第19話:鈍感さんの告白じゃらし。(幕間②)
俺が水葉を誘拐した先。そこは──、
『猫じゃらし』というお洒落な看板が立っているただのカフェだった。
お店の外からでも、コーヒーや甘いスイーツの匂いが鼻に入り、初めて彼女と放課後を過ごした時のことを思い出す。
あの日は雨が急に降り出して、雨宿り感覚もあって中に入ったという感じが強かった。
もちろん、あの時にはもう既に、俺は彼女のことが好きだった。
それは、一緒に同じ傘に無理やり入れられて、引き摺られて、不適切発言で結局はビンタで吹き飛んだあの日のこと──。
帰り道を一緒に歩いて、辿り着いたこの場所で、二人で同じ『キャットラテ』を飲んだあの瞬間。
彼女が俺のことを信用してくれているとわかったあの瞬間。
『カフェ友』と言う少し変わった関係を築くことのできたあの瞬間に、俺は誓ったんだったな。
──『もし、日野に奢ってもらおうとする日が来たとしたら、それは俺が財布を忘れちゃった時か、それか、俺の恋人になってくれた時かな』
別に今回も俺が水葉に奢っても良いというか、好きな子の前なので、なるべくこちらが少しでもカッコつけれるように、こちらに払わせていただきたい。流石に財布を忘れるに限っては論外だ。けしからん。
まあ、それはさておき、問題は『恋人』というなんとも俺にとっては無縁の、身の程知らずとも捉えられるワードについてだ。
まさかの俺一人の片想いじゃなかった!!
こんなラノベみたいな両片想いラブコメを俺たちはこれまで繰りひろげていたというのか……。
そんなことが脳内でぐるぐると回っていると、不意に店員さんが話し掛けてきた。
「おふたり様なので、あちらの席でよろしいでしょうか?」
「「は、はい。じゃあ、そこで……」」
気付いたら、店員さんへの返答に、水葉と声が重なりあってしまっていた。
それを見て、店員さんは初々しいカップルを見るような目で優しく微笑んで、「ご注文が決まればお知らせください」と言ってくれた。
正直、高校生は補導されてもおかしくない時間帯だったので、バレて追い返されたりしないか、少々ドキっとしていた。
本当に大丈夫だったようで何よりだ。
これも水葉のコーデが気合い入っているおかげか、俺たちは大人のように見えているのだろう。
水葉はハーフアップにした髪から、少しだけ顔の両側に垂れている髪をくるくるっとネイルをした指先で、いじりながら席に着いた。
座る瞬間に、ラベンダーのロングチュールスカートがふわっと空に浮かび上がり、綺麗な弧を描きながら揺れる姿。
オフホワイトのトップスから、ちょっぴり貧相ながらも盛り上がっている胸元。
まだ子供らしさも残っているのかもしれないが、今はそんな彼女の全部が、とても綺麗な大人の姿に見えた。
俺たちは、木で作られたオシャレな丸テーブルを挟み、お互いに向き合うような状態になっている。
「メニュー、何にしようか……」
柔らかそう且つ、ピンク色の口紅で艶の出ている彼女の唇は微かに震えている。
「そうだな、やっぱ『キャットラテ』とか……」
店内に入ってからというもの、どんどん会話が、ぎこちなくなっている気がする。
正直、両想いであったという事実がわかってから告白するというのは、ちょっぴりダサい気もする。
でも、少しだけ遠回りをした分だけ、聴こえた声がある。
──自分の心を傷付けたくない。
──この二人の関係を終わらせたくない。
俺は心の中からいるもうひとりの自分の声を少しだけ聴いてあげることが出来た。
それは、彼女もきっと同じなんだろう。
人間は結局、ひとりでしか生きていけない。
それでも、ひとりだけど、ひとりじゃないよって、今なら言える気がする。
他人の心はわからない。
それでも、わかるよって、今ならきっと寄り添うことが出来る。
これから先、大丈夫かどうかなんてわからない。
でも、もうきっと多分大丈夫なんだ。
世界が変わったわけじゃない。何かが変わったとしても、俺は多分、気が付くことが出来ない。
なら、もう答えは決まっている──。
メニューが決まった俺たちは注文をし、店員さんが去った後のテーブルには、二人の呼吸の音だけが取り残されている。
ずっと、指をスカートの前でもじもじとさせ、顔を俯かせている水葉を真っ直ぐ見つめた俺は、喉を震わせた。
もう、これ以上は自分の心を焦らすことなんて出来ないから──。
「水葉──」
「は、葉瀬くん……」
俺の声に反応した水葉が顔をあげる。そして、頬が赤く染まりながらも、何とか今にも泳いで何処かに行ってしまいそうな目を合わせてくれた。
──よしっ!
「水葉。俺はお前のことが好きだ。だから、俺と付き合ってください!!」
俺は目を瞑って、うつ伏せに近い状態になりながら、手を前に差し伸べた。
瞼の内側の世界は何色だっただろうか。
この瞬間が、どれほどの長さであったのか、俺は感じ取ることが出来ていないようだ。
一生分のようにも、一度脈打つことの出来る程の一瞬であったのかもわからない。
俺の両手はひんやりとした、それでも温かな柔らかい感触で、優しく包まれた。
「私も葉瀬くんが好き。大好きです。だから、私をあなたの彼女にしてください」
世界一可愛くて、美しく、天使のような優しい声の持ち主は、俺にそう言ってくれた。
そのすぐ後、俺が目を開こうとした瞬間、ガラッと椅子が動いた音がした。
彼女が椅子から立ち上がったのだろう。
それはわかったけど、一体どうしたんだ?何か落としたものを拾おうとしたのか。
そうして、目をゆっくりと開き終えた瞬間、俺は目の前に広がっていた景色に心臓を奪われていた。
「……今、誰も見てないから」
「えっ……ふ、むっ!?」
「んっ」
俺の唇には、甘い香りが仄かに香る柔らかい彼女の桃色の唇が当たっていた。
唇と唇だけが薄く重なり合う、お互いまだ慣れていない、初めての口付け──。
これは、絶対事故とかじゃないもんな……。
俺……今、水葉とキスして──。
俺の朦朧とした意識が正常に戻った頃には、彼女は自分の席に着き直していた。
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『あんまやらない作者の後書きコーナー♪』
ハイッ!ここに新しいカップルが誕生しました!!盛大な拍手で、皆さんお出迎えください!!!!
これも、ここまで稚拙なこの文章を読んでくださった『あなた』のおかげです。
本当にありがとうございます。
そして、これからも物語はまだ続くので、拙作並びに作者をよろしくお願い致します。
最後に、外でキスするのはやめましょう。
実際に見た事はないですけど笑
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