第23話 GW⑦ 二泊三日の旅行(大阪編)

 GW七日目。二泊三日の旅行も今日が最終日だ。

 俺達は手短に朝食を済ませ大阪駅に向かった。

 

「こんな朝早くから向かってどこ行くの?」


 道中の電車内で神戸牛の弁当を食べながら日菜乃が訊ねてきた。

 

「それは着いてからのお楽しみだな」


「相変わらず、秘密にするのが好きなんだね」


 秘密にされるのが余程嫌なのか、日菜乃がそっぽを向いてしまった。

 それでも顔から滲み出るワクワクの表情だけは隠しきれていなかった。


 昨日のこともあったし、機嫌が気になってはいたが今の日菜乃を見る限りでは問題ないだろう。最終日で暗い表情されても困るからな。

 今日も目一杯楽しめそうなので安心した。


        *


 大阪駅に着いた俺達は更に電車を乗り継ぎ、とある駅で下車した。

 

「……悠くん、ここって……もしかして」


 駅名を見た日菜乃が呆然と立ち尽くして俺の方を見た。


「そうだよ、USJだよ」


「――やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 日菜乃は感極まり、その場で大きく何度も飛び跳ねた。


「お、おい、日菜乃。こんな駅のホームのど真ん中でやめろよ」


「だって!ずっと来たかったんだもん!めっちゃ嬉しいぃぃぃぃぃ!」


 日菜乃のジャンプはさらに加速した。


「……日菜乃、やめないなら帰るぞ……」


「……行きましょう、悠人様」


 日菜乃はジャンプをぴたりと止めた。

 さっさと言う事聞いてくれればもっと楽なんだけどな。ほんとに。

 そんなありえもしない事を思いながらUSJへと向かった。


 着くと、そこにはよくテレビやネットで見る『UNIVERSAL』と書いてある大きな地球儀らしき物があった。俺も見るのは初めてだ。


「悠くん!帰りにここで写真撮ろうね!約束だからね!」


「ああ、分かった分かった」


 そして事前に買っておいたチケットで俺達は入場した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!すっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」


「……いやぁ……これは……すげぇな」

 

 パークの広さと圧倒的な世界観に俺達はすぐに魅了された。

 日本の技術ってやっぱすげえ。

 ……これをUSJに来てまで思う俺は職業病だろうか。

 

「さて、日菜乃。どれからまわ……」


 話し終わる前に日菜乃は俺の腕を強引に掴み走り出した。


「ちょ、ひなの!」


「わっははははは!悠くん行くよ!目標は絶叫系制覇だぁぁぁぁぁ!」


 こうなってしまった日菜乃をもう誰も止めることは出来ないだろう……。

 警備員さんお願いです、決して日菜乃の前に現れないでください。

 間違いなく吹き飛ばされます。触るな、危険です。


 現在の時刻が九時、退場する予定の時刻が四時。

 多分俺は死ぬんじゃないだろうか。


「……ひなの、さすがに……ちょっと……やすまない?」

 

