第20話 GW⑤ 二泊三日の旅行(広島編)
俺は日菜乃のデザートが食べたいという要望に応えるため、おすすめのカフェに向かっている途中だった。
だが、助手席に座っていた日菜乃がスマホの画面を見せてきて、
「ねぇ、このラーメン食べたい!」
「……は?お前デザートどうすんだよ?」
急な進路変更に俺は唖然とした。
「デザートは……、ラーメン食べてからで♡」
「分かった。ただ尾道だから、ここから一時間以上は掛かるからな?大丈夫か?」
「無問題(もうまんたい)」
日本語で喋れよ。呪〇廻戦の影響か?
「眠くなったら寝ても構わねぇから。ゆっくりしてろ」
「ふぁ~い」
もう既に眠そうだった。こいつ多分、秒で寝るぞ。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!」
この美少女から発せられたとは思いたくない爆音のいびきに俺は頭を抱えた。
もう少し、可愛いいびきを想像していたのだが……。
*
高速道路を使って無事に尾道に着くことが出来た。
そして俺達は日菜乃が調べていたラーメン屋さんに入った。
「んん~、この醬油スープに表面上に浮く液体の脂と背脂のこってり感が最高……!」
日菜乃が頬に右手を当ててうっとりした表情をしていた。
「ああ、そうだな」
「やっぱり食べに来て正解だった……」
確かにこってりしているがそこまでしつこい脂ではなく食べやすかった。
しかし、あれだけのお好み焼きを食べた後にこの脂の多いラーメン、日菜乃の胃袋はどうなっているのだろう。俺だったら絶対に吐くのだが。
「日菜乃、おまえ今腹何分目だ?」
「そうだね~。三、四ってとこかな」
「ばけもんかよ……」
正直、六か七くらいはいってるのかと思ったんだが。
「じゃあ、戻ったらデザートも食べるんだな?」
「当たり前じゃん!」
「そ、そうか。なら早く戻るか」
「うん!運転よろしく~!」
美味しい物をいっぱい食べ幸せそうな日菜乃の顔を見て、俺は「任せろ」としか言うしかなかった。
*
広島市内に戻ってきた俺達は、ようやく日菜乃の最初の要望であったデザートを食べにカフェに再び向かっていた。
俺は日菜乃がこれ以上何も言わない事を祈った。
今度こそカフェに着くことができ、俺は深いため息と共に早く席に座ってひと息つきたい気持ちに駆られていた。日菜乃には好きなだけ食べて貰って俺はゆっくりコーヒーでも飲んでゆっくりしよう。
入店した俺達は、その落ち着いた温かみのあるオシャレな店の雰囲気に心が安らいだ。ゆったりと座りたかったためソファーの席を選択した。
「じゃあ好きなの食べてくれ。俺はのんびりしてるから」
「おっけ~」
そしてここから再び、日菜乃の怒涛のラッシュが始まるのであった。
メニューを一通り見た日菜乃は店員さんを呼び注文を済ませた。
五分くらい注文していただろうか、店員さんが世界の終わりを告げるような表情で注文を聞いていた。
しばらくすると、注文した料理が次々とテーブルに運ばれてきた。
「えへへ、やっぱり甘いのはこれくらい食べなくちゃね!」
運ばれてきた料理は、以前俺と一緒に入った喫茶店の時の三倍の量はあった。
パンケーキを四種類、ストロベリーパフェを二種類、チョコバナナのパフェ、コーヒーフロート、クレープを五種類とテーブルいっぱいに並んでいた。
まさか全部をこの美少女が一人で食べるとは俺以外誰も思っていないだろう。
「いっただっきまーす!」
圧巻だった。食べ始めて三十分で日菜乃は全ての料理を食べ終えてしまった。周りに座っていた他のお客さんも日菜乃の食べる姿に釘付けだった。
店員さんもキッチン越しからこちらをずっと見ていた。
「日菜乃、もう一回聞いていい?」
「ん?なーに?」
「お前、今腹何分目?」
「今のでようやく五ってとこかな!」
「……そうか」
俺はこれ以上言葉出なかった……。
このあと日菜乃は最後に一番美味しかったというストロベリーパフェとコーヒーフロートを食べ、俺達はカフェを後にした。
*
午後五時、俺達は旅館に着いた。
素早くチェックインを済ませ、部屋へと向かった。
「うわ~!ひっろ~い!」
日菜乃が気分良さそうにスキップしながら部屋の中へと入って行った。
部屋の広さは三十畳くらいだろうか。
露天風呂付の和式客室で設備に関しては文句の付けようがないほど完璧だ。
「俺、運転して疲れたし風呂入っちゃうわ」
「あ、それなら私も入る!」
「おう、じゃあ一緒に向かうか」
「え?そこにお風呂あるじゃん」
日菜乃が指さした先にはこの部屋にある露天風呂だった。
「ま、まさか……」
「一緒に入ろ、悠くん♡」
この部屋を選んだ時点で俺は既に逃げ道を失っていたのだった。
「ふぅ~、気持ちいいね」
「ああ、そうだな」
沈む夕日を見ながら俺達は広々としたヒノキ風呂でくつろいでいた。
家のお風呂とは違い、隣同士で俺達は並んで入っていた。足を目一杯伸ばし肩までお湯に浸かっていると、今までの疲れが吹き飛ぶような感じがした。
「悠くん、今日はおっぱい揉まなくていいの?」
「今はそんな体力無い」
「『今は』ってことは揉みたい気持ちはあるんだね」
日菜乃が口元を隠しながらくすっと笑った。
「彼女のおっぱいが触りたくて何が悪いんだ!」
俺は日菜乃の顔にお湯をぶっかけた。
「……んんっ!やったな!この!」
日菜乃も負けじとやり返してきた。
――――どこまで来ても俺達は変わらず俺達だった。
晩御飯も豪華だった。旬の魚をふんだんに使ったフルコースに俺と日菜乃の箸は止まらなかった。やはり海の近くの旅館を選んで正解だった。
晩御飯を食べ終わり、俺達はベッドに倒れ込んだ。
「美味しかった~、もう食べられないよ~」
さすがの日菜乃もお腹いっぱいになったようだ。
「俺はお前が沢山食べて幸せそうにしてる姿が見れて良かったよ。明日も美味しいお店連れてくから楽しみにしててな」
「わーい、ゆうくんだいすき」
日菜乃の声が徐々に小さくなってきた。
「日菜乃、少し早いけど寝るか」
「……うん」
「じゃあ部屋の電気消すぞ」
電気を消して俺がベッドに入ると日菜乃が俺のベッドに潜り込んできた。
「どうした?日菜乃?」
「……いっしょに……ねるの」
「いいよ、それじゃあおやす……」
おやすみと言う前に日菜乃の唇が俺の唇に触れた。
「わたし、ゆうくんのこと……すき……そつぎょうしたら……すぐけっこんする……」
日菜乃はキスをした後、そう言い残し眠ってしまった。
あまりの突然の告白に動揺した。寝ぼけて言っていたのか、本心で言ったことなのか気になって俺は全く眠れない広島の夜を過ごすのであった。
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