忍法・空蝉の術3
「ねえちょっと、いろいろ聞きたいことがあるのだけれど」
面高はゼナリッタから睨まれているのに気づいた。美人の静かな怒り顔を、気圧されつつもつい見つめてしまうのは男子の素直な反応だ。
「——あのねえ、わたしは怒っているの。あなたが死んだと思って、どれだけ心配したと思っているの?」
「姫、これから世話になるのですから……」
フクロウの小言は届かなかったようだ。緑金色の髪は感情と連動するように波打っている。
「あなた何で最初から戦わないの!? 何で武器を持っていないなんて嘘をついたの!? あなたさっき死んでなかった!? 増えてなかった!?」
そのどれもが日本人としては当たり前すぎてあまり質問されないものだ。面高は少しうれしかった。だが、いつの間にか防災無線が鳴りやんでいるのにも気付く。間もなく一般人が来てしまう。
「ええと……そういうのは中でゆっくりと座りながらにしません?」
「いいから! いま! ここで! わたしがちゃんと納得できるように説明なさい!」
魔人は10万年以上もの寿命をもつが、もしかしてこの娘は見た目どおりの15歳くらいなのでは——面高はそんな疑念を持った。
だが、今後も友好的に接してもらうには今ここで話をした方がいいだろう。少年は観念し、嘆息した。
「すいません、ちゃんと説明しますんで。最初は、えーと……」
「なぜ最初から戦わないか!」
「ああはい、ええと、将軍庁特措法っていう法律がありまして、将軍は政府の許可なく戦っちゃいけないんです。あれ、政府だっけ、総理だっけ……まあともかくそれで普段は相手におとなしく帰ってもらうようにしてるんです。だけど例外もあって、それが『将軍の生命財産が侵害された場合に限り、将軍は本人の意思により戦力を行使できるものとする』っていう条文で。だから最初は手を出せなくて」
現代の大将軍といえども、所詮は国民のひとりでしかない。過剰防衛や無許可の武力行使など法律違反は、平等に罰せられるのだ。
「なにそれ……」
ゼナリッタは怒りを通り越してあきれているようだった。
「——今はまだ魔界の繋ぎ目も狭いし、魔人は武器を持ち込めません。でも近い将来、間違いなく軍事兵器を手にしてやってくるでしょう。そうしたらあなた……仮死状態ではすまないのよ?」
「ええまあ、それに関してはみんなが法律を変えようと、政府とあれこれやってるみたいで」
「なんて悠長なことを……まあいいわ、次。なんで武器を持っていないなんて嘘をついたの?」
「それも将軍庁特措法で『将軍は政府の許可がない限り、武器の携帯を禁じる』ってありまして」
ゼナリッタは面高が握っている剥き身の刀を足先でつつくいた。彼女の怒りは和らぎ、好奇心の方が勝っているような雰囲気だ。
「その刀は武器じゃないの?」
「あっ」
面高がそれに気づいたと同時に、両手に握られた刀はみるみる縮んでいく。最終的には、手のひらの上に小指の先サイズの錆びた鉄片だけが残った。
「——これは手品です」
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