたようだ。だが、扉には傷一つない。


「ちっ」


 男はそう舌打ちすると折れた杖を投げ捨てた。


「で、でしょ? だから一回出直しましょうよ?」


 俺はにっこり笑顔を向けたが、男は見もしない。

 いやチラ見した。なんでだろう。嫌な予感しかしない。



 こおおおおおあ。


 再び集中し始めている。

 杖折れたんですけど。


 こおおおおおぉおぉ。


 素手で行っちゃうのかな。手痛そう。


 俺だったら諦めるね。


 こおおおおおぉおぉ。



 男が風のように動いた。


 俺のほうに。


「え?」


 殺される!


 そう考えて目をつむった。


 ごめんよ、母さん。俺ここまでみたいだ。

 最初の島から出れなかったよ。仲間が悪かったと思うんだ。

 今度生まれ変わったら、セクシー遊び人3人にしよう。

 あれ、でも死んだら生き返るんだっけ。ふっかつのじゅもん?


「ファイヤあああああああああ」


 どぅああああ!


 先ほどとは違う音。

 なかなか死んだ感じも、痛みも感じず、訝しんだ俺は恐る恐る目を開く。

 するとそこには開いた扉と。不敵な笑みを浮かべる男が待っていた。


「どうだ!小僧。我に不可能などない」


 しかし、俺は扉が開いたことよりも、男の手のものに吸い込まれていた。

 どうのつるぎ。

 見たことがある。


「と、取られてる」


 呆然としながら自分の腰を探る。


「ああ、返す」


 ぽいと投げられたどうのつるぎは、地面に落ちる。

 半分なくなって。


「あ、あああ……あああ! 俺の装備がなくなってる。ぬののふくだけじゃねえか!」


 俺は頭を抱えて絶叫した。


 勇者 レベル1 おとこ

 装備 ぬののふく、折れたどうのつるぎ

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