第2話 ほのおのじゅもん
「やめとけ! 死ぬぞ!」
顔面を蒼白にした門番の兵士に止められたのが、あの人は止まらない。
ずるずると引きずられるようにして、城下町から出るとそこに広がるのは、闇。
魔王が復活して以来、魔物どもは活発化している。そして、特に凶暴性が増すのが夜間だ。
いくらこの辺の魔物が比較的弱いといっても油断できない。
なにせ俺はレベル1なのだから。
男が突然止まる。
恐る恐る様子を伺うと、男は嗤っていた。
「くっくっく」
こいつの笑い方こええ……
ぞっとした。
「見ろ」
言われて男の背中越しに見えるのは、青いどろどろとしたゲル状の魔物だった。
「す、スライムですね」
いわずとしれた最弱モンスター。
しかしただの村人レベルなら死んでしまうこともある。
意外と油断ならないのだ。
すると、ぎろりと男がこちらを睨んだ。
「な、なんですか……」
「刮目せよ!」
そうすると男はやおら、木の杖を取り出した。
「ファイヤー!!」
炎系の基礎呪文を唱えながら、スライムに向かって走り――
杖を突き刺した。
「ぴぎいいおおお」
あまりの勢いにスライムはその体を引き裂かれ、無残に四散した。
「……え?」
俺は目を疑った。
いま、魔法を使ったか?
杖を突き刺しただけに見えたのだが。
「どうだ、小僧」
男は杖の先にこびりついた死骸を振り払うと、こちらに顔を向け、にやりと口元を歪めた。
勇者から小僧へ降格。
「我が魔法は? これで安心しただろう」
いや不安だらけです。
あんた魔法使いじゃないだろ。やっぱ見た目通り戦士だろ。
いや狂戦士?
「ふむ。善は急げだな。次の村へいくぞ」
突然男はそう言いだした。
どういう思考で、そうなったのかがさっぱりわからん。
「い、いまから?」
「何か問題でもあるのか?」
「よよよ夜ですよ、何も見えませんよ。松明もないですし」
全力で次の村へは行かないほうがいいことをいうのだが、
「いらぬ」
「は?」
「我が指先の炎は常に闇を照らしている」
ねえよ。
ただ指だよ。
「いくぞ」
「やめてええええええええええ」
再び俺は首根っこを掴まえられ、引きずられていくのだった。
勇者 レベル1 おとこ
装備 ぬののふく、どうのつるぎ
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