第24話 GW⑧ 最終日はゆっくりと?

 GW最終日。

 午前九時、俺と日菜乃は家でナマケモノのようにベッドに横たわっていた。

 何もやる気が起きない、さすがに動きすぎて疲れた。


「日菜乃、起きてるか?」


「……」


――――返事がない。ただの屍(しかばね)のようだ。


 おっと、これは失礼しました。訂正しよう。まだ熟睡中のようだ。

 俺は日菜乃を起こさないようにそっとベッドから起きてリビングに向かった。


 昨日、結局帰ってきてから日菜乃は俺の家に入ってきて一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝た。ここまではもうお約束になりつつあるな。しかし、女子高校生と一緒にお風呂に入って寝るなんて1ヶ月前の俺じゃとても考えられないな。


 旅館やホテルのお風呂やベッド広くていいが、やはり自分の家の方が使い慣れていて落ち着く。

 でもそんな事ではこの先、旅行に行くのが嫌になってしまいそうな気がする。そんな浅はかで愚かな考えを出来るのも休みならではだ。


 そんなGWも今日で終わりだ。濃い一週間だった。水族館、動物園、遊園地、そして二泊三日の旅行と俺達は西へ東へと大忙しだった。

 写真も沢山撮って、お土産も買って発送したから今週辺りには全部届くはずだ。


 リビングに着いた俺はすぐにSwitchを起動させマリカーを始めた。やっぱりこれだよな。リモコンに触れた時の安心感とテレビに映るマ〇オ達に俺は興奮する。

 日菜乃が起きたら間違いなく「一緒にプレーする」と言うのが分かっているので、少し腕を温めておこうかと思った矢先にあの音が聞こえてきた。


『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』


 日菜乃は当然、寝室なのだから渚なのは確かだ。

 さすがに今日は勘弁して欲しいな。ゆっくりしたい、渚に付き合ってる暇はない。それでもインターホンは鳴り止まない。やはり無理か。


 俺は足早に玄関へと向かった。


「あー!おにーやっと出た!一体何処に行って何してたの!?」


そこには眉間に皺を寄せて鋭い視線で俺を睨む渚、そしてよく見慣れた男が一人立っていた。


「……渚は分かる。なぜお前がいる、颯太」


「渚ちゃんがさ、『おにーと連絡が取れないの!』ってLINEして来たからさ、今こうしているわけよ」


颯太が呆れた顔でこちらを見て、両手を広げて「やれやれ」と首を横に振っていた。


「三日前に私来たのに誰も出ないし!一昨日来ても誰もいないし!昨日来ても誰もいないからおにー死んじゃったのかと思ったじゃん!」


「ごめんごめん、日菜乃と旅行行ってたんだよ。」


「どこまで?」


「広島と京都と大阪、関西方面」


「――――なんで!私を誘ってくれなかったの!」


 渚の怒りが頂点に達した。謎の青いオーラが出ている。目も何か光り輝いている。完全に人間の域を超えた、これはもう止められない。だから言うのが嫌だったんだよ。

 初めて見る渚の覚醒モードに颯太もちょっと引いていた。それはそうだ、こんな女の子は普通いない。


「……渚?落ち着いて聞いてくれよ?これは日菜乃のための旅行だったんだからな?だから2人で行ってきたんだよ。ほら、命も助けて貰ったしその御礼も兼ねてな?頼むから分かってくれ」


俺は渚に深々と頭を下げて同意を求めた。


「そういうことならしょうがないかな。でも歳下の、しかも女子高校生と2人っきりで旅行はどうかと思うよ!?」


「そこは俺の彼女って事で多めに見て下さい、お願いします、頼みます」


「ちなみに何も無かったんでしょうね?」


「……」


 俺は思わず黙り込んでしまった。


「おにー?まさかセックスまでしたんじゃないでしょうね!?」


「お、お前!朝から何言ってんだ!」


 妹の口から「セックス」と言う言葉が出てきたのも驚きだったが、こんな朝早くからそんな話は頼むからやめてくれ。ご近所さんにもご迷惑がかかる。


「じゃあ、性行為までしたの?」


「言葉変えただけじゃねぇか!意味合いは変わってねぇよ!」


 俺の妹ってこんなに卑猥(ひわい)な子だったっけ。

 そろそろ兄ちゃん悲しくて涙出そうだぞ。


「したの!?してないの!?はっきりして!」


「してません!してないです!」


「ヘタレ悠人」


――――颯太、お前は一体どっちの味方なんだ。


「なんの騒ぎ〜?起きたら悠人くんいないし〜」


日菜乃起床。相変わらずタイミングの悪いこと。玄関で2人に全て事情を話して追い返した後に日菜乃とゆっくり過ごす俺のプランが台無しだ。


「あれ?渚と颯太さんじゃないですか〜おはです〜」


「日菜乃、あんた「おはです〜」じゃないわよ!また一緒に寝てたわけ!?」


「だってここは私の第二の家だし」


 待て待て、違うだろ。お前の第一の家は宮城の実家だし、第二の家は俺の隣だ。


「いいから早く家に帰りなさいよ!」


「あー、そうだね。悠くんちょっと着替えてくるね」


 そう言うと日菜乃はパジャマ姿で外に出た。


「ちょっとあんた、その格好でどこ行くのよ?」


「隣の部屋だけど?」


「なんで隣に行く必要があるわけ?」


「なんでって、隣が私の部屋だから、それじゃ」


「いやいやいや!ちょっと待ちなさいよ!」


 日菜乃は家の中に入ってしまった。当然のことだが、視線は俺に向けられる。


「……突然、引っ越してきたんだ。しょうがないだろ」


「「これはしょうがないで済む話じゃないだろ!」」


渚と颯太の息の合った怒鳴りが響き渡った……。


        *


 結局ゆっくり過ごす予定が総崩れ。渚と颯太の加入により、全員で俺の部屋でゲーム大会が開かれた。大人人数で遊ぶのなんて何年ぶりだっただろうか。

 そもそもが俺は二人以上で遊んだことが今まであっただろうか。

 俺は他人とのコミュニケーションを極力避けて生きてきた人間だ。前言った通り、友達も颯太しかいない。だが、そうやって生きてきた俺の周りには今は支えてくれる三人の存在がある。この三人のおかげでこうして俺は生きていられる。

 この三人と永(なが)く生活出来るように俺は自分の命を大事にしようと心に決めた。


「ちょいちょい!悠くん!手加減してよ!」


「だから手加減なんかしねぇって!」


「あ〜!渚まで!酷い!」


「あんたには怨(うらみ)みしかないからね!とことんボコボコにやらせてもらうわよ!」


「皆、平和にやろうよ」


「そんな事言いながらも、颯太さんも私ばっかり狙ってるじゃないですか〜!」


 日菜乃のゲームの弱さは4人の中で断トツだった。

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