第21話 GW⑥ 二泊三日の旅行(京都編)

 GW六日目。俺は昨日の日菜乃の言葉で全く眠れず寝不足だった。


 『わたし、ゆうくんのこと……すき……そつぎょうしたら……すぐけっこんする……』


 いきなり結婚するなんて言われてどうしたらいいのか分からなかった。

 しかも、卒業したらすぐ。


 物事にはちゃんと順序というものがあるが、俺と日菜乃が出会ってから今に至るまでの過程はとても複雑でとても他人に軽々しく口に出来るものでない。


 俺達が付き合っていることは、俺と日菜乃の間では今では当たり前で何の違和感も不自然さもない。だが世間体で見れば俺達の関係は当たり前ではなく、本当に日菜乃の親にこの関係がバレてしまった時は日菜乃がどんな言い分をしたとしても犯罪者として俺は訴えられるだろう。


 日菜乃自身の気持ちが昨日の時点では分からない。

 結婚すると言ってすぐに寝落ちされた俺の気持ちを考えて欲しい。


「……日菜乃、お前は本当に……結婚したいのか……」


 俺は横でよだれを垂らしながら幸せそうに寝ている日菜乃の頭をそっと撫でた。

 頭に触れた瞬間、日菜乃が起きた。


「おふぁよ~、悠くん♡」


「あ、ああ。おはよう」


「悠くんどうしたの?朝からそんな険しい顔して?」


「い、いや、別に大したことじゃないから。気にするな」


「……そう?分かった」


 俺は今すぐにでも昨日の真相を知りたかったが朝からこんな話をするのも嫌だったのでやめた。


「……あと、日菜乃。前」


「……まえ?……ありゃりゃ」


 日菜乃の浴衣がはだけて胸が丸見えになっていた。


「もーう、悠くんのえっち♡」


「お前が見せてきたんだろうが」


「……ねぇ、悠くん?」


 そう言うと日菜乃は両手を広げて俺の前まで来た。


「……ちょっとだけ……私の身体に……いたずら……して……?」


 俺は軽く息を吞み、前髪を手で押し上げ、


「少しだけだぞ」


「……うん♡」


 そして俺達は互いの唇を重ね合わせ、軽い愛の営みを始めたのであった。


        *

 

 営みを終えた俺達は掻いた汗を流すため一緒にお風呂に入ったあと、バイキング形式の朝食を取り、俺達は旅館をチェックアウトして広島駅へと出発した。


「いや~、まさか朝から悠くんにあんなに触られるなんて思わなかったよ」


「お前が誘ってきたんだろうが」


「でもさすがに今回は前回の比じゃなかったよ?もしかして昨日私が寝落ちしちゃって触れるタイミング無くなってずっとうずうずしてた?」


 ……俺は確かに我慢はしていた。

 だが、あんな女神みたいな微笑みで言われたらブレーキなんて効くはずがないだろう。


「早くあれ以上のことが出来るようになるといいね♡」


「……それはお前が成人してからだな」


「え~、高校卒業してすぐでいいじゃん~。なんなら今すぐでもいいよ♡」


「嫌だ。絶対に」


 日に日にエスカレートしていく日菜乃の性欲をどうにかしなければならないと思う反面、少し楽しみにしている犯罪者丸出しの考えの俺も少なからず存在した。


        *


 広島駅に着いた俺達は今日の目的地である京都に向けて山陽新幹線に乗った。

 一時間半で京都に着いた。ここでも車をレンタルし俺達は京都観光を始めた。


「とりあえず、伏見稲荷大社にいくか」


「りょうかい~!」


 車を走らせて約十分ほどで伏見稲荷大社に着いた。ここは千本鳥居で有名なのは知っていたが、綺麗に並んだ鳥居を見て俺達は驚き言葉が出なかった。ぐるりと山を巡り終えて近くに喫茶店があったため、そこでぜんざいやパフェやかき氷を食べて一休みをして満喫した。


