第3話 勇者、盗賊に間違えられる

 最寄り村に到着したときはすっかり夜は明けていた。

 一寸先も見えないほどの濃い闇の中、俺は魔物の気配のたびに戦闘態勢とっていた。

 その結果、とても疲れている。

 へとへとだ。


 握りしめるどうのつるぎを、鞘に納める。

 手の平は汗でべっとりだ。


「ついた……」


 ようやく一息つける。


 ちなみに結構魔物にも襲われた。

 人間の頭蓋骨をかかえる化け物ガラスや、人間の腕ほどもある角を生やしたウサギどもだ。無数にたかる粘性スライムにも襲われた。

 まあ、一瞬で奴が撃退したんだけど。


 と目の前にそびえる背筋を見やる。


 ちなみに俺はまだレベル1だ。

 なにせ、何もしていない。


 男は村に到着するやいなや、


「さて、魔王はどこにいる?」


 真顔で聞いてきた。

 ノープラン!


「……なんでこの村に来たんですか。魔王の居場所といわれているのは、はるか彼方にある山々の中といわれてますけど――」

「いくぞ」


 断言する。


「いやいやいや……どうやっていくんっすか。そもそも今俺たちがいるのは、閉じられた島なんです。周囲が海なんですよ? わかりますか、う。み!」


 村の向こうに見える大海原を指さす。


「しかもこの国の海は、ものすごく荒れやすくて船が出せないんですよ。だからこんな小国なのに、長年他国からの侵略を受けずに生き残ってきた――」


 興奮していい捲し立てていたのだが、気が付くと男がいない。


「――聞いてねえ!?」


 あんなに目立つやつなのだが。

 村の奥で筋肉が見えた気がして、そちらに向かう。


 それにしても


「勇者ご一行が到着したっていうのに、誰も歓迎していない」


 村人たちともすれ違っているのだが、笑顔どころかあからさまに不審げだ。

 ちらり、ちらりとこちらの様子を伺っているようでもある。


 どうのつるぎ

 ぬののふく


 もしかして、俺の服装のせい? 勇者に見えない? どっちかっていうと、危険物所持して歩いている人?


 だからあのケチ王様、とっととエクスカリバー渡せばいいものを。


「うわああああああああ」


 村の奥で悲鳴があがり、駆け付けると、

 俺の魔法使いが年老いた村人を締め上げていた。

 強大な筋肉から発揮される膂力で宙ずりにしている。


 ◆


「そ、村長!」

「あなた!」


 その周囲には、おばあさんと、村人。

 あー。

 この人村長だわ。あと奥さんと、村人?


「も、申し訳ございません、我々には差し上げられるお金などないのです」


 首を絞められながらも、村長が弱弱しくいった。

 なに、この状況。

 俺たち盗賊になってる?


 それを証拠に、俺が家の中に入った途端に、村人が怯えた様子を見せている。


「いいいい、いやいや、俺たちそんなもの求めてないです、ね?」


 勇者として、いや人として魔法使いの男を止めに掛かる。

 これじゃ、勇者どころかお尋ね者になるんですけどーっ!


「我は道を尋ねているだけだ」

「み、道を尋ねてる感ゼロ!」


 ようやく村長は降ろされた。

 せき込みながらも復帰している。さすが村長。

 魔法使いは腕組みをして偉そうに問う。


「どうやってこの島を出ればよい? さすがの我も、お荷物を連れて海は渡れぬ」


 え、お荷物って、俺?

 村長は怯えながらも話し出す。


「実はこの村の北東に、大陸に通ずる秘密の通路があるといわれています。しかし、その通路は魔法で封じられた扉があり、誰も破れないのです。噂によると、南にある今は使われていない塔の中に、扉を開くための鍵があるといわれています」


 おおお! なんかRPGぽくなってきた。

 俺は顔を輝かせると、村長の手を握る。


「ありがとうございます! 俺勇者は絶対に魔王を倒して見せます!」


 振り返ると、筋肉男は既に家を出ていた。

 あんたほんと躊躇ねえわ。感謝もないし。


「じゃあ、南の塔にいってみますか。鍵があるらしいし」


 そういうと、男はぎろりと俺を睨んだ。

 いちいち怖いよね、あんた。


「いらぬ」

「……は?」


 男は邪悪な笑みを浮かべると哄笑をあげた。


「ふはははは、我の魔法で扉など打ち破ってみせよう」

「……は?」


 RPG舐めんな。

 そういおうとしたのが、やはり俺に拒否権などなかった。


 勇者 レベル1 おとこ

 装備 ぬののふく、どうのつるぎ

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