 案の定、俺は疲れて呼吸が乱れた。


「え~、まだ乗るやついっぱいあるよ~。人も多いし並ばなきゃいけないしさ」


「……たしかに……それは……そうなんだが」


 もうすでに五つ乗っただろうか。さすがに乗った時は変わらず楽しい。

 だがそこからが地獄なのだ。乗り終わると休む暇なく日菜乃に強引に走らされて次の絶叫に向かう。休めるのは並ぶ時だけ。

 しかも人が多いからか酸素が薄く感じて休んだ気がしなかった。


「……ひなの、そろそろ……ひるごはん……たべないか?」


 時刻は十二時になる。休むには絶好の好機(チャンス)だと思った。


「ここでは食べないよ?それに今なら皆がお昼ご飯を食べに行くから乗るなら今だよ」


「は?食べないの?お前、USJ出た後そんなに時間ないぞ?」


 世界が滅ぶ寸前でもご飯食ってそうなやつが「食べない」なんて言うのか⁉

 俺は自分の耳が壊れたのかと思った。


「別にお持ち帰りで新幹線の中で食べれば良いじゃん?」


――その手があったか。


 いやいや納得してる場合ではない。

 つまり、昼ご飯は食べない。俺の休みはない。


「ほら!悠くん!時間ないんだから行くよ!」


「頼むからぁぁぁぁ!少しだけ休ませてくれぇぇぇぇぇぇ!」


        *


「じゃあ最後にあそこで写真撮ろうね♡……ってあれれ?悠くんはどこ?」


「……ここ……だ」


「もーう、そんなとこで横になっちゃダメでしょ。他のお客さんの迷惑でしょ?」


「……だ、だれの……せいだと……おもって……んだ」


「わ・た・し♡」


「……」


 もう怒る体力も気力も俺からは無くなった。

 燃え尽きて灰になりそうだ。


「ほら~、悠くん~、早く起きて~」


「……むり」


「しょうがないな~」


 そう言って日菜乃は俺に近付きペットボトルの水ぶっかけた。


「……ぶはっ!てめぇ!何しやがる!」


「あははは!怒った怒った!そして起き上がった!」


 日菜乃は腹を抱えて大声で笑った。

 俺達は近くにいた女性に声を掛け写真を撮って貰うことにした。


「ったく、最後までお前に遊ばれちまった」


「良いじゃん、それが私達だもん」


「……あぁ、そうだな」


『じゃあ撮りますね!』


「「おねがいしまーす」」


――悠くん、連れてきてくれてありがとね。


 小さな声で日菜乃が何を言ったかは聞き取れなかった。

 その直後に俺の頬にキスをしてきた。


『カシャ!』


 カメラのシャッター音が響き、見事に日菜乃のキス写真が撮れてしまった。

 撮って貰った女性に「ラブラブで羨ましいですね♡」と最後に言われたのは言うまでも無い。頼むから人前でやるのは勘弁してほしい。俺は恥ずかしいんだ。


        *


 帰りの新幹線、日菜乃は大量の大阪名物を食べていた。


「美味しい~!さすが大阪!さすが本場!違うよね~!」

 

 いか焼き、たこ焼き、豚まん、お好み焼き、ステーキ重、きんつばといつも通りの食べっぷりだ。

 新幹線に乗る前にも二軒寄ってきたんだが凄かった。


 最初にふぐ鍋のお店でふぐ鍋を四人前、ふぐ刺しは二人前を一人で食べた。

 あと唐揚げも何個食べただろうか。分からない。


 次の串カツ屋さんの日菜乃は本当に恐ろしかった。

 新幹線の時間までただひたすら食い続けていた。

 その目は明らかに獲物を狙う肉食獣そのものだった。

 結果、百五十本という記録をたたき出して店の中は騒然となった。

 

「……なぁ、日菜乃。今回の旅行はどうだった?」


「ひょはっは!(よかった!)」

 

「だから!飲み込んでから喋れって何回言えば分かんだ!」


 せっかく良い雰囲気を作ろうと思ったのにこれじゃ台無しだ。


「……すっごく楽しかったよ。悠くんと二人で色んな所に行けて、美味しい物を沢山食べて、いっぱいふざけたりもしたし。今まで生きてきた中で一番幸せな時間だった。本当に連れてきてくれてありがとう」


「そう改まって言われると恥ずかしいな。でも満足してくれたなら良かった」


「悠くんのおかげで自分がこれからどう生きていけばいいのかも分かったし、私にとっては今回の旅行は自分探しの旅にもなった。これからもいっぱい迷惑掛けると思うけどよろしくね!」


「俺の方こそよろしく頼む。俺が出来ない事を日菜乃が、日菜乃が出来ない事を俺がやる。そういう約束だ。頼りにしてるからな」


「うん!任せて下さいな!」


 こうして俺達の二泊三日の旅行は幕を閉じた。

 明日はGW最終日。特に予定は決めていない。

 家でのんびりと過ごす事になるだろう……。

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