「なあ日菜乃、これからお寺観光とグルメ観光どっちが良い?」


「グルメ!グルメ!」


 日菜乃が迷わず即答した。


 正直な話、有名どころを見て回っていたらご飯を食べる時間が無くなりそうだったのだ。

 時刻も十二時になりそうだったので昼ご飯を食べに行くことにした。ここからが日菜乃のショータイムの始まりだ。


 まず京都名物の牛カツをまず食べにいったのだが、日菜乃はサーロイン、ロース、ヒレ、タンの四種類を一枚ずつ注文した。


「ミディアムのお肉に、サクサクの衣、ご飯が止まらないよ~」


 二日目のスタートも絶好調で三十分もかからずに全部平らげた。


「よーし!次行こう!」


 そのあと、日菜乃は鯖寿司を二人前食べ、京都ラーメンを三店舗食べ回った。

 俺も日菜乃に付き合って食べているせいか少しずつ食べる量が増えてきた。


 昼飯の最後はゆばを食べ、俺達はデザート巡りを始めた。抹茶が大好きな日菜乃が凄く抹茶を食べたがっていたので種類が豊富にあるお店に連れて行った。


 抹茶パフェ、モナカ、生どら焼き、ティラミス、ロールケーキなど抹茶が付く物を日菜乃はひたすらに食べまくった。


「どれもこれも美味しいけど、このティラミスが一番美味しい!あと二十個追加で!」


 相変わらず自分のペースで食べ進め、ここでも化け物級の食べっぷりを見せた。


        *


 午後四時に旅館に着いた。

 今回も日菜乃の希望で温泉露天風呂付きの客室を選んだ。広さも部屋の設備も広島の時と特に変わりなかったので気にする点は一つもなかった。


「じゃあ、悠くん。お風呂一緒に入っちゃおうよ」


 部屋に入って早々、日菜乃が当たり前のように言ってきた。

 なんか、こう、もっと多少の恥じらいとかがあってもいい気がするのではとは思ったが、日菜乃にそんな事求めても無駄なのは百も承知なので諦めた。


「……しょうがねぇ、入るか」


「しょうがねぇとはなにさ、こんな美少女と一緒に風呂に入れるなんて大変幸せなことなんだよ?」


「自分で美少女とか言っちゃうんだな……」


 俺は苦笑いで言い返した。

 日菜乃が美少女なのはその通りなのでそこは否定しない。


 今日は特にいかがわしい事をするわけでもなく、ただお互いの身体を洗い合いして、ゆっくりと湯船に浸かった。何度も言うが家のお風呂よりも広くてほんとに心地良い。風呂だけリフォームしたい。


「……日菜乃、俺お金貯まったら風呂が広い家に引っ越すわ」


「……それがいいね。私と一緒に住める家ね、楽しみにしてる」


「お前は一体話のどこを聞いていたんだ、おい」


 俺は思わずツッコんだ。


「もうめんどくさいから一緒に暮らそうよ。隣人なんだし別に一緒に住んでるのと変わんないじゃん」


「俺とお前が今の時点で一緒に暮らしたら問題が多すぎる」


「確かにそうだけどさ~」


「はい!この話は終わりな!」


 俺は話を区切るべく勢いよく湯船から出た。


 風呂から上がった俺達は夕食を食べに会場に向かった。

 そこにはさすが京都と言ったところだろうか、美しい和食の料理が並んでいた。

 俺達は日本の文化を堪能しつつ、お腹一杯食べた。


 部屋に戻り、俺達は昨日出来なかったスマブラとスプラトゥーンをやり始めた。

 実はこっそりswitchを持ってきたのである。

 売店で買った大量のお菓子を食べながら俺達は夜を楽しんだ。


「んん~!やっぱり勝てないぃぃぃぃぃぃ!」


「そんな簡単に負けられないわ」


「こっち来る前もかなり練習したのに~」


「戻ってからもっと練習してください」


 京都でも俺は王者の貫禄を見せつけた。

 時計を見ると時刻はもう日付変わって一時だった。


「明日も早いしそろそろ寝るぞ」


「はーい」


 俺がベッドに入ると、日菜乃も同じく俺のベッドに入ってきた。

 こいつは自分のベッドで寝る気はないのか。

 そう思いながらも俺は部屋の電気を消した。


「おやすみ、日菜乃」


「うん。おやすみ。悠くん」


 ……電気を消して二十分経っただろうか。俺は考え事をしていた。

 昨日の日菜乃の一言だ。

 あんな事を言われてから今日一日ずっと俺はどこか上の空だった。

 俺達はまだ付き合って一ヶ月。

 ましてや成人男性と女子高生の間柄、どうすればいいのか分からなかった。


「……日菜乃、まだ起きてるか」


「……うん、起きてるよ。どうしたの?」


「一つ、お前に確かめたい事があってな」


「なあに?」



「日菜乃は俺と本気で結婚したいのか?」



 長く続く沈黙、日菜乃はすぐには答えようとはしなかった。

 昨日の夜の日菜乃の言葉は嘘なのか、本当なのか。

 真実は目の前にあるがそう簡単には手に入らなそうだ。





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